↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探索者試験に十回落ちた無資格の俺、人助けで捕まったら年下の人気配信者の補助にされ、なぜか毎回バズってる  作者: 余田ナツ
1期 十回落ちた無資格、補助になる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/26

第12話 工事中

『【式典まであと六日】七番ダンジョン、今どうなってる?』


「はーい、リタです! 今日は、式典の準備が進む七番(ななばん)ダンジョンを、見て回りまーす!」


 次の日リタはいつもより早い時間から広間で配信を始めた。


 式典の準備を見に行く配信。表向きはそういうことになっている。


 本当の狙いはあの木箱の中身だ。ゆうべ箱の温かさのことを話すとリタは即決だった。配信にしてしまえば、どこをうろついても怪しまれない、と。


 俺もあの箱の中で鳴ったものが気にならないと言えば、嘘になる。


 横からリタの腕の画面をのぞく。


>昨日の告知見たよ


>公開測定たのしみ


>ニキ今日も眠そう


 広間の奥の壁ぎわにはもう鉄の枠の部材が山と積まれていた。式典の舞台を組むのだろう。


 その山のすぐ裏で俺は足を止めた。


 古い脇道の口に鉄の棒が渡してある。棒から下がった札に「本部 工事中 立ち入り禁止」の字。


「何よ、これ」


 リタがドローンを札に向ける。


 俺は棒の向こうの暗がりに目をこらした。


 この脇道なら作業で何度も通った。広間の奥からゆるい下り坂で二階の奥へ抜ける、人一人がやっと通れる細い道だ。ふだんは作業員しか使わない。


 それが、台車が二台すれ違えるほどに広げられていた。削った岩肌はまだ白い。


 なのに、柱が一本も立っていない。


 崩落の日の天井が頭をよぎった。


 通路を広げれば天井を支えるものがなくなる。だからまず柱を立てる。作業員が最初に教わることだ。


 広げたのは幅だけ。何かを通すための道だ。


 足もとの白い岩の粉の上に車輪の跡が二本、奥へと続いていた。


 昨日のあの台車も広間の奥へ向かっていた。


 腕の画面でもコメントが札に気づきはじめる。


>本部の札だ


>式典の工事?


>ニキの目が作業員になってる


 一階を抜けて坂道を二階へ下りる。


 札はあちこちにあった。どれも新しく、どれも脇道の口をふさいでいる。


 腕の画面に目をやると、見ている連中も同じことを思ったらしい。


>札多くね?


>工事中ばっかり


>式典って広間でやるんだよな?


「ほんとよね。式典は広間なのに、なんで二階まで札だらけなのよ」


 リタがコメントにうなずいて口をとがらせた。


 止めかけてやめた。いつもどおり騒いでいるほうが、かえって怪しまれない。


 二階の通路を奥まで進んだところでまた札があった。


 広間の奥から下ってくるあの広げた脇道。その出口がちょうどこのあたりにある。


 札にドローンの明かりが届いた、その時だった。


 棒の奥でガリと音がした。


 岩をかじる音。崩落の日に壁の中から聞こえたのと同じだ。


「リタ、下がれ」


 暗がりから灰色の頭が飛び出した。


 岩食(いわく)いだ。大型犬ほどの体が鉄の棒の下をくぐって通路に転がり出る。すぐそばの俺たちには目もくれず、ドローンの明かりを嫌うように、通路の突き当たりのほうへ駆けだした。ドローンが白い明かりでその背中を追う。


 十歩ほど先に真新しい装備の二人連れがいた。受かったばかりの初心者だろう。後ろは行き止まりで立ちすくんだまま動けずにいる。


「伏せ!」


 リタが右の手のひらを岩食いに向け、床へ押しつけるように下ろす。


 岩食いが床にべたりと伏せた。


 だがリタの重さは相手が遠いほど弱い。岩食いはそれでも前歯を岩に立て、体を引きずって二人へ寄っていく。


「止まらない……! 無資格!」


 燃やせば終わる。だがあとから俺が言えばリタの重さは消える。女王の時に思い知った。重さが消えればこいつは燃えながらでも跳ぶだろう。


 ――崩落の日リタは、消えた重さを何度でもかけ直してきた。


「俺が言ったら、すぐかけ直せ!」


「任せて!」


「燃えろ」


 灰色の体が炎に包まれた。


 同時に重さが消えたのか岩食いが、燃えながら跳び上がる。二人連れが悲鳴を上げた。


「伏せ!」


 リタがもう一度手のひらを振り下ろした。宙の岩食いが床に打ちつけられる。


 岩食いは炎の中でひとしきりもがき、動かなくなった。


「た、助かりました!」


 二人連れが何度も頭を下げながら上の階へ逃げていく。


「……消えるって分かってて、言ったのね」


 リタが右の手を握ったり開いたりしながら、こっちを見た。


「消えるなら、かけ直してもらえばいい」


 腕の画面が一気に流れはじめた。


>また岩食い? 迷い込んだ一匹とは


>岩食いが出るとこ、いつもニキいるよな


>消えてもかけ直せばいいのか


>本部の工事のとこから出てきたぞ


「ちょっと協会! また岩食いなんだけど! 迷い込んだ一匹って、何匹いるのよ!」


 リタが、焦げた岩食いにドローンを寄せていく。


 俺は札のほうへ向き直った。


 鉄の棒の向こうは暗い。だがその奥が、ぼんやりと明るかった。


 協会の明かりじゃない。もっと弱いにじむような光だ。


 二、三歩、札に近づく。


 短い通路の先に教室ほどの部屋が開けていた。その床に丸い灰色の石が二、三十も並んでいる。ソフトボールほどの大きさで、その一つ一つが内側から青白くかすかに光っていた。そのまわりには、ふたの開いた木箱がいくつも置いてある。


 女王の魔石の、脈を打つような赤い光とはまるで違う。


 肩ごしに振り返ると、ドローンの明かりはリタと岩食いの死骸に向いたままだった。こっちを映しているものは何もない。


 リタを呼べばドローンもついてくる。配信に映れば本部にも知られる。本部には知られるな、とマスターにも言われている。


 札の手前で足を止めた。この棒を越えれば本部の区域に勝手に入ったことになる。


 昨日、本部の木箱の中で鳴ったのは――これか。


お読みいただき、ありがとうございます!


「続きが気になる!」と思っていただけたら、

ブックマークと、この下の☆☆☆☆☆から評価をいただけると励みになります。


毎日7時、12時、19時に更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。