↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探索者試験に十回落ちた無資格の俺、人助けで捕まったら年下の人気配信者の補助にされ、なぜか毎回バズってる  作者: 余田ナツ
1期 十回落ちた無資格、補助になる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/23

第10話 Black Cat

「見なさい、無資格! 一位よ、一位!」


 リタが受付の横の掲示板を指さして俺の袖を引っ張った。


 朝っぱらから腕輪に引っ張られて来てみればこれだ。


 協会七番(ななばん)支部の月間ランキング。貼り出されたばかりの紙の一番上の行にあるのは、赤城(あかぎ)リタ。そのあとに、かっこでくくって補助、黒瀬迅(じん)。二番目の行はエリザ。


 支部長室の聴き取りから三日。今日は月末だ。


 名前の横の点を見比べると一位の点だけ、けたが一つ多い。女王の点だろう。補助の手柄は監督に入るから俺の名前はかっこの中にある。


 審判の日、廊下でリタは「月末の支部のランキングで、エリザより上に立つ」と言っていた。それを本当に果たしてしまった。


 リタの頭の上ではもうドローンが赤いランプをともしている。俺が着く前から配信を始めていたらしい。リタがそのドローンを掲示板に向ける。


 リタの左の前腕に目をやると、スマホの画面をもうコメントが流れていた。


>一位おめでとう!


>補助:黒瀬迅


>ニキ、かっこの中で草


>女王の点がでかすぎる


「……朝から、騒がしいこと」


 振り向くと、ニールの腕につかまってエリザが歩いてくるところだった。くじいた右の足首はまだ包帯でくるまれていた。額のガーゼはひと回り小さくなっている。今日は白いドローンを連れていない。


 エリザは掲示板の前で足を止め、二番目の行をしばらく黙って見上げていた。


「……次は、負けませんわ」


「何度でも勝ってあげるわよ」


 リタが胸を張る。エリザはふいと横を向いた。


「おめでとうございます」


 その横でニールがエリザのぶんまでというように深く頭を下げた。


 その時リタが「あ」と小さく声をもらした。


 腕の画面の端で登録者の数が、ちょうど百万に変わったところだった。


「ひゃ……百万……⁉」


 コメントの流れが一気に速くなる。


>100万きたああああ


>おめでとう!


>一位と100万が同じ日で草


>エリザ様の目の前で達成するの強すぎる


 リタが俺の腕をつかんで揺さぶった。エリザはニールに支えられて入り口のほうへ戻っていく。その背中から高笑いが聞こえた。


「オーホッホッ……痛っ」


 足首に響いたらしい。


~~


 その夜リタに連れられて路地の奥の店の扉をくぐった。


 七番ダンジョンの入り口から歩いて五分ほど。黒く塗った木の扉に白いペンキで、しっぽを立てた猫の輪郭と『Black Cat』の字が描いてある。前は何度も通ったが入るのは初めてだ。


 中は細長い店だった。カウンターに丸い椅子が八つと奥に小さなテーブルが二つ。壁の棚には酒の瓶がずらりと並び、その横に七番ダンジョンの古い地図が貼ってある。隅のテレビでは夜のニュースが女王の切り抜きを流していた。客はまだほかにいなかった。


 カウンターの向こうに熊のような大男がいた。


 五十を過ぎたくらいだろう。頭をつるりとそり上げ、あごには白いものがまじった無精ひげ。黒いシャツの袖をまくった腕は丸太みたいに太い。


「マスター、いつもの! こっちには、ビール。今日は私のおごりよ」


 リタが慣れた様子でカウンターの真ん中に座る。常連らしい。


「昔は、Aランクの探索者だったんだって。けがで引退して、この店を始めたの」


 小声で言われて気づいた。カウンターの中を行き来するたびに、マスターの肩がわずかに左へ沈む。左の脚をかばっているらしい。


「それでね。さっき、支部長から電話があったの」


 リタがカウンターに肘をついてこっちに顔を寄せた。


「三日後に、本部の人が来るんだって。十日後の、ダンジョンが現れて二十年の記念式典に、私たちを呼びたいらしいの。会場は、七番の広間」


「本部が俺に会いたがってるってのは、それか」


「たぶんね。百万人の前に出るチャンスよ」


 俺の前にジョッキが置かれた。


 手を伸ばしかけて気づく。マスターの目が俺の左の手首で止まっていた。腕輪だ。


「……お前の力、スキルじゃねえな」


「測定器にも、毎年そう言われてたよ。スキルの値は、ゼロだ」


「そういう意味じゃねえ」


 マスターはそれきり背を向けてグラスを拭きはじめた。


「何よ、それ。マスター、何か知ってるの?」


 リタが聞いても返事はない。


 スキルじゃない。なら俺のこれは、何だっていうんだ。


 扉の鈴がからんと鳴った。


 入ってきたのは首にタオルをかけた、日に焼けたずんぐりした男だった。作業着の膝に岩の粉が白くこびりついている。


「……班長」


「黒瀬か」


 班長の田所さんは少し迷ってから俺の隣に腰を下ろした。マスターが何も聞かずにグラスを置く。班長もここの常連らしい。


「電話一本でクビにして、悪かったな」


「班長のせいじゃないですよ。登録してない力を使ってたのは、俺です」


「……それとな。お前に、話しておきたいことがある」


 班長は声を落とした。


「崩落の次の日の夜だ。二階の後始末に、うちの班で入った。そしたら、本部の腕章を巻いた連中が、三階のほうから上がってきた。木箱を、二人がかりで抱えてな。重そうに、一階のほうへ運んでいった」


 崩落の次の日の夜なら俺はまだ留置場にいた頃だ。


「夜中に何を運んでるのか聞いたら、調査の資材だとさ。次の日には、本部の人間がうちの会社に来た。見たことは口外するな、言えば七番の仕事は回さない、とな」


「それを、なんで今」


「うちの班が、式典の舞台を組むことになってな。本部の連中が、また七番をうろついてる。……女王の配信も見た。お前があんなもんの前に立ってるのに、俺だけ黙ってるのもな」


 いつの間にか、マスターが拭いていたグラスを置いてこっちを向いていた。


「本部だろうが何だろうが、七番の浅い階で勝手な真似をされるのは、気に入らねえ」


 太い指がカウンターを一つ、とんと打つ。


「デカいヤマだぞ。式典の日までに、本部の連中が何を運んでるのか、突き止めろ。本部には、知られるな」


「やるわ!」


 リタがカウンターに手をついて立ち上がった。


「本部の悪だくみを暴いたら、それこそ歴史に名が残るじゃない」


「声がでけえ」


 マスターがじろりとリタを見る。リタは首をすくめて座り直した。


「待て。俺は、一年、目立たずに――」


「却下」


 ……だろうな。


「だいたい、本部が夜に荷物を運んでたってだけの話だろ」


 マスターは隅のテレビに目をやった。画面の中で岩の鎧の巨体が、ゆっくりと崩れ落ちていく。


「その木箱が三階から上がってきて、四日あとに、三階にあれが出た。よっぽどのことがなけりゃ、女王は巣を出ねえ」


 低い声だった。


「巣で、何かあったんだ」


お読みいただき、ありがとうございます!


「続きが気になる!」と思っていただけたら、

ブックマークと、この下の☆☆☆☆☆から評価をいただけると励みになります。


毎日7時、12時、19時に更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。