幕間 測定器は嘘をつかない
測定器は嘘をつかない。
私はそう信じてこの仕事を続けてきた。
夜の試験室にはだれもいない。明かりを一つだけつけて私は白い台の前に立っていた。
的のあった場所はきれいに片づけられている。黒い砂利はもう一粒も残っていない。
くぼみに手のひらを置く。
画面に数が二つ出た。体の魔力もスキルの値もいつもの私の数だ。
測定器は今日も正しく動いている。
――権藤さん、あなたの役目は、黒瀬君を見張ることです。
支部長の声がまだ耳に残っている。
十も年下の支部長に、黒瀬と赤城の前でああまで言われた。そのあとはエリザたちの前で報告を退けた件まで持ち出された。その件ではあとで一時間も話を聞かれている。
支部の若い職員たちは私と目を合わせようとしない。昼に休憩所の前を通った時には、だれかがスマホを見て笑っていた。その画面から私の声が聞こえた。
『測定器は……嘘を……』
あの切り抜きはもう三百万回再生されているそうだ。
十年前のことを思い出す。
あの日も私はこの台の前にいた。
黒瀬は十八。やせて、背ばかり高く、目だけが妙にまっすぐな若者だった。
画面の数は二つともゼロ。
「測定値、ゼロ」
私がそう告げると黒瀬は台に手を置いたまま言った。
「実技で、見てもらえませんか。見てもらえれば、分かります」
毎年、何人かは同じことを言う。数の出ない者ほど自分には何かがあると信じたがるものだ。
値に届かない者を実技に通せば、いずれダンジョンで命を落とす。測定はそれを防ぐためにある。だから私は通さない。
「測定器は嘘をつかない」
黒瀬はそれきり黙って試験室を出ていった。
次の年もその次の年もあの男は来た。十回来て十回とも、ゼロ。
そして昨日あの男は的を砂利にした。測定器の数はゼロのまま。
私はあの砂利をこの手ですくった。指の間からこぼれ落ちていく感触がまだ手のひらに残っている。
測定器は嘘をつかない。
ならば嘘をついているのは、あの男のほうだ。
測定器に映らない力など、あるはずがない。何か、からくりがある。測定器の目をごまかす何かが。
本部が黒瀬に会いたがっている――支部長はそうも言った。
本部の連中があの男に何を見るつもりかは知らない。だが、からくりがあるのなら、それを暴くのは十一回あの男を測ったこの私だ。
台から手を離す。
画面の数が、すうっと消えた。
お読みいただき、ありがとうございます!
「続きが気になる!」と思っていただけたら、
ブックマークと、この下の☆☆☆☆☆から評価をいただけると励みになります。
毎日7時、12時、19時に更新します。




