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探索者試験に十回落ちた無資格の俺、人助けで捕まったら年下の人気配信者の補助にされ、なぜか毎回バズってる  作者: 余田ナツ
1期 十回落ちた無資格、補助になる

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第9話 規則違反

 目を開けると白い天井が見えた。


 消毒液の臭い。まわりを白いカーテンが囲んでいる。


 協会の、医務室か。


「やっと起きた」


 横を向くとパイプ椅子にリタが腕を組んで座っていた。


「……どれくらい、寝てた」


「ひと晩。もう朝よ」


 体を起こそうとして、やめた。腕が鉛のように重い。魔力は少しずつ戻ってきているようだが。


「エリザは」


「隣。額を切ったのと、足をくじいただけだって」


 リタがカーテンの向こうをあごで示した。


 それから組んでいた腕をほどいて、膝の上で指をいじりはじめる。


「……ありがと」


「何が」


「エリザのこと。あいつ、嫌なやつだけど。死んでいいやつじゃ、ないから」


 リタはそっぽを向いたまま言った。


 エリザとの間に何があったのか俺はまだ聞いていない。それでも、こいつなりに思うところはあるらしい。


「女王の点は、私についたわ。補助の手柄は、監督に入るから」


 そこでリタは口をとがらせた。


「……倒したのは、あんたなのに」


「いいんだよ、それで」


 手柄なんてどうでもいい。ただでさえ目立ちすぎた。


 カーテンが乱暴に引き開けられた。


「目が覚めたか、黒瀬」


 権藤だった。


「支部長がお呼びだ。お前の違反について、聴き取りをする」


 隣のカーテンの向こうで衣ずれの音がした。


~~


 リタの肩を借りて医務室を出た。


 支部長室は受付の奥にある。


 机の向こうに座っていたのは四十がらみの女の人だった。協会の紺の上着に短く切りそろえた黒い髪。眼鏡の奥の目が俺とリタを順に見る。


「七番(ななばん)支部の支部長だ。座ってくれ、黒瀬君。……顔色が悪いな」


 俺とリタが椅子に座ると、権藤は机の横に立ったまま口を開いた。


「黒瀬の違反は、二つです」


 権藤が指を一本立てる。


「一つ。監督官の私が、広間で待てと命じたにもかかわらず、それに背いて三階へ入った」


 もう一本。


「二つ。資格のない者が、人の命に関わる場で力を使った。救助でも禁じられていることは、崩落の件で、本人が一番よく分かっているはずです」


「あの映像が作り物だって話は、どうなったのよ」


 リタが低い声で言った。


 権藤の口もとがぴくりと動く。


「作り物でないことは、認める。だが、規則は規則だ。違反があれば、支部から裁判所に申し立てる。そのための聴き取りだ」


 申し立てが通れば補助の話は消える。待っているのは元の刑――ダンジョンに五年入れないあの刑だ。悪ければそれよりも重い。


 支部長は黙って権藤の話を聞いていた。それから机の上の紙を一枚めくる。


「黒瀬君。広間で待てと言われたのに、三階へ向かったのは、なぜだ」


「……赤城(あかぎ)が、行くと言ったので」


 本当は俺の足のほうが先に動いていた。だが補助として答えるならこう言うしかない。


「補助は、探索者のそばにいるものでしょ」


 リタが身を乗り出した。


「赤城リタのそばで、補助探索者として一年間活動すること。判決に、そう書いてある。私が三階へ行くのに、補助を広間に置いていったら、そっちのほうが判決に背くことになるじゃない」


「判決は、裁判所が決めたものだ」


 支部長が静かに言った。それから権藤のほうを向く。


「監督官の命令で、判決を曲げることはできません。権藤さん、あなたの役目は、黒瀬君を見張ることです。判決と違うことを命じることでは、ありません」


 権藤のあごがこわばった。


「……二つ目は」


 権藤がうなるように言った。


「それも、判決の中に答えがあります。あとは、その時の黒瀬君が、赤城君のそばにいたかどうかですが――」


 支部長がそう続けた時ノックの音がした。


「失礼いたしますわ」


 返事を待たずに扉が開く。


 額に白いガーゼを貼ったエリザが、ニールの肩につかまって立っていた。右の足首には包帯が巻いてある。


「エリザ君。休んでいなくていいのか」


「寝てなどいられませんわ。聴き取りと、聞こえましたもので」


 エリザは権藤には目もくれずに支部長の前へ進み出た。


「わたくしを助けたのは、その無資格ですわ」


 そう言って横目で俺を見る。


「わたくしのドローンの映像を、ゆうべ見返しましたの。その無資格が力を使ったのは、いつもリタさんのすぐそばでしたわ。反対側から、全部撮れておりますの。お確かめになって」


 エリザはつんとあごを上げた。


「借りは作らない主義ですの」


 昨日、岩場でリタに言われた「貸し一つ」をさっそく返しに来たらしい。


 支部長は小さくうなずいてから権藤に向き直った。


「権藤さん。補助探索者は、監督の探索者のそばにいる時は、その仲間として探索に加わり、力を使えます。黒瀬君は、赤城君のそばで、その仲間として力を使いました。資格のない者が勝手に力を使ったことには、なりません」


 権藤は何か言いかけて口を閉じた。


 支部長がエリザを見上げる。


「エリザ君。女王が出た時、なぜすぐに退かなかった」


 エリザの肩が小さく揺れた。しばらく黙ってから絞り出すように言う。


「……配信の、見栄えを気にしましたの」


 言いながらエリザの目が一瞬だけ俺に向いた。


「おととい、そちらの方から、岩食(いわく)いが浅い階まで上がってきていると、忠告を受けておりましたのに。聞き流しましたわ」


 ニールがその横で小さく頭を下げた。


「それと、権藤さん」


 支部長の声が少し低くなった。


「おととい、一階の奥のかじり跡について、黒瀬君から報告を受けましたね」


 権藤の目がわずかに見開かれた。


「赤城君の配信の記録で、見ました。そんな男の見立てを、協会が取り上げると思うか――そう言って、調べもせずに退けましたね」


「あれは……」


「その見立てのとおり、次の日、三階に岩食いの女王が出ました。黒瀬君たちが間に合わなければ、エリザ君とニール君は、死んでいたかもしれません」


 権藤は何も言わなかった。


 握りしめた拳が白くなっている。


 支部長は俺とリタに向き直った。


「黒瀬君の違反は、どちらも認めない。申し立ても、しない」


 隣のリタが机の下で、小さく拳を握った。


「権藤さん。報告を退けた件は、あとで、あなたから話を聞きます」


 権藤はしばらく黙っていた。それから短く「はい」とだけ答えた。


「黒瀬君。君の力は、測定器に映らないそうだな」


「……十一回測って、十一回ともゼロです」


「そうか」


 支部長は眼鏡の位置を指で直した。


「本部が、君に会いたがっている」


 権藤がはじかれたように顔を上げた。


 協会の、本部。


 測定ゼロの俺に一体何の用だ。


お読みいただき、ありがとうございます!


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