表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜とセバスチャン  作者: らる鳥
初代セバスチャン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/14


 盛冬になれば雪が降る。

 雪が降った日は、村人達も屋内に籠って外に出ないので、竜は退屈したのか、竜爵としての税、溜めてあった魔物の素材を王都に運んだ。

 まぁ、竜が王都でどのような待遇を受けたのかは、村に留まる私にはわからないが、上機嫌で王都から帰ってきた竜は、春に届くという村の開発支援の目録を携えていた。

 当然ながら竜は、その内容を正確に理解できる程に人の社会を知ってはいないので、それは主に私に宛てた物なのだろう。


 その目録の内容とは、金や物資に加えて、医者や建築士、鍛冶師等の技術者を十人と、新たな住人として五十人を送るというもの。

 これは開拓村に行う支援としては破格の内容だが、……しかし竜が恭順した事に見合うものかといえば、首を傾げざる得ない。

 とはいえ、仮に千人の住人を送ると言われても、こちらが破綻してしまうので、その辺りのバランスを考えた支援なのだろうか。


 送られてくる者達、特に技術者は、恐らく訳アリになる筈。

 食うに困った者ならともかく、どこに行っても重宝される技術者は、竜が治める土地にわざわざ来たがりはしない。

 尤も王国としても揉め事を起こすような者を送り込んで竜の不興を買い、争いを起こそうとは思わぬ筈だから、訳アリといっても人格的な問題ではなく、何らかの事情がある者になるんだろう。

 つまり他に行き場がない者だ。


 まぁ、元よりこの村はそうした訳アリの集まりなので、そこは大した問題にならなかった。

 ただ恐らく、その技術者か、新たな住人の中には、この村の内情を王国に伝える、スパイのような者も混じっていると思われる。


 もちろんこの村に、王国に知られて困るような内情は、あまりない。

 そもそも人の訪れが殆どなく、村人が外に出る機会も多いとは言えないこの村から、情報を持ち出すのは非常に難しいだろう。

 この村と王都は、物理的な距離もあるし。


 問題になるのは、そのスパイがこの村の中で派閥を作ったり、王国からの意向を受けて村の中の世論を左右する可能性だった。


「なぁ、セバスチャン、どんな者達が来るんだろうな?」

 楽し気に、嬉し気に、王都から来る新たな住人達への期待を露わにしている竜に、私は苦笑いを浮かべてしまう。

 人の気も知らないで、……なんて風に思わなくもないが、これに関しては、竜には全く責任はない。


 寧ろ私が王国に対して支援を要求した時点で、こうなる事は決まっていたのだ。

 とはいえあの時、支援を要求しないという手もなかったのだが。


 結局のところ、こうなる定めだったのだと素直に受け入れ、春に新たな住人達がやって来る前に、村側でその受け入れ態勢を作るより他にない。

 これも竜が齎す変化の一つである。

 差し当たって必要となるのは、……自警団の組織だろうか。


 これまでこの村に、自警団やら兵士やら、戦いや治安維持に特化した何かは存在しなかった。

 必要がなかったとは言わないが、それを用意する余裕がなかったから。

 そして万一の事態が起きた時、例えば盗賊に村が狙われた時等は、子供はさておき、老いも若いも男も女も、全てが農具を手に武器として、精一杯に戦う覚悟を皆が持っていたのだ。


 しかしその覚悟を、新たにやってくる住人達にまで強いる事ができるかといえば、やはり難しいだろう。

 数人ならともかく五十人、技術者達まで含めれば六十人だ。

 流石にこの数を、開拓村のやり方に馴染ませる事は無理がある。

 特に技術者なんて、戦いで負傷させていい存在じゃないのだし。


 なのでやはり、自警団は必須だった。

 治安維持の観点で言っても、新たにやってくる住人と、以前からの住人の間に起きるトラブルも、自警団がいればある程度は抑えやすい。

 

 ただ……なぁ。

 正直に言えば、気持ちは乗らなかった。

 何故ならば、自警団の創設は村長の仕事、役割の分割に繋がるからだ。

 仕事、役割は権限、権力と言い換えてもいい。


 これまでは、万が一の事態が起きた時は、村人全員で戦う体制だったが、その指揮を執るのは村長である私の役割だった。

 しかしこの先は、自警団の指揮を執るのはその団長、自警団の責任者になるだろう。

 これは私の持っていた役割であり権限を、自警団の責任者に譲り渡す事になる。

 つまり村に新たな有力者が誕生するという意味だ。


 そしてこれは人間社会の常なのだが、複数の有力者がいると、多くの場合は駆け引きが、権力争いが始まる。

 私はこの権力争いが、物凄く嫌いで、苦手だった。

 もし仮に、私が権力争いを好み、得手としていたら、この開拓村に来る事はなかった筈。


 ……まぁ、私の好き嫌いはさておき、一人の有力者が全ての権限を握り続けるなんて、本来は不可能だ。

 協力し合って新たな土地を切り開き、日々を必死に生きるという開拓村くらいでしか、そんな事は成立しない。

 村という小さな社会も、成熟すれば役割は徐々に分担され、専門化していく。

 つまりこのロワイスの村も、次の段階に入る時が来たのだろう。


 自警団は始まりに過ぎない。

 村が大きくなって社会が複雑になれば、私は他の役割も手放して、誰かに権限を譲らねば、村が回らなくなってしまう。

 例えば農作業の指揮、収穫物の管理、拡張していくだろう村の開発計画、色々と譲る権限は思い付く。

 あぁ、いや、拡張する村の開発計画は、新たに村にやってくる技術者、建築士が担う可能性も高い。

 他にも、医者辺りは頼りにされ易い仕事だから、信頼を集めて有力者となる可能性がある。

 これは自然の流れで、ロワイスの村がより良くなっていこうとしているからこそ、起きる事だ。


 けれども、今しばらくは、どうにか私が村の手綱は握りたい。

 竜の立場がもっと確固としたものとなって、それが脅かされる可能性がなくなるまでは。


 ひと先ず、自警団の団長も含めて、私の意志が届き易い有力者を、何人か作っておくしかないか。

 役割を任せられる能力があって、信頼ができ、尚且つ竜に対して好意的である者は……、何人か心当たりがある。

 新しくやってくる技術者達が有力者となる可能性がある以上、彼らに村の手綱を握られないようにする手は、打っておくべきだった。


 自警団には、十六になる私の上の息子も入って貰うか。

 彼が次の村長となる事を希望するかどうかはまだわからないが、いずれにしても自警団で積む経験は、この村で暮らす上で無駄になりはしないだろう。

 また息子が自警団に入る事で、私と団長の意思の疎通もし易くなる。


「セバスチャンは誰が来るのが楽しみだ? 俺は鍛冶師が楽しみだな。村に来たら、以前空から降ってきた、星の鉄を持ってきてやろう」

 目録を見ながら思案してると、竜が再びウキウキとした様子で声を掛けてきた。

 本当に、楽しそうで何よりだ。

 竜の様子を見ていると、あれこれ不安に思っているのが馬鹿らしくなってくる。

 それと同時に、こうして竜が楽しげでいられるように、私が手を打ち支えてやらねばならないとも、思う。


 ……しかし、さらっと言われたが、空から降ってきた星の鉄って何だろう?

 何やらとんでもない物を持ってこようとしてないか?


 ただ、考えてみれば竜がとんでもない物を持ってくるのは、何時もなので、私はそれに関しては深く考えない事にする。


「そうですね。とても良いかと思われます。私としては、輪を乱さずに村に加わってくれる方は、誰でも歓迎いたしますよ。ここから村は、どんどん大きくなるでしょうからね」

 そう口に出してみると、不思議と肩が軽くなったような気がした。

 もしかするとこれは、竜に向けた言葉というよりも、自分に言い聞かせるものなのかもしれない。


 新たな住人は歓迎だ。

 人手が増えればできる事が増える。

 より多くの作物も作れるし、領主の館の建築も進む筈。

 医者が来るなら命を落とす子供が減るかもしれないし、建築士は水車を作れたりするだろうか?

 鍛冶師が来るなら、鉄製の農具も揃えたくなる。

 私も、楽しみになってきたな。


「あぁ、とても楽しみだ」

 竜のその言葉に、私も大きく頷いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
盗賊団……丸焼き
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ