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竜とセバスチャン  作者: らる鳥
初代セバスチャン

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5/12


 竜が村に現れてから、最初の冬が訪れた。

 冬には麦の種蒔きがあるので、領主の館に関する作業は一旦止めて、村人達は畑を耕す方に労力を回す。

 

 期待に満ちた目をしてる竜の事もあって、領主の館はできる限り早く建ててしまいたいが、村の労力には限りがある。

 であるならばどうしても、種蒔きや収穫等の作業に決まった時期、適した時期のある農作業を優先せざる得なかった。

 食料の生産は、村を生かす上で最も重要な仕事であるから。


 それに建材となる木材を乾燥させる時間も必要だ。

 乾燥が不十分な木材を建材として使ってしまうと、建てた後に木材が収縮したり変形したりして、建造物に歪みが出てしまう。


 実は魔術師なら、この木材の乾燥を早める事もできるそうだが、開拓村にそんな高度な技術を持った人材がいる訳もない。

 私も若い頃には色々と学びはしたが、流石に魔術には縁がなかった。

 或いは竜ならば、竜の魔法とやらで魔術と同じく乾燥を早めたりもできるのかもしれないが、……いやいや、仮にも領主である竜にそんな作業をさせる訳にもいかないだろう。


 竜は確かに、我々が想像もしない不思議な力を持っている。

 だが一度安易にその力を頼ってしまえば、何でも竜がその力で解決してくれるんじゃないかと、期待するようになってしまう。

 そしてやがて、我々は竜を都合のいい、便利な存在として見てしまうようになっていく。

 けれども、恐らくその先に待つのは、決していい未来ではない筈だった。


 竜はあくまで私達の領主。

 時折だが、不思議な力で恩恵がある。

 これくらいに考えておかないと、人間と竜の関係なんて続きやしないだろうから。


 あぁ、つまり私は、竜と人間の関係が良いものとなり、それが少しでも長く続けばいいと、そんな風に思っているのか。

 

 もちろんこれは私がそう考えてるだけで、例えば王国がどんな風に竜の存在を受け止めているのかは、わからない。

 だが今、最も竜の近くにいるこの村と、それから私は、良き関係を築き、それが長続きするように努力をしよう。



 さて、そんな冬のある日、私が何時ものように一日の報告をしていると、

「なぁ、セバスチャン。今日、空から村を見ていたら、女が一人、座り込んで泣いているのが見えた。あの者は、一体何があったのだ?」

 その報告を遮って、竜がそんな質問をしてきた。


 おぉ、どうやら竜には、人間の男女の区別が付くらしい。

 だが泣いている女といえば、……あぁ、あれか。

 それは少しばかり気が重く、あまり口にしたくはない話題だった。

 けれども問われた以上は、私は答えなければならないだろう。


「その女、マーシャの二歳になる息子が、冬の寒さに負け、風邪をひいて死んだのです。彼女はそれを悲しんでいたのでしょう」

 恐らく竜が見たというのは、マーシャという名の村人だ。

 彼女の息子は身体が弱かったから、訪れた冬の寒さに体調を崩し、そのまま亡くなってしまったのだ。


「死者が出たのか!? セバスチャン、どうしてそれを、俺に報告しなかった?」

 私の言葉に竜は驚いた様子で、少し強い口調で問い詰めてくる。

 だが報告をしなかった理由は単純で、

「旦那様に報告する程の事ではないからです。竜がどうなのかはわかりませんが、人間はすぐ死ぬ生き物です。子供は特に病魔に弱く、大人になれるのは、生まれた子供の半分だと言われてます。……私も、娘が一人、幼い頃に病魔に殺されました」

 子供の死は、人間にとってはとてもありふれた事だからだ。

 特にこんな開拓村では、猶更である。


 マーシャの息子は、そりゃあ子を亡くした母は悲しんだが、周りは彼女に気遣いつつも、普段と変わらぬ一日を過ごした。

 また亡くなった子供に関しても、墓に埋葬はしたけれど、大袈裟な葬儀は行わない。

 八歳より下の歳の子供に関しては、死は最初からそういう運命だったのだと、神が攫って行ってしまって、神の国で元気にしてると、そう思わなければやってられないくらいに、よく死んでしまうから。


 私も、子を亡くした経験がある。

 その子は最初の子供で、長女だった。

 だが当時は村を開拓し始めたばかりの頃で、食べ物にも困る事が多く、……体力が足りなかったのだろうが、季節の変わり目に体調を崩し、あっという間になくなってしまったのだ。


 でも、私は手を止めずに働いたし、妻もそれに何も言いはしなかった。

 悲しくなかった訳じゃないが、村長である私が止まってしまえば、娘と同じように死に至る誰かが増えるだけだと、理解をしていたから。

 これが町で暮らしていたなら、私も妻も、娘の死に悲しみに暮れる時間があったのだろう。

 或いは、そもそも町のように医者がいれば、娘が死ぬことはなかったかもしれない。

 けれどもこんな場所にある開拓村に、医者なんて高度な技術を持った人間がいる筈もなかったから。


 幸いにも、その後に生まれた子供達は無事に育って、そろそろ一人立ちをする時期も近い。

 亡くなった娘の事を忘れはしないが、私はそれを仕方ないと受け入れている。

 寧ろ他の子供達が無事に育った事の方が幸運だったのだと、そんな風に考えていた。

 それ程に、人間にとって幼い子供の死は身近な出来事なのだ。


「今年はこれでも、随分とマシな方です。麦の出来が良かった上に、旦那様がよく魔物を狩ってきてくれましたから、食べ物が不足する事がありませんでした。食べ物が不足している冬は、もっと多くの子が死にます」

 竜が狩ってきてくれた魔物は、領主の館を建てる為に働く者達への差し入れだったから、肉の多くは彼らが食べた。

 しかし一部は家に持ち帰られて、子供達の口にも入っている。

 そのお陰だろうか、今年は子供達が皆元気で、季節の変わり目に体調を崩してもそれが悪化する事なく、無事に回復する者が多い。


 これに気付いた者は、皆が竜に感謝をしていた。

 もちろん私も、それに気付き感謝をしている者の一人だ。


「セバスチャンに番と子がいた事にも驚いたが、そうか、人間はそうも簡単に死ぬのだな……」

 恐らく竜には、そんな心算は全くなくて、単純に領主の館を建てようと、自分の為に村人が働く様子が嬉しかっただけなのだろう。

 でも、そうであっても我々がその行為で大いに助かった事実に変わりはなかった。

 わざわざそれを伝えなかったのは、言えば、それを要求する事になってしまいかねないから。

 竜は私達を領民として保護する立場ではあっても、狩った獲物を与えて奉仕する立場ではないのだ。

 私達は竜を、都合のいい存在として扱ってはならない。


「だが、それでも、これからは死者が出れば報告をしろ。誰かが生まれた時もだ。お前達にとってはよくある事で、当たり前であっても、俺はそれを知りたいと思う」

 ただ、私がそう考えていたとしても、竜が伝えろと命ずるならば、私はそれに従おう。

 真似事であったとしても、私は竜に仕える家令なのだから。


「かしこまりました。旦那様」

 私は竜の言葉に、そう言って一礼をする。


 その日から、村の上を旋回する竜が、時折だが大きな声で吠えるようになった。

 村人は、最初は何事かと恐れたが、何度も聞くうちにそれにも慣れ、そういうものだと受け入れている。

 それ以降、何故だか不思議と、村では大人も子供も、体調を崩したり、病にかかる者の数が大きく減った。


 何しろここは竜が治める村だから、或いはそういう事もあるのだろう。



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― 新着の感想 ―
病魔退散の儀式。
竜の咆哮…相撲とりの四股みたいなものですかね。 病魔を退散させるという。 いい領主ですね!
 竜の吠え声で病人が減るのなら加護じゃないだろうし、それはご利益のある呪いなのでしょうか。日本語訳するなら「バイバイキー△」とか?(笑)
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