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竜とセバスチャン  作者: らる鳥
五代目、九代目

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 それからの事だけれど、ゼファールは怒り心頭の旦那様にこってりと叱られてから、シリルフォース様に連れられて北の空に飛び去った。

 何でも巣立ちはまだ早かったのだと判断されて、シリルフォース様の巣でもう一度しつけを受け直すそうだ。

 プライドを圧し折られてしょんぼりとしているゼファールは少しばかり哀れだったけれど、……これまでの行動を見るに、しつけは受け直した方が良いと思うから仕方ない。

 

 シリルフォース様からは何度も申し訳なさそうに謝られて、ゼファールも一度、促されてしぶしぶと謝罪の言葉を口にしたから、私は笑って今回の件を許した。

 ゼファールは多分、どうして自分が謝らされたのか、まだわかってないだろうけれど、それはこれからしつけ直されて知るだろう。

 恐らくそのしつけは何十年、何百年と掛かって、ゼファールが再び巣立つ頃には私はもう生きてはいないから、今、許さなければもう許す機会もないと思うし。

 以前から度々、祖父である三代目様や、師である四代目様に言われていたのだけれど、竜の尺度は人間とは全く違うから、細かい事は気にせず、大きな視点で物事を見なければ、セバスチャンなんてやってられない。

 故に私にとっては、謝罪の言葉を受け、旦那様にロワイスに連れ帰って貰えた時点で、今回の件は終わった話だった


 けれども、実はその後にもう少しだけ問題が起きて、それは竜が三頭もやってきた事で、ラスフォール公国の跡地に棲んでいた魔物達が一斉に逃げ出し、周辺の包囲を破ろうとして防衛する人間との間に戦いが起きたらしい。

 その件で、ラスフォール公国の跡地と国土を接する周辺国から、王国に問い合わせがあったそうだ。

 竜を使い、一体何を企んでいるのだと。


 もちろん本当の事は話せない。

 いや、仮に話したとしても、まだ未熟な竜が父を真似て城に棲みたがっただけだなんて、騒ぎに巻き込まれた国々が信じて納得する筈もないだろう。

 多くの人間は、竜に幻想を抱いているから。

 偉大で、自分達の理解の及ばない、遠い存在なのだと。


 だから結局のところ、問い合わせを行ってきた国々に必要なのは、真実よりも納得し易い大仰な話である。

 私は旦那様と相談し、その問い合わせに対して、『人の土地が魔物の手に落ちている事を竜が哀れみ、魔物の長を討伐した』という回答を返した。

 まぁ、ゼファールが廃墟となった城と町を縄張りとした際、そこに巣食っていた魔物を討伐したそうだから、この回答も別に嘘って訳じゃない。

 少しばかり大仰に脚色して、それっぽい話に仕立てただけ。


 この回答を、問い合わせをしてきた国々がどう受け止めるかはわからなかった。

 鵜呑みにせず、王国の陰謀を疑い続ける国もあるかもしれないし、意外にあっさりと信じる国もあるかもしれない。


 ただいずれにしてもそれらの国々が大変なのはこれからだろう。

 これまでは、大量の魔物の討伐に必要な労力が得られる利益に見合わないから、ラスフォール公国の跡地は周辺国から放置されてきた。

 しかし今回の件で多くの魔物はラスフォール公国の跡地から逃げ出し、周辺国が張った防衛線で駆除されている。

 つまり周辺国は、既に労力を支払った状態にあるのだ。

 ならば支払った労力に見合わずとも、ラスフォール公国の跡地を手に入れて少しでも損を埋めるしかない。

 ラスフォール公国の跡地を、他の国に確保される前に。


 ……ここからは旦那様にも言わなかった話だが、恐らくラスフォール公国の跡地は戦場となる。

 あの地を手に入れ砦、要塞でも築けば、他国を大いに牽制できるようになるだろう。

 逆に言えば、あの地を他国が手に入れ、砦や要塞を築かれれば、自国が牽制を受けてしまう。

 これまでは魔物の存在があって放置されてきたから、ラスフォール公国の跡地はある種の緩衝地帯として機能してきた。

 けれども今回の件で魔物の存在が失われたから、周辺国もラスフォール公国の跡地を放置できなくなったのだ。


 とはいえ、所詮は王国と国土を接する訳でもない、遠い国々の話。

 旦那様の耳に入れて、不要な心労を与える必要はなかった。

 だから私にとっても、この話はこれでお終い。


 私にとってより重要なのは、今回の件で得た知見を活かし、よりロワイスを発展させる事。

 そうすれば旦那様やシリルフォース様に、或いは今はシリルフォース様の巣にいるだろうゼファールにも、喜ばれるような何かを用意できるかもしれないから。


 差し当たっては、ロワイスに観光資源を生み出す事を考えよう。

 鉄道馬車の駅の近くに竜の彫像を置いたり、或いは新しく開発する地区の広場に旦那様が竜の姿で降り立てるような場所、竜の止まり木を作ってみるのもいいかもしれない。

 セバスチャンとして、旦那様を見世物にするのは問題があるけれど、それはそれとして、旦那様が使う場所が見世物になる分には別に構わないと思うのだ。

 そうやって町の各所に竜がいるからこそ設置される何かを増やしていけば、ロワイスを訪れてみたいと思う観光客もきっと増える筈。

 もちろん、そうした観光客が泊まる宿や、買いたくなるような土産物の開発も課題となる。

 シリルフォース様向けに開発した香油なんかも、流石に質は落とさなきゃいけないけれど、そうした土産物にできるかもしれない。


 やりたい事が、次から次へと思い浮かぶ。

 これ等を全て私が生きてる間に成そうと思えば……、セバスチャンのままじゃ時間が足りない。

 だから私は、なるべく早くに次のセバスチャンを決め、育て、その名を引き継がせる必要があるだろう。


 大丈夫。

 セバスチャンでなくなっても、私にはローデリッテというもう一つの名と役割がある。

 ローデリッテの役割は、この町、ロワイスをもっと素敵な場所にして、……ごく一部の人間にしか興味のないシリルフォース様に、人間やロワイスの町を、好きになって貰う事だと私は思う。




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