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初代様はロワイスを築き、最初に竜にセバスチャンとして選ばれた伝説の人。
誰よりも竜と人間の関係に心を砕いた人。
二代目様は最も勇敢なセバスチャン。
若かりし頃は竜の背中に乗って戦場を掛け、老いてセバスチャンを引退してからも、奥様との旅行先で賊に出会い、一人でこれを叩きのめしたって逸話を持ってる。
ただそんな二代目様も、奥さんには頭が上がらなかったらしい。
二代目様の奥さんはとても切れ者で、内政、外交に幅広く才を発揮し、ロワイスを発展させたという。
三代目様は最も狡猾なセバスチャン。
彼は二代目様の息子だが、どちらかといえば母親譲りの智謀で名を遺すセバスチャンだ。
初代様が築き、二代目様が発展させたロワイスを、三代目様はその智謀で安定させた。
大きくなり、名を知られるようになったロワイスや、或いは竜を狙っての策謀を、三代目様は一切寄せ付けずに、手を出してきたものには倍以上の報いを与えたとされる。
四代目様は、そんな三代目様が選んだ、初めての初代様の血筋ではないセバスチャン。
しかもその出身は他国であった。
東のクンルンという国からやって来た彼を、どうして三代目様がセバスチャンに選んだのかはわからない。
けれども彼は、最も忠義心に溢れたセバスチャンだ。
或いは言い方を変えれば、最も竜に対して熱狂的なセバスチャンだった。
……そして私は五代目のセバスチャン。
役割を引き継いだばかりの私は、先代達と比べて何が優れているとは未だ言えないけれど、一つだけこれまでにない特徴があるとするなら、私は初めての女セバスチャンである。
ただ、私をセバスチャンに選んだのは四代目ではなく、それどころか主人たる竜、グラファール様ですらなくて、その奥方であるシリルフォース様だ。
忘れもしない五歳の誕生日。
祖父である三代目様に連れられて、……多分用件はグラファール様に無事な成長をご報告するだか何かだったと思うのだけれど、城を訪れた際に、
「あら、とっても可愛い。貴女、いいわね。この子がいいわ。ねぇ、グラファール。四代目の次はこの子になさいよ」
ちょうど遊びに来ていた銀の髪の美しい女性、グラファール様と同じく竜であり、番であるシリルフォース様に私は見出されたのだ。
そしてシリルフォース様の言葉をグラファール様も受け入れ、四代目様も次のセバスチャンはやはり初代様の血筋から選びたいと思っていたそうで、私が竜の家令となる事がその時に決まった。
但し、セバスチャンの名を継ぐかどうかに関しては、少しだけ議論があったという。
何故ならセバスチャンは、グラファール様が初代様に付けた名で、女性の名前としては些か違和感があるものだったから。
また、私を見出したのはグラファール様ではなくシリルフォース様なので、新たな名前を付ける方が相応しいんじゃないかという話になったのだ。
しかしこのロワイスにとって、セバスチャンの名前は特別な意味を持っている。
竜の家令、竜に選ばれた者、実質的にこの町を差配する領主代行。
そこに新たな名前を持つ竜の家令が誕生したとして、町の者達はそれを領主代行と認めるだろうか?
場合によっては、無用な混乱が起きるかもしれない。
或いは、セバスチャンが不在ならと、その名と地位を望む者が現れてる可能性もあった。
特に四代目様が他国人でありながらセバスチャンになった影響で、立身出世の手段としてその名を欲する者がロワイスに沢山やってきて、多くの問題を起こした時期がある。
セバスチャンとなりたいと思う事は罪ではないが、竜の家令となり、竜に仕えるという役割よりも、そこに付随する権力ばかりに目が行く者に来られても、面倒が増えるばかりなのだ。
なので結局、私はセバスチャンの名を継いだのだけれど、同時にシリルフォース様から、ローデリッテという、もう一つの名前も頂く事になった。
セバスチャン・ローデリッテ。
二つの名前を持つセバスチャンはこれまで他にいないので、私はとても、この名前を気に入っている。
さて、そんな経緯で、私はシリルフォース様と仲が良かった。
市場を視察し、ロワイスの発展を確認しながら私が頭の片隅で考えるのは、これらの品が竜達の、特にシリルフォース様のお気に召すかどうか。
三代目様から教わった話なのだけれど、昔に比べて、ロワイスで流通する品は非常に増えたそうだ。
王国中から運ばれる品々だけじゃなくて、国外からやって来た品も少なくない。
これはロワイスが発展して豊かになったり、シュリル伯爵領との交易が盛んになった事も大きいけれど、更に大きな要因として、ここのところ人間の有する技術が格段に進歩しているというのがある。
特に火薬を使用して金属の弾丸を飛ばす武器、銃や、それを大型化した火砲の開発により、人間の力は大きく増した。
それまでは冒険者が命懸けで討伐していた魔物を、銃や火砲で装備した兵士の集団が比較的だが安全に駆除するようになって、物の輸送の危険が減って、人間の活動範囲が広がったのだ。
現在、王都からこのロワイスまでは鉄道馬車が走っていて、日々、多くの品が行き来をしている。
このような物を敷設して維持できるようになった事が、人間の力が増している証明なんだとか。
……尤も、生まれた時からこのロワイスが発展していて豊かだった私からすると、この話はあまりピンとこなかった。
そんな事よりも重要なのは、鉄道馬車で運ばれた品々である。
前回は質のいい精油があったので、それを利用した香油を作り、鱗磨きに使用したらシリルフォース様がとても喜ばれたのだ。
竜であるシリルフォース様は化粧はしないが、それでもより美しい姿を求める気持ちは人間に負けず劣らずお持ちなので、それを追求するのが、初めての女のセバスチャンである私の役目なんだろうと思う。
もちろんめぼしい物を見付けても、いきなりそれをグラファール様にお渡ししたり、シリルフォース様にお使いするという訳じゃない。
最初は少量を私が使用して具合を確かめ、良いと判断したなら御用商人に話してより質の確かな物を、安定して仕入れるように指示を出す。
そこから更に手を加える事もあるけれど、それはもう趣味の範疇のようなもので、基本的にはより良い品の手配までが私の仕事だ。
村だった頃のロワイスでは、商人が居なかった時期も長かったそうで、欲しい物は何でも自作したり、或いは他の町まで買い出しに行ってという。
今のロワイスしか知らない私にはちょっと想像もつかないけれど、村から町へとロワイスも年月と共に変化していて、それと共に、セバスチャンの仕事にだって変化があるって事なのだろう。




