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王国では、人口三千くらいが村と町の境目で、四千となると間違いなく小さめの町となる。
五千から八千なら中規模の町で、万をこえれば大都市だ。
ちなみにシュリル伯爵領の町は万を越えていたので、間違いなく大都市で、王国の中でも海外貿易の重要な拠点として機能をしていた。
そんな大都市から、よくこんな小さな町に嫁に来てくれたなぁと、パトリシアを見ると未だに思う。
もちろん、単なる惚気である。
パトリシアの間には、今は子供が二人いた。
上の子が姉で、下の子は弟。
二人共がグラファール様に会っても泣かなかったので、このうちのどちらが次のセバスチャンになるだろう。
尤もパトリシアの考えでは、弟の方をセバスチャンにしたいらしい。
何故なら、セバスチャンは女が名乗るには違和感のある名前で、またグラファール様の近くにいる事で竜に見初められた女という評判が立てば、嫁に行くのに困るからだ。
考え過ぎじゃないかなぁと、私としては思うのだけれど、意見の一つとしては覚えておこう。
いずれにしても二人が無事に育ってからの話になるし。
子供を得てから、私の考え方は少し変わった。
多分、守るべきものができた事を、以前よりも更に強く意識するようになったから。
まだ未熟者だからと言い訳ができた時間は、とっくに終わっているのだ。
ロワイスが村から町へとなった事で、アレクス伯父さんは村長から有力者の一人という立場に変わり、町の運営は有力者の合議制、議会に任される。
尤も幾度も幾度も重ねた打ち合わせの結果、領主が必要とする権限は殆どが無事にグラファール様の手元に戻っていた。
多くの町の人は、そんな変化は気にも留めずに、変わらぬ日々を過ごしているが、立つ位置が違えばその見え方もまるで違う。
何しろその戻った権限を使って町を動かすのは、家令として領主の仕事を代行する私になるのだから。
当然ながら、こんなの一人でどうにかなる事じゃないので、パトリシアも手伝ってくれるし、これまでは村長が抱えていた文官達も、領主が召し抱える事になってしまった。
これにより自分の父が、まるで部下のような立場になってしまったのが、最近の悩みの種だ。
まぁそれでも、祖父の残した課題も、漸くひと段落したと言ったところだろう。
けれどもそんなある日、私は町中の視察中に、クロスボウによる狙撃を受けてしまう。
時間は夕暮れ時、新しく広げた区画での暮らしに不自由がないかを見て回っていた時、不意に何かを感じて頭部を手で庇えば、飛来したボルトが翳した腕に命中したのだ。
幸い、私の家令服はスチールスパイダーの糸から作られた布を縫製した特注品だった為、ボルトは突き刺さる事なく、腕に弾かれた。
流石は普通にやるとハサミも針も通らなくて、縫製にも物凄く手間が掛かるという逸品である。
尤も、刃も矢も通さないが、衝撃は普通に通るので、腕に痣はできてしまったが。
私を狙撃した下手人は、失敗を悟るとすぐに逃げ出したが、しかしロワイスの町で私から逃げられる筈がない。
この町の道、区画の整備には、どれだけ頭を悩ませた事か。
どこへ逃げればどの道に繋がるか。
全てが頭に入ってる。
周囲の住人だって味方が多いから、すぐに兵士も大勢駆け付けて、その下手人を捕縛した。
すると尋問の結果、その下手人は他国から、私の暗殺を目的として送り込まれた暗殺者だったとわかる。
当初は王国の南部から移住してきて、私が死ねば自分もセバスチャンになれるチャンスがあるんじゃないかと思ったとか、寝言のような言い訳を言っていたが、そんな馬鹿な動機で私を狙おうとする者に、クロスボウでの狙撃なんて高度な真似ができる筈もない。
更に詳しい尋問……、まぁ、ギリギリ尋問の範囲に収まる責め苦が行われた結果、その下手人がハストラ公国からやってきた事が判明する。
ただハストラ公国の命を受けてというよりも、どちらかと言えば教国の、つまりは教会の意向に沿って、悪竜と組んで人を支配するセバスチャンを排除しようとした、というのが正解だった様子。
故に、一般人が衝動的に動いたにしては計画的過ぎて、かといって本格的な暗殺者にしては、あまりにお粗末な腕前だったのか。
いずれにしても、私はこの件で知る事になる。
自分が、他人から命を狙われる立場になったのだと。
理由はさておき、今後はこうした事も増えるだろう。
場合によっては、本当に衝動的に、セバスチャンの立場を奪えると思っての犯行だって起きるかもしれない。
この地の領主はグラファール様で、私はそのオマケのようなものだけれど、領主代行もしているから、振るえる権限だけでいえば貴族にも準じる。
なのに自分は庶民であると心のどこかで思い続けてる私は、やはりどこか甘かったのだろう。
私を害すれば、この地の発展を阻害できるし、グラファール様の怒りを呼んで、人間と竜の関係を破綻させられる可能性もあった。
或いはパトリシアや子供達を人質に取り、私を通してグラファール様を自分の意のままにしたいと思う者だって、現れないとは限らないのに。
子供が生まれた時点で、パトリシアはそれぞれに護衛を手配していたけれど、それは彼女が元貴族だから過剰に備えてた訳じゃなくて、本当に必要な措置だったのだ。
パトリシアには本当に、頭が上がらない。
町は今も発展を、成長を続けてる。
この先も、まだまだどんどんと大きくなっていくだろう。
しかしそれに伴い、失われるものが出て、煩わしさが増えていく。
例えば、私が子供の頃にあったような、村の長閑さはもうなくなった。
町は忙しなく動き続け、管理の手間は増え、人の欲は増して事件が増える。
私が狙撃された事も、大きな枠で言えばその一つに過ぎないのだろう。
子供のいずれかがセバスチャンを継ぐ頃には、それはより顕著になってる筈だ。
けれどもその煩わしさを、人間の薄汚さを、グラファール様に感じさせてはいけない。
それ等を受け止めて、グラファール様に人間という存在を好きでいて貰う事こそが、セバスチャンの役割なのではないかと、最近は思う。
祖父は、爺ちゃんは、今の私の話を聞けば、一体なんて言うだろうか。




