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竜とセバスチャン  作者: らる鳥
二代目セバスチャン

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 セバスチャンの名を受け継いで三年、僕が20歳になった頃、パトリシア嬢と正式に結婚した。


 結婚の決め手は、彼女が物凄く優秀で、あっという間にロワイスにとって手放せない人材になったというのもあるんだけれど……、一番は、やはり話していて気が合って、楽しかったからだろうか。

 パトリシア嬢、もといパトリシアと一緒に仕事をしていると張り合いがあって楽しいし、合間の休憩も少し話すだけで気が休まるし、何だか手放したくないなって思わされた。

 けれども一つだけ気になってしまうのは、彼女は僕に、あの戦争の時に運命のようなものを感じてくれたと言うのだけれど、僕の方はそんな劇的なものがないままにパトリシアに惹かれてしまったので、どうにも申し訳なく思う。

 

 でもそれを彼女に話したら、何だかとてもおかしそうに笑って気にしなくていいって言ってくれたから、僕がパトリシアに結婚を申し込んだのはその時だ。


 ……まぁ、そんな話はさておいて、王国からの褒美として多額の金を得、パトリシアという優秀な人材が加わった事で、ロワイスの発展は大きく加速する。

 魔物研究者達の一団が求めていた蜘蛛系の魔物の飼育施設が完成し、これにより軽く丈夫な糸が大量に得られるようになった。

 その方法は単純で、頑丈な門で塞いだ二つの部屋を用意して、その片側でスチールスパイダー等の糸で巣をつくる蜘蛛の魔物を飼育する。

 やがて大きく育った蜘蛛の魔物は部屋に糸を張って巣を作り出す。

 巣が完成したなら逆側の部屋に角を折ったグレートホーン等、蜘蛛の魔物が襲う生餌を入れて門を開放するのだ。


 すると最初は、蜘蛛も獲物が巣に掛かるのをジッと待つけれど、餌を与えずに暫くすると、積極的に獲物を狩る為に隣の部屋に移動する。

 そうなったら門を閉じ、巣と蜘蛛の魔物を隔離した後、その巣を壊して糸を手に入れてしまえばいい。


 手に入れた糸が、例えばスチールスパイダーの物であれば、それを加工した布を使えば、只の衣服が鉄の鎧にも匹敵する強度を持つ。

 他にもシルクスパイダーの糸なら、軽くて美しい光沢があり、流石に鉄に匹敵するとは言わないが、それでも並の物に比べればずっと丈夫な、蜘蛛の絹が手に入る。

 これらは布のままでも十分に特産品になるし、この布の取り扱いを許可すれば、他の町から服飾職人がこぞって移住してくるだけの魅力があった。


 更に別の金の使い道として、村の区画整理を行う。

 これまでロワイスは必要になれば住居を建て、商店を建て、畑を広げ、牧場を、養蜂場を、館を、城をと、かなり無秩序な発展をしてきた。

 もちろんそれなりには計画立てて村を広げてきたのだろうけれど、発展の速度が早すぎて、どうしても付け足し付け足しの拡張にならざるを得なかったのだ。

 しかし、今まではそれでもよかったにしても、そろそろ町になろうかという規模にまで発展してしまうと、無秩序なままでは効率が悪い。

 住居は住居で纏めた方が良いし、商店も同じく纏めて並べた方が良いだろう。

 畑がそこら中にあったのでは移動の邪魔になるし、牧場の近くに住居があれば、そこで出る糞尿の匂いに悩まされる。


 全てを整理し、道を通して、効率の良い村作り……、いや、町作りをする必要があった。

 それには多くの資金が掛かるので、安易に手を付けられずにいたけれど、王国から支払われた大量の金があれば、その問題も解決だ。

 しかもグラファール様から建築士や多くの人足に多額の報酬が支払われれば、その金は村を巡って経済を活発化させ、発展をより推し進める事に繋がる。


 一つの手で二つも三つもの効果が見込める、正に一挙多得の施策であろう。


 当然ながらメリットばかりがある訳ではなく、金回りの良さは不心得者を引き寄せてしまい、治安が低下する事もあるし、王国から得た金は一回限りのもので、領地から継続的に得られる収入と違って、使えばなくなってしまう類のものである。

 着地点を考えて金を注がねば、その金が途切れた時、却って経済が冷え込んでしまう可能性もあった。


 だがそれでも、まだまだ発展の余地が残るロワイスでは、金を注いで経済を回す利点は大きい。

 治安の低下には、領主の軍の規模も拡張して人員を増やし、町に配する衛兵の数を増やして対処する。


 また経済の知識に関しては、ロワイスよりも大きな町の経営を間近で見てきた、パトリシアに知識があった。

 僕はその知識の豊富さに、彼女がこの地にやって来たのは、正にシュリル伯爵からのお礼であったのだと理解する。


 経済だけじゃない。

 貴族としての礼法や、付き合い方、つまりは貴族としての外交の知識も豊富だ。

 それらは幾ら発展が著しいとはいえ元は開拓村でしかなかったロワイスの人材や、人ですらなく竜であるグラファール様には、全く持ち合わせのない知識だったから。


 僕らは、パトリシアにはもちろん、彼女をここに送る事に同意したシュリル伯爵にも感謝して、彼の領地との付き合いを深めると決める。

 具体的には、スチールスパイダーやシルクスパイダーの糸から作った布の中から特に選りすぐった品を、シュリル伯爵領にまで運ぶ交易隊を組織した。

 シュリル伯爵領は王国の南部、それも南東で、北西の隅にあるロワイスとは、王国の中では最も離れた場所だ。

 竜であるグラファール様の翼ならともかく、人の足や馬車で荷を運ぶには、中々に遠い距離だろう。


 けれどもその距離こそが、特産品の価値をより高める。

 この取引は双方にとって、大きなメリットを持っていた。

 いや、ロワイスとシュリル伯爵領だけじゃない。

 交易隊が王国を縦断する事によって、道中に立ち寄った町の品も、運ばれ動く。

 これは王国全体に、確かなメリットを持つ話だ。


 そうやって人と物、金が動く流れができると、ロワイスの発展はますます加速し、僕がセバスチャンになってから八年で、その人口は四千に達した。



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