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それから僕とグラファール様は、次に陸路を攻めてきているロロビアを威圧すると同時に、トルトマステアの降伏を教えてやる事で撤退させた。
どうしてトルトマステアの軍はあんなに叩いたのに、ロロビアに対しては威圧するだけで済ませたのかと言えば、それはシュリル伯爵からの要望があったから。
二つの国が同盟を組んで王国を攻め、片方は艦隊に甚大な被害を受け、しかしもう片方は殆ど被害を受ける事なく敗戦を受け入れている。
さて、この両国は今後も仲良くしていられるだろうか?
答えはもちろん、仲良くなんてしていられる筈がない。
何故ならこれからはロロビアとトルトマステアが争うように、シュリル伯爵が謀略を仕掛けるからだ。
ただそれも、シュリル伯爵領の町が、居城が、トルトマステアに陥落させられなかったからこその結果だった。
話を聞く限り、王都で働く長子に後を託して、シュリル伯爵とその家族は自害する準備をしていたというのだから、本当に間一髪のところだったらしい。
シュリル伯爵のみならず、その妻や娘までもが自害しようとしてたのは、例えばシュリル伯爵の娘がトルトマステアに捕まってしまうと、向こうの国の誰かと婚姻させられて、この地を支配する為の口実に使われてしまうから。
だからトルトマステアの軍を降伏させた後にシュリル伯爵に会った時、彼は救援によって自分が助かった事よりも、家族が死なずに済んで、何よりも領民の犠牲が大きく減らせて、グラファール様に深く感謝してた。
自分よりも家族、それよりも領地と領民か。
理屈としてはわかるけれど、僕にはまだ、理解しにくい感覚だ。
父や母、親族達はいるから、家族が大事だっての気持ちはまだわかるんだけれど、それより更に領地と領民の事を考えて、家族も一緒に自害する道を選ぶというのが、僕にはどうにもわからない。
……爺ちゃんだったら、わかったんだろうか。
何だかんだで、爺ちゃんは婆ちゃんをすごく大事にしていたし、自分達が暮らす共同体、ロワイス村も非常に重視してたから。
僕もいずれは伴侶ができれば、その気持ちが少しはわかるかもしれないけれど……。
まぁ、それはまだまだ先の話か。
今はグラファール様に仕えるので精一杯だ。
セバスチャンを受け継いだばかりの僕には、爺ちゃんのように他に気を回していられるだけの余裕がない。
ロロビアとトルトマステアの脅威が去れば、残るはその両国に寝返った周辺貴族のみで、こちらはシュリル伯爵と、王都からの軍が対処するだろう。
別に僕は、その周辺貴族の行動が間違っていたとは思わない。
実際、シュリル伯爵領は陥落寸前まで追い込まれたのだ。
グラファール様の救援が間に合わなければ、ロロビアとトルトマステアの侵攻は成功していた。
その事で大きな見返りが約束されているなら、周辺貴族の裏切りにだって一定の理はある。
尤も、グラファール様の存在によってロロビアとトルトマステアの侵攻が失敗した以上、周辺貴族は己の裏切りのツケを払わなきゃいけない。
全ての周辺貴族が裏切った訳じゃなく、ちゃんと動いてシュリル伯爵に協力した者、隣の領が裏切ったからと動けなかっただけの者、不透明な状況に、ひとまずの日和見を選んだ者、積極的に内応した者と、色々といるそうだ。
いずれにしても明確に裏切りをした者には、厳しい追及が待ってるだろう。
何しろシュリル伯爵は、本当に限界まで追い込まれたから、裏切った周辺貴族に対しては、心底怒りと恨みを抱いている。
とはいえ、それは僕はもちろん、旦那様にだって関係のない話だ。
降伏したトルトマステアの兵という、大量の捕虜を抱えた事に頭を悩ませていそうなシュリル伯爵からの歓待の誘いを断って、僕とグラファール様は北へ、自分達の住むロワイスへと帰還する。
帰りの空の旅では、僕は精一杯に今回の戦いでのグラファール様の活躍を褒め称えた。
正直に言って、僕は今回の戦いで、グラファール様があまり積極的に敵兵を手にかけずに済んだ事に安堵してる。
壊した船の沈没に巻き込まれた兵は、そりゃあ居たかもしれないけれど、グラファール様の戦い方はとても慈悲深かったように思う。
だからこそ、僕はそんなグラファール様があまり戦いに巻き込まれぬよう、出陣が当たり前にならぬよう、何か対策を考えなきゃいけない。
戦いを繰り返せば、人を殺す事が当たり前になれば、その慈悲深さは徐々に擦り減っていく。
そのグラファール様の慈悲深さを守るのも、爺ちゃんから受け継いだセバスチャンの役目だから。




