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竜とセバスチャン  作者: らる鳥
二代目セバスチャン

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「よく顔を出せたわね! いえ、そんな姿にならなければ私の前に顔を出せないなんて、グラファールもおちたものね」

 人間の姿に変じていても、シリルフォースには一目見れば、それがグラファール様だとわかったらしい。

 門を開け、僕とグラファール様が外に出た途端に、彼女はそんな言葉を吐いた。

 シリルフォースはグラファール様に比べると一回り小さいが、それでも間近で見ると凄い迫力だ。

 口から出る言葉も、まるで嵐の日の大風のような圧力を伴う。

 それでも、やはり美しい竜だと僕は思った。


「何の用だシリルフォース!」

 グラファール様は、恐らく傍らに僕がいる為だろう。

 竜の姿になる事なく、声を張り上げて用件を問う。


「私の巣から、何かを持って行ったでしょう! コソコソとして、恥ずかしいとは思わないの!」

 ただ、シリルフォースの口から出る言葉は正論だ。

 幾ら自分が棲んでいた巣で、幾ら自分が集めた品とはいえ、コソコソと入り込んで空き巣のような真似をしたグラファール様が悪いし、恥ずかしい。

 これは流石に擁護の余地がなかった。


 けれども幾つか疑問に思う事もある。

 まず、何故今なのか。


 爺ちゃんがグラファール様からモノクルを与えられたのは、もう数年前だ。

 どうしてその頃に取り返しに来なかったのか。

 また、何かを持って行ったって言い方から察するに、グラファール様が巣に忍び込んだ事はわかっても、何を持って行ったのかまではわかってない様子。

 だって、その品を身に付けた僕がグラファール様の隣にいるのに、こちらに注意が向く様子もないし……。


 ここから察するに、シリルフォースはグラファール様が集めた品に、殆ど興味がないんじゃないだろうか。

 それ等が保管された場所にも滅多に行かなくて、グラファール様が巣に忍び込んだのに気付いたのも、最近になってから。

 これまでの彼女の言葉を思い返してみても、コソコソと巣に忍び込んで何かを持って行った事に対しての文句ばかりで、返せとの言葉は一度も出ていなかった。


 ……なるほどなぁ。


「元は俺が集めた品だ。持って行ったところで何の問題がある!」

 グラファール様が言い返すが、問題は多分そこじゃないのだ。

 シリルフォースが怒っているのは、巣にやって来たにも拘わらず、自分に顔を見せなかった事だろう。

 更に言うなら、自分には顔を見せない、興味を示さないのに、以前に巣に集めた品にだけは用事があったというのも、怒りのポイントなのかもしれない。


 これ、グラファール様に任せておいても、言い合いは終わらないどころか、過熱する一方だな。

 だったら、外から干渉して、話の拗れを解いてやるより他にない。

 尤も口出しの仕方を間違えば、シリルフォースの怒りは僕に向く。


 まぁ、やってみるか。

 このままだと埒が明かないどころか、状況は悪化しそうだし、できる事はやっておこう。

 僕は口の横に手を当てて、腹に力を込め、

「偉大なる竜同士の対話に口を挟む事をお許しください! 奥様におかれましては初めてお目に掛かります! 家令のセバスチャンと申します! 城にて歓待の用意が整いましたので、無礼を申しますが、旦那様と同じように、城の中に入れる姿に変じていただきとうございます!」

 全力の声を出す。


 人間でも、なりふり構わずに腹の底から声を出せば、竜の咆哮程ではないにしても、それなりの声量が出るものだ。

 僕の大声に、言い争っていたグラファール様とシリルフォースはピタリと声を止めた。


「お前、それは私に言っているの?」

 そして初めて、シリルフォースの視線が僕に向く。

 その瞳は深い青色で、やはりとても美しい。

 ちなみにグラファール様は赤い鱗に赤い瞳の竜である。


「改めて申します。私はグラファール様に仕える家令、セバスチャン。奥様のお姿を拝見できました事、まことに嬉しく思います。歓待の準備ができておりますので、話の続きはどうか城の中で」

 さて、ここは一つ賭けをしよう。

 もしもシリルフォースがグラファール様のような変身の魔法を使えなければ、僕は彼女のプライドを傷付け、余計に怒らせてしまうかもしれない。

 でもシリルフォースが変身の魔法を使える程の竜だったなら、彼女のプライドと、好奇心を擽れる可能性がある。

 シリルフォースがどのくらいの年月を生きた竜なのかは知らないが、恐らく人間に城に招かれ、歓待を受けた経験はないだろう。


「……奥様、ね。私に怯えないなんて、面白い人間だわ。わかったわ。セバスチャンね。その勇敢さに免じて、お前の言う通りにしましょう。グラファール、城に入るのに相応しい姿を選ぶのを、手伝ってちょうだい」

 そしてその誘いに応じるシリルフォースの声は、どこか楽しそうな響きを帯びていた。



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2代目は女心に精通している!
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