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村に竜が来てから二十五年、つまり私が竜に家令として仕えて二十五年が経った秋、私の命は尽きようとしている。
三日前までは割とまともに動けていたのだけれど、朝に起き上がれないと思ったら、一気に身体が弱ってしまった。
恐らく命の力を使い果たしてしまったんだろう。
夏の終わりに城の完成を見届ける事ができて、そこで満足し、安堵してしまったのも理由の一つかもしれない。
村の人口はもう二千人を超えている。
色々と課題はあるけれど、それはもう私が案じる必要はない。
残る私の役割は、大人しくベッドの上で死ぬ事だろう。
いや、これは悲観じゃなく、本当に私の死が必要だと、ここ数年の間、私は密かに思ってた。
この村にとって私は古い時代、開拓村であった頃の象徴のような存在だろう。
村の一番深くに根を張って、広く影響力を保持してる。
だからこそ私に配慮して、或いは私の影響力を恐れて、村を変化させようとする力が鈍っているように感じていたのだ。
例えば今の村は、まだ村長が多くの権限を握っていた。
しかし村の規模的に、そろそろ村長が村の全てに目を届かせる事は難しくなっており、これが村を次の段階、町への発展を阻害する足枷になっている。
そこで村長の権限を分散し、有力者が集まって意思決定を行う議会の設立準備が進んでいたけれど、設立までもう一歩のところで止まってしまう。
恐らく私が有力者が複数いる事で起きる、権力争いを嫌う発言をしていたせいだ。
故に議会の設立は、私の死を待っている。
こうした事は他にも幾つもあった。
繰り返しになるが、別に悲観してる訳じゃない。
私の死が、物事を進ませる切っ掛けになるってだけの話だ。
起き上がれなくなった日から、竜は家に毎日見舞いに来る。
ありがたくはあるけれど、湿っぽい空気を出されても鬱陶しい。
「旦那様、最期の時は家族に見守られて死にたいので、もう来なくていいです。私の死よりも、村の様子を見ていてください」
なので今日は、もうそう言って追い返した。
役目を負えて死を前にしてるのに、惜しんでくれるのは嬉しいが、引き留められても困るだけだ。
まだ竜には、その違いが判らぬ様子。
長く生きる竜なのだから、そのうち誰かが教えるだろう。
私以外の誰かが。
竜は何だかんだと言っていたが、私が言葉を発する力を温存したがっているのだと察すると、しぶしぶ部屋を出て行った。
そういえば、人間は死ぬとどうなるんだろうか?
生きてる間にそれを知る事のできる人間はいない。
竜ならば知っていたかもしれないので、それを聞いておけばよかったかと思う。
何故なら私はもうすぐその答えを知るのだから、正解していれば竜はやはり凄いのだと思えるし、間違っていれば、やはりあの竜らしいなぁとも思えるから。
まぁ、いいか。
今の竜は、一つ聞くとずっと話そうとするだろうから、長くなって疲れてしまう。
私は竜が出て行った後、子や孫を、一人ずつ呼んで、言葉を残す。
子も孫も、忙しい者が多いのに、厭う事なくに集まってくれた。
それから最後に妻を呼び、これまでの話をする。
私の人生で最も良かった出会いは、彼女に巡り合えた事で、次に子供達の誕生、それから孫の誕生と続くが、その次にくらいに来るのが、竜との出会いだ。
最初の出会いでは死を覚悟したが、あそこで人生が大きく変わった。
竜に仕えた25年は、色々な事があったけれど、振り返ってみればとても楽しかったように思う。
子供達は立派になって、もう何の心配も要らない。
孫はその子供達が導くだろうから、私が心配する事じゃない。
私が少しばかり先に逝ってしまうのは、妻には申し訳ないけれど、これもまた子供達が、妻の残りの時間を支えてくれるだろう。
……竜は、どうなるだろうか。
これはロギン次第だ。
明日から暫く、何十年かの間は、竜と最も深く関わるのはあの子になる。
どんな出会いがあって、どんな問題が起きて、どう解決して、どう喜び、どう嘆くのか。
それはもう、私には想像する事もできない。
まぁ、ロギンなら大丈夫か。
先程、あの子に言葉を残した時も、しっかりとそれを受け止めてくれていた。
後はロギンに、いや……、次のセバスチャンに任せればいい。
声を発する力を最後の一滴まで絞り出した私は、妻が握る手を、握り返す。
そして息を大きく吐いて、……最期の瞬間、どこか遠くから、竜の吠える声が聞こえた。




