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竜とセバスチャン  作者: らる鳥
初代セバスチャン

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18/19

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 竜が村にやって来てから二十年程が経ったある日、

「なぁ、セバスチャン、何か欲しい物はないか?」

 私は竜にそう問われる。

 暫く考えてから、

「書き易い、質の良い紙が欲しいですね。近頃は手元が見え難くて、書類の字が書き辛いので」

 そう答えると、竜は深々と溜息を一つ吐いて、翼をはためかせてどこかへ飛んでいってしまった。


 一体、何だったのだろうか。

 欲しい物を聞かれても、そんなに急には出てこない。

 元々、あまり物欲の強い方ではないので、咄嗟に思い浮かぶのは、近頃は書類仕事に手間取る事に対する不満くらいだったのだ。


 あぁ、でも、村に新しい特産品が欲しいとでも言えば良かった。

 もう村の人口は二千人を超えていて、今も毎年増え続けている。

 王都から住人が送られてくる事はなくなったが、竜が治める村が急速に成長しているだとか、竜が村を守ってるという、良い噂が人を呼び、移住希望者が途絶えない。

 また生まれてきた子供の多くが無事に育つというのも大きいだろう。


 もちろん人が増えれば問題も増え、村長を譲った長男は日々忙しそうにしているが、それでも大きくなっていく村の様子に、働く顔は楽しそうだ。

 次男と次女も、それぞれに村になくてはならない人材にまで成長し、多くの人に頼られている。

 孫の数も増えていて、それぞれに特徴があって面白い。


 中でも家令を譲ると決めて後継者として育てているロギンは、幼年学校も卒業し、今はもう、私の補佐として働いてくれてる。

 もちろんまだ十二の子供だから、できる事はあまり多くないけれど、今から私の補佐として村の主要な人物と関りを作っていけば、いざ、竜の家令を引き継いだ時も、スムーズに仕事ができる筈だ。

 周囲からは、子供に期待を掛け過ぎだと言われる事もあるけれど、ロギンはそれをプレッシャーに感じてる様子もなく、楽しそうに学び、仕事をこなしてる。

 あの子はやはり、大物になると私は思う。


 何もかもが順調で、不満はない。

 問題は幾つも起きているが、解決が可能なものばかり。

 いや、このかすみがちな目を除けば、大体の問題は解決できる。


 後は私が生きてる間に、どれだけのものを子や孫に、或いはこの村や、それから竜に、残せるか。

 そんな事を考えるようになっていた。


 どこかに行った竜が戻ってきたら、やっぱり特産品が欲しいと言って、一緒に新たな何かを考えてみよう。

 その方が、竜もきっと楽しいだろうから。

 いや、特産品だけじゃなく、村の名所が欲しいかもしれない。


 恐らく孫の代には、この村は町になる。

 人口が千五百を超えるとなれば、既に村としては相当に大きい。

 増加率を考えると、後十年もしないうちに三千、二十年もあれば五千に届いてもおかしくなかった。


 そうなると、領主としての格を考えれば、館よりも城が必要になるだろう。

 城の建設には何年もの時間が掛かるだろうから、今から計画し、取り掛かっておくべきだ。

 館では無理だったが、城ならば、竜がその姿のままでも寝られるだけの、広いスペースを確保できるかもしれない。

 中庭か、或いは広い地下室か。

 予算は十分に余裕があるから、建築士達と相談しようか。


 竜も人の姿でいる事に随分と慣れた様子だが、それでも寝る時は竜の姿に戻る為、今でも山に飛んでいく。

 けれども広い城を造れたら、竜はここに留まり続ける事ができるだろう。

 私が生きている間にその城が完成させられれば、私も満足して家令という役割を終えられそうだ。

 


 その夕方、領主の館に戻ってきた竜は手に幾つかの品を持っていて、

「セバスチャン、長年の忠勤の礼に、これらの品をやる。これからもよろしく頼む」

 人間の姿に変じた竜は、それらを机の上に置き、そんな言葉を口にした。


 あぁ、この為に、欲しい物はないかと聞いてきたのか。

 それにしても長年の忠勤だなんて、竜に二十年を長い年月と思う感覚があった事に、私は少しびっくりしてしまう。

 ……でも、そんな風に思ってくれて贈り物をしてくれるなんて、少しだけ目が潤みそうになるくらい、嬉しかった。

 いや、年を取ると涙が出やすくなってどうにもいけない。


 さて、それらの品を見てみると、装飾の付いたガラスの輪に、ペンに、一冊の本。

 よくわからないガラスの輪はさておき、本を手に取ってページを捲れば、中には何も書かれてなかった。


 私が思わず首を傾げると、

「まずこれはモノクルといって、目に装着するものだ。着用すれば遠くも近くも良く見える。外そうと思わない限りはズレたり落ちたりする事もない。大昔に、ドヴェルグが作った魔法の品だ」

 竜がとんでもない事を言う。

 ドヴェルグというのは、それこそ神話に出てくるような伝説の種族で、不思議な力を持つ魔法の道具を作ったという。

 いや、竜の言った効果が本当なら、紛れもなく魔法の品なのだが……。


 えぇ、いや、そんな物、私がもらっていいんだろうか?

 あまりに大袈裟な品過ぎて、喜びよりも恐れ多さが勝ってしまう。


「ペンと本は王都で買ってきた品だが、書き易さは間違いない品だという話だ。竜の魔法をかけておいたから、壊れたり、書いた文字が薄れて消えるような事はない」

 まるでオマケのように竜は言うけれど、私にとってはこちらも非常に大層な品だ。

 正直、私が欲しかったのは消耗品としての紙で、この村で買える物はあまり質が良くないから、もっといいものが手に入るようにしたい、くらいの話だったんだけれども……。


 流石にこんなに大層なものを、普段の書類仕事には使えない。

 だけど、私の希望を聞いた竜がこれらを用意してくれたのだと思えば、やはりとても嬉しかった。


「このような品を、本当によろしいのですか?」

 恐る恐る問うてみると、竜は頷き、

「貰ってくれなければ、俺も困る。これらはお前の為に用意したんだ。モノクルは、溜め込んだ品の中から探すのに、少しばかり手間取ったけれどな」

 それから笑ってそう言った。


 竜の言葉に、私は意を決してモノクルを手に取り、それを右の目に当てる。

 するとどういう仕組みなのか、いや、魔法ではあるんだろうけれど、モノクルはピタリとそこに嵌って、吸い付いたように動かない。

 そしてモノクルを通して見る世界の澄み切った様に、私は思わず感動を覚えた。


「家宝として我が家に……、いえ、旦那様にお仕えする者の証として、これは代々の家令に受け継ぎます」

 これは本当に、凄い代物だ。

 王都にいる国王陛下だって、こんな魔法の道具は持ってないに違いない。


 私がそう言って頭を下げると、

「大袈裟だな。だがセバスチャンが喜んでくれたなら、俺も満足だ」

 竜は笑って、嬉しそうに頷いた。




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― 新着の感想 ―
そうか、当然凄い財宝持ってるな、竜だもの。
やばい…この20年の竜とセバスの関係性が伝わってきて涙出る
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