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竜とセバスチャン  作者: らる鳥
初代セバスチャン

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 領主は領民から税を取る権限、徴税権を有するが、他にも色々と権限を持っていて、その一つに領民を裁く権限、裁判権があった。

 以前に権限については色々と述べたが、領主としての権限は、言い換えると役割であり、仕事だ。

 例えば徴税権は、領民から税を取り、それを使って町を整備したり兵士を雇用して、領民達の暮らしを支えるという役割だろう。

 そして裁判権は、領主としての役割の中でも最も重要といっていい、いっそ、その為に領主が必要とされていると言ってもいいくらいに、大切な役割である。


 では一体裁判権にはどういう意味があるのかといえば、領民達が暮らしの中で起こすトラブルの解決だ。

 領民同士で利害が相反して対立が起きた時、その利害を調整して仲裁したり、罪を犯した者に適切な罰を与えたりして、領内のトラブルが、それ以上大きなトラブルとならぬように解決を図らなければならなかった。

 これがかなり難しくて、特に仲裁に関しては、余程に上手くやらなければ両者の納得を得る事は難しい。

 その納得を得る為に、王国法やら慣例やら、最終的には領主の持つ威厳がモノを言う。


 これまでは竜がくる以前、小さな開拓村だった頃と変わらず、私が仲裁を行っていて、罰を与える事に関しては村民達のある程度の総意で行われていたけれど……、三年目の秋に更に新たな住人が加わった事もあって、そろそろ私では仲裁が難しくなってきた。

 もちろん王国法や慣例に関しては、竜よりも私の方が圧倒的に詳しいのだけれど、領主としての威厳ばかりは、単なる村長であった私にはどうにもならない。

 罰に関しては猶更で、開拓村ができたばかりの頃のような、馬鹿な真似をして大きく輪を乱した者はそもそもいなかった事にする……、なんて真似はもうできないから。

 これからは私の補佐を受けながらではあるけれど、竜が領民に対して裁判を行う必要がある。


 さて、そんな裁判が、三年目の秋の終わり、冬が始まる前に、行われる事になった。

 今回の裁判は、明確な罪に対して罰を与える裁判だ。


 罪に問われる者は、この秋に村にやって来たばかりの若い男、名はローディル。

 彼は幼年学校で教師役をこなしていた私の娘をかなり強引に口説き落とそうとし、彼女を庇って割って入った子供、竜が連れてきた子供の一人を、殴り飛ばして怪我をさせた。

 私の娘に目を付けた理由は、一つ目は村の中では見目が良かったからで、二つ目は私という村内での権力者の娘だと知ったから。

 どうにか私の娘と結婚すれば、この村の中で不自由なく暮らせると思ったそうだ。


 尋問してこの話を聞き出した自警団の団員の報告や、ローディル自身の言い分を聞く間、人の姿に変じた竜は露骨に怒りを見せていた為、傍らで裁判の補佐を行う私はどうにかその怒りを鎮めようと、竜の背中に手を添えた。

 どちらかと言えば怒りたいのは私の方だが、いや、自分が連れてきた子供がそんな理由で怪我をさせられたのかと思う竜が、怒るのも当然ではあるんだけれども。

 

 ちなみにローディルを尋問した自警団の団員は私の長男で、その尋問はかなりきついものだったらしく、裁判の時点で既にローディルは少しばかりぐったりしている。

 とはいえ、一昔前の開拓村なら、間違いなくローディルはいなかった事になってただろうから、彼はまだ運がいい。


 結局、ローディルに下された罰は、村からの追放、王都への返却だった。

 この文言だけを見れば随分と甘い裁きになるが、彼は王都が支援として寄越した住人の一人だ。

 それが来てすぐ、こんな形でトラブルを起こしたのだから、王国に文句の一つも言いたいと、竜は考えたのだろう。


 王国に返却されれば、ローディルはこの村で裁かれるよりも、重い罰を受けるかもしれない。

 何しろ友好的な竜の怒りを買いかねない真似をして、王国の面子を潰したのだから。


 ローディルが途中で逃亡できないよう、王国にも一言文句が言いたいからと、その護送は竜が直接行う事になった。

 といっても、当然ながらその背に乗せて運ぶ訳じゃなく、簀巻きにされたローディルを、竜は前脚で鷲掴みにして、王都まで飛んでいくそうだ。

 正直に言って、その護送が既に罰である。


 ただ一つだけ、ローディルがこの村にもたらした益があるとするならば、竜が裁判の経験と実績を得た事だろう。

 今回の裁判は明らかにローディルのみが悪く、彼に対しての罰を決めるものだったから、状況が非常に単純だった。

 その上、村に来て日も浅かった為、ローディルに対して同情する者は一人もおらず、どんな罰を下そうが、それが軽すぎない限りは問題ない。

 更に言えば、竜もローディルに対しての思い入れが一つもないので、重い罰を下す事に躊躇いが生じないという、非常に簡単な裁判だったのだ。


 とはいえ裁判は裁判である。

 多くの人が見守る前で、単なる怒り任せでない判断を、多くの人が納得できる裁きを行えると示した竜は、皆からの信頼を得ただろう。

 もちろん既に竜は皆から様々な信頼を得ているが、今回は裁判を任せても大丈夫だと、公平な裁きを受けられるとの信頼が、そこに加わった。


 これなら次のトラブルが起きた時も、竜が主導で裁判を行える。

 尤も、裁判が必要になるようなトラブルなんて、なるべくならば起きない方が良いんだけれども。




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