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竜とセバスチャン  作者: らる鳥
初代セバスチャン

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 竜が村にやって来てから二年目の秋、領主の館が完成する。

 これには当然ながら竜が一番喜んだが、村人達も村の象徴となる建物の完成には喜んでいた。

 但し誰もが手放しに喜んだ訳じゃなくて、これまでは主に村の外で接触していた竜が、村の中に滞在し続けるという事に、幾らかの不安を覚える者も、居なくはなかったが。


 さて、そんな領主の館だが、流石は王都から来た建築士が差配して建てただけあって、この開拓村はもちろん、町でもなかなかお目に掛かれないような立派な建物だ。

 特徴としては、村の広場に勝る広さの裏庭だろう。

 これは竜が直接降り立ったり、飛び立ったりできるように、縄張りの段階で大きく場所を確保していたのだ。


 或いは竜が人間の姿への変身を面倒臭がって建物の中にあまり入らなかった場合、……この裏庭が一番使われる場所になるだろう。

 これまで村はずれで行っていた報告を、ここでする事になるから。


 まぁ、竜が普段から建物に入るかどうかは、正直に言ってしまえばあまり大きな問題じゃなかった。

 いざという時にはここで、外からの客を出迎えたり、村人からの陳情を受けられるというだけでこの場所には大きな意味がある。

 また、これからは私の主な職場もここだ。

 何しろ、私の役割は一応は家令という事になってるので、管理する館の一つもないと、どうにも名ばかりで格好が悪い。

 尤もあくまで一応だから、この館に部屋を貰って住む訳じゃなくて、ちゃんと毎日我が家に帰るが。


 この館の完成祝いに、仕立て屋から一着の服が贈られる。

 王都から持ってきた生地で仕立てられたその一着は、本来ならば竜の為のものであるべきなのだが……、残念ながら竜が人間に変身する時は、纏う服も一緒に再現してしまう。

 なので、仕立て屋から送られたのは、私の為のフォーマルな家令服だった。


 確かに、家令の服装が見すぼらしいと、客人を迎える時に主の格を下げてしまうから、これは本当にありがたい。

 ただ、本当だったら仕立て屋も竜の衣服を作りたかったろうに、申し訳なさを感じてしまう。 


 当然のように館の完成を祝う宴の席も設けられて、そこで村の若者達の数組の、結婚の祝いも行われる事となる。

 そしてその数組の一つに、私の長男が入っていた。

 どうやら自警団として活動していた私の長男は、王都からやってきた新しい住人達と関わる機会が多かったようで、その一人である若い娘といつの間にか恋仲になっていたのだ。

 

 王都から新しい住人がやって来て半年、彼らと元からいる村人の間には、まだ幾らかの壁がある。

 お互いに遠ざけ合ってるという訳ではないのだが、人はどうしたって同じ属性を持つ者同士で集まり易い。

 この場合の属性が、今回は元からの村人、王都からやってきた新しい住人という二つなのだ。

 例えば私だって、共に食事をとるならば、どうしたって古くからの友人がいる元からの村人達と……、なんて風になりがちである。


 こういう状況を変えるには、私のような年を経た者よりも、若者の方が向いているのだろう。

 恐らく長男は、別にそこまで深い事を考えていた訳ではないんだろうけれど、村長である私の息子と外からやって来た住人の結婚は、両者の距離を近付ける切っ掛けになってくれそうな吉事だ。


 ちなみにこの宴を最後に、まだ村に居残っていた冒険者達には出て行って貰った。

 知識の豊富な女魔術師、ロンダの手伝いは村の運営をする上で非常に有り難かったが、彼らが冒険者を続けるならば、この村に居続ける事は時間の浪費でしかない。

 時々遊びに来るくらいなら構わないし、引退後の定住先に選んでくれるのなら歓迎するからと言って、背中を押して送り出す。

 ただロンダは、今回の宴で結婚した恋人達を羨ましそうに見ていたから、或いは彼女が引退してこの村にやってくるのも、そう遠い事ではないかもしれない。



 それからひと月が経った頃、ある事件が起きる。

 何時ものように空を飛んでやってきた竜が、何故だかその腕の中に、馬のいない馬車を大事そうに抱えていたのだ。

 不審に思って領主の館の裏庭に下ろされたその馬車を確認したら、やせ細った子供が七人、怯え切った様子で乗っていた。


 私は思わず眩暈を感じて、……だが竜を問い詰める前に人を呼び、子供達のを宿に連れて行って食事を与えるようにと指示を出す。

 その上で、さて一体、何をしてくれたんだと竜から事情を聞き出した。


「違う。攫ってきたんじゃないぞ。馬車が魔物に襲われていてな。魔物は追い払ったんだが、中に子供がいたから持ってきたんだ」

 なんて風に、弁解をしていた竜の話を纏めると、恐らくあの子供達は口減らしに売られ、運ばれている最中だったのだろうと予想が付く。

 だがその輸送中に馬車が魔物に襲われて、奴隷商人と護衛は馬車を捨てて逃げ出した。

 馬車の中の子供達が無事だったのは、先に馬が殺されて、魔物に喰われていたからだったらしい。

 もしも奴隷商人や護衛が魔物と戦っていたなら、魔物は目先の食事よりも全ての獲物をまずは狩る事を優先した筈だから、竜が間に合ったという結果を考えるなら、子供達にとっては見捨てられたのはある意味で幸運だったのだろう。


 ただこの話にはとても大きな問題があって、何と竜がこの馬車を拾ってきたのは、あの山よりも随分と北、つまりは他国だったのだ。

 これは結構不味い問題で、場合によっては竜が他国民を攫ったのだと思われてしまう。

 別に野良の竜なら人間を攫おうが何をしようが、その竜自身が悪竜と見做されるだけなのだが、私達の領主である竜は、王国の貴族、竜爵である。

 すると竜が他国と起こした問題は、王国と他国との国際問題になりかねない。


 正直、こんなものは私が幾らか考えを巡らせたところでどうにかなる問題じゃないので、王国に対処を任せるしかなかった。

 後で経緯を説明する手紙を書いて、竜に王都へ行かせるか……。


 それくらいしか私にできる事はないので、これ以上は考えない。

 この事で竜は、王国に対して大きな借りを作るだろう。

 ただ恐らく、子供達を返せとは言われない筈。

 他国、北の国といえば恐らくハストラ公国だとは思うが、いずれの国であってもあの子供達は所詮は奴隷として売られた子らだ。

 竜が起こした問題は、国際問題として突く価値があっても、あの子供達に何らかの価値が生まれる訳じゃない。


 言い方は悪いが、それが奴隷という存在だ。

 ちなみに多くの国で奴隷の所持は法的に許可されている。

 一部、例えば北東にある教国、教会の元締めである国等では、奴隷の所持は違法となっているが、奴隷を禁じてしまうと戦争で捕虜になった者や、口減らしの対象になる者が、奴隷にすらなれずに悲惨な死を迎えるしかないので、奴隷の所持に関しては昔から議論されつつも、多くの国で合法のままになっていた。


 尤もこれには例外があって、亜人種の奴隷は人種間の争いの火種となるので、これは殆ど全ての国で違法になってる。

 今回の子供達は亜人種ではないし、身形や年齢的にも、間違いなくどこかの村で口減らしの対象となった子らだろう。

 働き手となる成人男性や、身目の良い年頃の娘なら奴隷としての値は高いが、このくらいの歳頃の子供の値段は、かなり安い。

 わざわざそれを返せと言われるような事は考え難かった。


 ならば私達が、あの子供達をどうするのかを決める必要が出てくる。

 敢えてこちらから返すという手もあるのだけれど……、口減らしに売られた子供の奴隷がどういう扱いを受け、どのような末路を辿るのかを考えると、それはあまり気が進まない。


「ならばセバスチャン、あの子らは俺の養子としてこの館に住ませよう」

 そんな寝言を竜が言うが、私は大きく息を吐き、首を横に振った。

 認められるか、そんな馬鹿な事。


「ダメです。もしそうされる心算なら、貴方を領主とは認めず、私はロワイスの村を独立させるでしょう。領主ごっこはあの子供達とだけしててください」

 思い切り冷たく、私は竜にそう告げる。

 結局のところ、村の差配をしているのは私なので、今回、竜がしようとしていた事を村人に話せば、恐らくほぼ全ての村人が私を支持して、ロワイスの村は竜から独立するだろう。


「待て待て待て、セバスチャン。お前は俺の家令だろう!?」

 私の言葉に慌てたように、悲鳴のような声で竜が言うが、その主と家令という関係も、村が真っ当にやっていけるからこそ成り立つものだ。

 竜がそれを揺るがそうとするなら、そんな関係は簡単に吹き飛ぶ。

 何故なら私には家族があって、村を開拓していた頃から付いて来てくれている村人達がいて、彼らを守る義務が私にはあるから。


「その関係も壊れてしまう程に信頼を失う行為を、今の旦那様はしようとなさってるのですよ」

 もちろん、あの子供達を哀れに思う気持ちは私にもあるし、竜が同じ気持ちを持っているという事は、……まぁ、少しばかり嬉しくも思う。

 ただ、それでもあの子供達を竜の養子とするのは認められない。


 たとえ養子であっても、竜、つまり領主の子になって館で暮らすというのは、特権階級に加わるという意味だから。

 村とは全く関係のない場所から突然現れた特権階級を、どうして村人達が受け入れられるだろうか。

 竜は気まぐれでそういう事をしてしまう。

 そう認識されれば、村人からの竜への信頼は失われ、或いは上手く竜を利用して自分も特権階級の側に加わろうとたくらむ者が、村の内にも外にも現れかねない。


 領主が親を失った子を引き取った例はある。

 しかしその場合は、親戚の家が滅びたからとか、忠臣が命を捨てて領主に尽くしたから、残されたこの後ろ盾となる為だとか、周囲が納得するだけの理由が必要だ。

 その上で、家の継承には関わらせないとの宣言を最初にしなきゃいけない。


 しかし今回は周囲が納得するだけの理由もないし、竜も何も考えずに哀れみだけで発言をした。

 だから私は怒ったのだ。


「わかった。すまなかった。……だがセバスチャン、ならばあの子達をどうする?」

 竜の美点は、こちらの話にちゃんと耳を傾けてくれるところだろう。

 私の話を聞き、竜は素直に謝罪を口にして、その上であの子供達の身を案じる。


「主に二つの選択があります。一つは村人の家にバラバラに、一人ずつ子供を引き取ってもらう事。子を失った家もありますので、引き取ってくれる家もあるでしょう」

 だから私も、ちゃんと子供達をどうするべきかの道を示す。

 一つ目は、竜ではなく、村人達の養子とする事だ。

 以前も話した通り、子供は簡単に死んでしまう。

 子供を失い、そしてその後は子供に恵まれなかった家もある。

 そうした家なら、子供を一人か二人は引き取ってくれるだろう。


 私の家も、次女を除けば子供達は一人前になっている。

 一人くらいなら引き取って、育ててみてもいいかもしれない。

 当然ながら、妻と相談した上での話になるが。


「もう一つは孤児院ですね。子供達の世話する者を雇って、教育する者も用意して、学ばせ独り立ちできるようにします」

 二つ目は、子供達が一纏めで暮らせる場所、孤児院を用意する事だった。

 建物は、一旦は余ってる住居を使う事になるが、新しく大きめの専用の孤児院を用意した方が良いだろう。

 そして子を失った者、……咄嗟に思い浮かぶのは以前に息子を亡くしてからあまり元気のないマーシャだが、彼女のような者を雇って子供達の世話をさせ、教育を施してなるべく早く独り立ちを促す。


 教育は、私の次女に任せようか。

 彼女には長男、次男と同じく、読み書き計算等は一通り仕込んである。

 来年には、次男と同じく文官への道に放り込もうと思っていたが……、孤児への教育にあたらせれば、将来的にはより多くの文官を得られるようになるかもしれない。

 気質的にも、数字と向き合い続けるよりも、子供を相手にする方が向いていそうな気もするし。

 もちろん本人に希望を聞いて、断るようなら別の者を探そう。


 あぁ、いっそ孤児だけでなく、村の子供達の全てが学べる場所を作るべきか。

 同じ場所で学べば、孤児達と村の子供達の間にも繋がりが生まれる。

 このまま村が発展すれば、仕事をするにしても買い物をするにしても、読み書き計算は役に立つだろう。


「……わかった。セバスチャン。お前に任せる。あの子達が生きられる道を与えてやってくれ」

 竜の言葉に、私は胸に手を当てて、恭しく一礼をした。



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