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村の主食である大麦の収穫も終わると、丁度いい時期だろうという事で、竜への今年の納税が行われる。
税率は結局、収穫物の三割だ。
尤もこの税率は数年間の暫定的なもので、今後は村の発展具合や仕事の多様化に応じて、柔軟に変化させていく。
今は税を取れる対象が畑からの収穫以外にないから、そこにのみ税を課しているが、鍛冶師や醸造家、仕立て屋に木工職人等が入ってきた今、これは決して公平な税とは言えなくなった。
皆から公平に税を取るなら、柔軟な制度を作る必要がある。
例えば、これまでは村人達が当たり前に行っていた建築も、これからは労働力の供出として、税の一部と見做す。
つまり労働力を供出した分は、税の支払いを免除する等の措置を行う事になるだろう。
正直、とても面倒臭い。
私一人じゃとても対応しきれないから、それらの計算を専門に行う人員が必要になる。
差し当たっては、私の次男にそれらの計算を専門にやらせようとは思うが、このまま村が拡大すれば、もっと多くの人員、文官が必要になる筈だ。
「なぁ、セバスチャン。この全てが俺のものか? 全て俺の好きに使っていいのか?」
だが嬉しそうに積みあがった麦の袋を眺める竜や、何よりも村の健全な運営の為には、避けては通れぬ仕事である。
いやそれにしても、今年は豊作だったなぁ……。
小麦と大麦の袋は別にして倉庫に積んであるけれど、どちらもかなりの量だった。
尤も、今は人間の姿に変身してる竜が、元の姿に戻ったならば、大した量には見えなくなってしまうんだろうけれども。
「もちろん駄目です。まぁ竜爵としての税の支払いは、去年と同じでいいとして、ここから自警団の運営や、建築士への報酬等、村の為に働いた者への手当を出す必要がありますので、旦那様が好きにしていいのは、そうですね、1/3くらいじゃないでしょうか」
税を竜の好きに使わせると、毎日宴を開いてすぐに倉庫を空にしそうなので、ちゃんと釘を刺しておく。
実際のところ、これまでは税を村の外からやってくる徴税官に支払っていたけれど、そこから村に対しての費用なんて少しも出なかったので、この倉庫が空になったところで特に何も変わりないというか、村の運営を行う事は可能だ。
だがこの村の領主が竜であると皆が認め敬い、共にこの地を発展させていくならば、やはりそうした費用は竜の財産から出した方がいい。
竜がそうしてくれるなら、表向きの税率は変わりがなくとも、村人の負担は大きく減る。
またそもそもの出所が自分達が納めた税であっても、それが村の為に使われたなら、村人達は竜に感謝をするだろう。
ただ、当然ながらそれは理想の話だ。
今は兎も角、村が大きくなって、人が増えていったなら、どうにか納める税を誤魔化そうと考える者は必ず出るし、また税の使い道で恩恵を受けられずに不満を持つ者も、同じく必ず出てくる。
それが人の集落が発展し、社会が成長、複雑化しているという事なので、ある程度は仕方ないのだが、放置すれば社会を揺るがし不安定なものにしかねない問題に発展してしまう。
故にそうした問題を小さなうちに解決できるよう、……文官の育成は今の内から始めておかなきゃいけない課題だった。
まぁ、課題は一旦さて置いて、納税が終われば待っているのは、収穫を祝う祭りである。
今年は豊作だったから、祭りの準備を行う皆の表情も一段と明るい。
ちなみに来年の収穫は、もっと量が増えると思う。
来年が不作か豊作化、それとも例年通りかはまだわからぬ話ではあるが、これから冬の種蒔きまでに畑を大きく広げる事は既に決定している。
村の人口が増えた為、労働力に余裕が出たからだ。
労働力の一部は建築や、技術者達の手伝いに割かれるけれど、この村の主な産業は今のところは農業なので、人が増えれば畑を広げるのは当然だった。
さて、竜が来てからこの村では、祭りや宴のたびにグレートホーンの肉が饗されている。
今回の祭りもまた、竜がグレートホーンを獲って来てくれる事になったのだけれど、そこに魔物の研究者であるホーレンから、一つの注文が入った。
「この村ではグレートホーンの家畜化を計画してるでしょう? 僕は知識として、グレートホーンの角を折るとどうなるかを知っているけれど、皆さんは知らない。なので具体的に家畜化を始める前に、角折ったグレートホーンを見て貰いたいんです」
それは何時ものように仕留めて持ってくるのではなく、生きたまま捕獲してきてくれないかというもの。
これまで、村で食べられていたのは角を折らずにそのまま仕留めたグレートホーンだ。
それが角を折られればどうなるかを観察し、それから仕留めて、肉として食べる事で、角を折られていないグレートホーンとの違いを、村人に知って欲しいのだと、ホーレンは言う。
その注文を、竜はこともなげに頷き、引き受けた。
心配になって運べるのかどうかを尋ねてみたが、竜曰く、角さえ折ってしまえば無抵抗になるから、仕留めた獲物を運ぶのと大きな違いはないらしい。
竜もホーレンも大丈夫だとは言うけれどグレートホーンは魔物だ。
万一、村で暴れられると困るので、グレートホーンを運ぶ場所を村の外れに指定し、自警団と、それから何故だかまだ村に残ってるロデナ、パド、ラザレの三人の冒険者にも武器を持っての警戒を頼む。
正直、祭りって雰囲気ではなくなってしまうが、……ホーレンが言うように、村人が角を折ったグレートホーンを知る意義は大きい。
そして暫く待っていると、山の向こうから翼をはためかせた竜が、その手にグレートホーンをしっかと握って、村へと戻ってきた。
確かに、竜に掴まれたグレートホーンは、全く抵抗する様子がない。
一瞬、竜がうっかりと、何時ものように仕留めて運んできてしまったのではないかと思う程に。
「どうです? 大人しいでしょう」
それを見ながら、私の隣に立っていたホーレンが言う。
私がそれに頷けば、
「あの大人しさが曲者なんですよ。これまでにも、グレートホーンを家畜化しようとした例はあったそうです。角を折るだけで、あんなに大人しくなる魔物ですからね」
ホーレンはこちらを見ながら、にやりと笑った。
大人しい事が曲者?
「あの大人しさを見ると、人はどうしてもグレートホーンを侮ります。まぁ、実際に危険はないですよ。闘争心の象徴である角を折られれば、グレートホーンは大きいだけの牛です。本来ならば剣をも弾く皮ですら、柔らかくなって簡単に斬れるようになるんです」
私が首を傾げると、ホーレンは言葉を続ける。
しかし出てくる話は、角を折られたグレートホーンは安全だという話ばかり。
そうしてる間に竜が空から舞い降りてきて、そっと掴んでいたグレートホーンを話した。
自警団と冒険者達が警戒して武器を構えるが、グレートホーンが暴れ出そうとする様子はない。
「しかしグレートホーンを繁殖させて生まれてくる子は、角を持った、闘争心に溢れるグレートホーンです。もちろん生まれてすぐは幼体ですから、すぐに角を切り落としてしまう事はできるんですが、角を切られたグレートホーンは成長しなくなるんですよ」
ホーレンの話は続く。
あぁ、流石にそこまで言われると、何が問題なのかはわかってきた。
成長の為には角が必要だというのなら、確かに角がない状態の大人しさは罠だろう。
「だから食肉の為に育てるなら、角はそのままにしなきゃならない。かといって下手に成長させすぎると、手に負えなくなってしまう。グレートホーンの大人しさを侮った者は、誰もがもう少しだけ成長させようと考えて、手に負えなくなってしまって破滅します」
それも人間の欲に浸け込む、巧妙な罠だ。
グレートホーンが暴れ出さなかった事に、皆が安堵の息を吐いていた。
だって実際に危険はないのだから。
しかしそれに慣れてしまうと、角を持った幼体の危険性を見誤る。
「難しいんですよ。幼体の間に角を切ると、繁殖能力も得ないままになりますし。最初に角を折って捕まえた親だって、子供を生める数には限りがあります。そもそも親となるオスとメスを揃えて捕まえるハードルも高いですから」
確かにそうだ。
子供のままで成長を止めてしまえば、生殖能力は備わらず、次代を生ませる事ができない。
最初の親となったグレートホーンを使い潰せば、それ以上は増えなくて、数は頭打ちになる。
「ですがここなら竜がある程度の数は、親となるグレートホーンを捕まえてきてくれるでしょう。数がいれば、幼体をどの程度まで成長させるかの見極めも回数がこなせて、記録が溜まり易くなります。なので本当に楽しみなんですよ」
膝を折り、のんびりと蹲ってしまったグレートホーンを見ながら、ホーレンは笑う。
なるほど、確かにこの説明は、実物を見ながら聞いた方が、理解が早い。
……でも、まぁ、やっぱり祭りの日にする事じゃないよなぁと思いながら、私は角を折られて大人しくなったグレートホーンを観察する為、その傍に近寄った。
少しでも早くグレートホーンを理解して、祭りで饗されるメイン料理にする為に。




