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小麦の収穫が終わって、竜が村にやって来てから、一年が過ぎた。
若い頃に比べると、年を取ってからは時間の流れが早いように感じていたけれど、今年は特別に早かったと思う。
それだけ村に変化があって、多くの事が起きたからではあるんだろうが、……そうなるとこれから先も、どんどんと時間は早くなっていくのかもしれない。
春に新しい住人がやって来てから、村ではずっと建築が行われている。
もちろん彼らの住居は到着前には用意してたんだけれど、それだけでは足りないものが幾つもあるからだ。
その一つが、技術者達が働ける場所。
医者なら診療所で、鍛冶師なら炉を備えた鍛冶場といった具合に。
技術者がその真価を発揮するには、適した仕事場が必要だった。
だがこれは当然ながら、技術者の働き方、もっと言ってしまえば用途にも関わる話で、村の方針との兼ね合いが必要になる。
例えば料理人は、恐らく竜に料理を饗する為にやって来た人材だが、実は竜が村で食事をする事はあまり多くない。
何故なら前提として、竜が人の食事をするには、魔法で人の姿になる必要があるからだ。
人の姿になった時は、寧ろ並の人間よりも遥かに多くの量を食べるから、食事をしたくない訳じゃないだろう。
しかし竜曰く、人の姿になる事は窮屈であるらしい。
領主の館が完成すれば、もっと頻繁に人の姿になって貰わねば困るが、それまでの間は別に無理をする必要はなかった。
では領主の館ができるまで、料理人は遊ばせておくのかといえば、それはあまりにも勿体なさすぎるから。
故に料理人とも話し合った結果、ひと先ず、村には食堂付きの宿を建てる事で決まる。
普段はここで村人を相手に食事を振舞いながら弟子を育て、領主の館ができたなら、外部からの客人が来た時等は、そちらに来て料理を饗して貰う。
やがては食堂の方は育った弟子に任せて、領主の館での料理に専念してもらう日がくるとは思うが、それには時間が掛かるだろうし。
村人達に外食という選択肢、楽しみが生まれる事は、日々の仕事への意欲を高めてくれる筈。
また宿は、村が発展していく上で、絶対に必要な施設の一つである。
今のところ、竜の存在を恐れて、この村にやってくる客は殆どおらず、あの冒険者達くらいだったが、ここから先は変わっていく。
技術者達がこの村に来た事で、特産となる品を生産できるようになったからだ。
醸造家には大麦の収穫が終わり次第、その一部を酒にして貰う予定だった。
そしてその酒は、多くは村の内部で消費されるとは思うが、少量ならば、町に運んで売ってもいい。
これまでも、村の中では大麦を酒にしていたが、それは各家庭で、大麦の余剰を保存し易く加工しているって意味合いが大きく、出来も不揃いだ。
売り物には、到底できるような代物じゃなかった。
けれども醸造家が生産した麦の酒なら、質も高く安定し、売り物にだってなるだろう。
私としては、実は蜂蜜の酒が好きなので、人手も増えたし、養蜂が行えるなら、蜂蜜の酒も造って欲しいと思ってる。
また魔物の研究者であるホーレンがいるから、魔物の素材を少しずつでも売却していく事が可能になった。
もちろんあの魔物の素材は竜のものであるが、一部を金に換えて竜爵としての資産にするのは、悪くない手だと思う。
どうせ領主の館が完成したら、家具や食器等を買う為に、それなりに金が掛かるのだ。
魔物の素材が買えるとなれば、商人がこの村まで来てくれる可能性は低くない。
ならば村までの道の整備も必要か。
行き来のし易さは、人を呼ぶ上での重要な要素だ。
新しく村人が増えた事で、町で買わなきゃならない物資も増えた。
それも含めて考えると、道の整備の優先度はかなり高いだろう。
そう、優先度だ。
診療所も鍛冶場も食堂付きの宿も醸造所も、村に必要な施設は数が多かった。
道の整備もそうだし、水車だって造りたいし、養蜂場も欲しいし、グレートホーン用の牧場だって必要になってくる。
それに何より、そろそろ領主の館の建設を勧めないと、竜が拗ねてしまいかねない。
幸い、建築士は二人いたので、二カ所は同時に建設ができる。
その片方が領主の館を担当し、もう片方が村に必要な施設を、優先度の高い順に担当して建てていく。
いや、建てていくとは言ったが、実際にどちらの建築士が領主の館を担当するかは、少しばかり揉めた。
どうやら領主の館を担当するのは、建築士にとって名誉な事になるらしい。
なのでどちらの建築士も、自分が領主の館を担当するのだと言い張ったが、こちらからしてみれば物凄くどうでもいい話である。
この村に来たばかりの彼らが、どちらの腕が上かなんてわからないし、今は名誉も何もないのだ。
今は、二人の腕を等しく求められている。
それに施設を建てる方の仕事も、直接村人からの感謝と信頼を得られる為、決してハズレという訳じゃない。
寧ろそうやって揉めて建築が遅れれば遅れる分だけ、周囲からの評価は下がっていくだけだと説得し、最終的には賽子で決めさせた。
ちなみにその施設に関しても、誰もが自分が関わる施設を優先して欲しいと言った為、やはり少しばかり揉めたけれど、……これは決して悪い事じゃないのかもしれない。
何故なら、今までは、そうやってどちらを優先するかの選択肢すらなかったのだから。
今、何をしなければならないかは自明の理で、私が全てを決めても誰も文句を言わなかった。
それに比べると、あぁ、今はとても恵まれている。
尤も、その揉め事の仲裁をするのは、少しばかりではなく骨が折れたけれども。
村はどんどん変わっていく。
その変化を齎した竜は、見上げると、のんびりと村の上空を旋回していた。




