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竜とセバスチャン  作者: らる鳥
初代セバスチャン

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10/12

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 小麦の収穫が終わって、竜が村にやって来てから、一年が過ぎた。

 若い頃に比べると、年を取ってからは時間の流れが早いように感じていたけれど、今年は特別に早かったと思う。

 それだけ村に変化があって、多くの事が起きたからではあるんだろうが、……そうなるとこれから先も、どんどんと時間は早くなっていくのかもしれない。


 春に新しい住人がやって来てから、村ではずっと建築が行われている。

 もちろん彼らの住居は到着前には用意してたんだけれど、それだけでは足りないものが幾つもあるからだ。


 その一つが、技術者達が働ける場所。

 医者なら診療所で、鍛冶師なら炉を備えた鍛冶場といった具合に。

 技術者がその真価を発揮するには、適した仕事場が必要だった。


 だがこれは当然ながら、技術者の働き方、もっと言ってしまえば用途にも関わる話で、村の方針との兼ね合いが必要になる。

 例えば料理人は、恐らく竜に料理を饗する為にやって来た人材だが、実は竜が村で食事をする事はあまり多くない。

 何故なら前提として、竜が人の食事をするには、魔法で人の姿になる必要があるからだ。

 人の姿になった時は、寧ろ並の人間よりも遥かに多くの量を食べるから、食事をしたくない訳じゃないだろう。

 しかし竜曰く、人の姿になる事は窮屈であるらしい。


 領主の館が完成すれば、もっと頻繁に人の姿になって貰わねば困るが、それまでの間は別に無理をする必要はなかった。

 では領主の館ができるまで、料理人は遊ばせておくのかといえば、それはあまりにも勿体なさすぎるから。

 故に料理人とも話し合った結果、ひと先ず、村には食堂付きの宿を建てる事で決まる。

 普段はここで村人を相手に食事を振舞いながら弟子を育て、領主の館ができたなら、外部からの客人が来た時等は、そちらに来て料理を饗して貰う。


 やがては食堂の方は育った弟子に任せて、領主の館での料理に専念してもらう日がくるとは思うが、それには時間が掛かるだろうし。

 村人達に外食という選択肢、楽しみが生まれる事は、日々の仕事への意欲を高めてくれる筈。


 また宿は、村が発展していく上で、絶対に必要な施設の一つである。

 今のところ、竜の存在を恐れて、この村にやってくる客は殆どおらず、あの冒険者達くらいだったが、ここから先は変わっていく。

 技術者達がこの村に来た事で、特産となる品を生産できるようになったからだ。


 醸造家には大麦の収穫が終わり次第、その一部を酒にして貰う予定だった。

 そしてその酒は、多くは村の内部で消費されるとは思うが、少量ならば、町に運んで売ってもいい。

 これまでも、村の中では大麦を酒にしていたが、それは各家庭で、大麦の余剰を保存し易く加工しているって意味合いが大きく、出来も不揃いだ。

 売り物には、到底できるような代物じゃなかった。

 けれども醸造家が生産した麦の酒なら、質も高く安定し、売り物にだってなるだろう。

 私としては、実は蜂蜜の酒が好きなので、人手も増えたし、養蜂が行えるなら、蜂蜜の酒も造って欲しいと思ってる。


 また魔物の研究者であるホーレンがいるから、魔物の素材を少しずつでも売却していく事が可能になった。

 もちろんあの魔物の素材は竜のものであるが、一部を金に換えて竜爵としての資産にするのは、悪くない手だと思う。

 どうせ領主の館が完成したら、家具や食器等を買う為に、それなりに金が掛かるのだ。

 魔物の素材が買えるとなれば、商人がこの村まで来てくれる可能性は低くない。


 ならば村までの道の整備も必要か。

 行き来のし易さは、人を呼ぶ上での重要な要素だ。

 新しく村人が増えた事で、町で買わなきゃならない物資も増えた。

 それも含めて考えると、道の整備の優先度はかなり高いだろう。


 そう、優先度だ。

 診療所も鍛冶場も食堂付きの宿も醸造所も、村に必要な施設は数が多かった。

 道の整備もそうだし、水車だって造りたいし、養蜂場も欲しいし、グレートホーン用の牧場だって必要になってくる。

 それに何より、そろそろ領主の館の建設を勧めないと、竜が拗ねてしまいかねない。


 幸い、建築士は二人いたので、二カ所は同時に建設ができる。

 その片方が領主の館を担当し、もう片方が村に必要な施設を、優先度の高い順に担当して建てていく。


 いや、建てていくとは言ったが、実際にどちらの建築士が領主の館を担当するかは、少しばかり揉めた。

 どうやら領主の館を担当するのは、建築士にとって名誉な事になるらしい。

 なのでどちらの建築士も、自分が領主の館を担当するのだと言い張ったが、こちらからしてみれば物凄くどうでもいい話である。

 この村に来たばかりの彼らが、どちらの腕が上かなんてわからないし、今は名誉も何もないのだ。


 今は、二人の腕を等しく求められている。

 それに施設を建てる方の仕事も、直接村人からの感謝と信頼を得られる為、決してハズレという訳じゃない。

 寧ろそうやって揉めて建築が遅れれば遅れる分だけ、周囲からの評価は下がっていくだけだと説得し、最終的には賽子で決めさせた。


 ちなみにその施設に関しても、誰もが自分が関わる施設を優先して欲しいと言った為、やはり少しばかり揉めたけれど、……これは決して悪い事じゃないのかもしれない。

 何故なら、今までは、そうやってどちらを優先するかの選択肢すらなかったのだから。

 今、何をしなければならないかは自明の理で、私が全てを決めても誰も文句を言わなかった。

 それに比べると、あぁ、今はとても恵まれている。

 尤も、その揉め事の仲裁をするのは、少しばかりではなく骨が折れたけれども。


 村はどんどん変わっていく。

 その変化を齎した竜は、見上げると、のんびりと村の上空を旋回していた。



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