3話 推しのために死ねない日本人は存在しない
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僕は人型のドラゴンおじじに、小さなちゃぶ台と座布団がある謎の真っ白な空間へと呼び出された。
「わざわざ来てもらって申し訳ない――っと、お主、距離が近くないか?」
「前の世界ではこれくらいの距離が普通だったんで」
僕って前の世界でもときめいた人にはこうしてたから、これが一番落ち着くんだよね。
こうすると、心がほっこりするからさ。
ほっこり、ほこほこ。
「……まあよい。よいが……うん、よい」
何かを諦めたように言葉にするドラゴンおじじ。
許可も取れたことだし、よかったよかった。
じゃ「推し吸い」しよっと。
すぅぅぅぅぅぅ。
うん、魂の状態だから、匂いは感じない。でも、なんとなく満足感がある。やはり推し吸いは魂にいい。しかもこれ、相手に全くバレていない。完全犯罪じゃん。ラッキー。
「さて、お主に来てもらったのは他でもない。お主がこの世界に転生するのは、はっきり言っておすすめできないからじゃ。もう一度確認するが、騙されてこの世界に転生させられるというわけではないんじゃな?」
「すぅぅぅぅぅぅ……えっあ、うん。ここに転生するのは、僕の意思だよ」
「……マジかよ」
おじじ、結構若者言葉使うんだね。ちょい萌ゆる。
「(魂にだって本能があるはず。こんな世界を選ぶはずは――)」
僕の意思と伝えてから、おじじはずっとブツブツ呟いている。そろそろ僕から話しかけてみよう。
「ねえ、僕がこの世界に転生するのって、あんまりよくないことなの?」
「いや、お主のような『この世界では決して得られないような人生経験が豊富な魂』がこの世界に転生してくれるのは、ワシとしては嬉しいんじゃ。なんなら、ワシにとってメリットしかないと言ってもええじゃろう」
「じゃあ、なんで?」
なんで僕は今止められているのだろう。
「ワシが受けるメリットと、お主の受けるメリットが全く釣り合っておらん。お主は転生できること以外、全てデメリットとなるじゃろう。これでは、一方的な搾取じゃ」
僕が説明を受けてもよく分かっていないことを察したおじじは、例えを交えて説明してくれた。
今の僕がやろうとしている行為は、お金持ちが全ての所持金を徹底的にドブに捨て、あえて過酷な環境のスラム街へ移り住むようなものらしい。
そう聞くとおじじが僕を止める理由も理解できる。
「でもさ、そのお金がおじじのものになるなら、別によくない?」
メリットとかデメリットで話すのなら、推しの栄養になれるのは最高のメリットだと思うんだ。
推しは推せる時に押せ、そして貢げ、さらに吸えとは、日本では有名な言葉だしね。
というようなことを熱量持っておじじに説明した。
「お主がそれでいいのであれば、いいのじゃが……」
どうやらおじじは僕の考えをまるで理解できないようだ。おじじは僕が考え直せるよう、別の角度から説得し始めた。
「この世界は死にかけじゃ。ほれ、ワシのこの姿、しわくちゃであろう? これが世界が死にかけという何よりの証拠。ワシという存在は、この世界の写し身じゃからな」
なるほど、おじじが年寄りで傷だらけなのは、この世界が死にかけだからなのか。
おじじ=世界というわけね。
じゃあ、これからおじじのことは「セカイ様」と呼ぼう。
「それは、あの刈り上げ君のせい?」
「刈り上げ君……? ああ、あの創造神第2万4321王子のことか。
まあ、そうじゃ。あの者の意向により、この世界は約一万年間、ずっと戦いのみを強いられてきた。
本当に、戦いのみじゃ。
お陰で土地はボロボロ、人種と呼べる生き物も、約百人ほどしか生存していない」
繰り返してはいけない過去を語るようにセカイ様は言葉をこぼした。それから、この世界で何が起こったのか、ある程度かいつまんで説明してくれた。
あの刈り上げ君は兄や姉の説得を全く聞かず、何の勉強もせずに世界を作り出した。自分ならできると信じて。
しかも、そこでやろうとしたのが「最強傭兵計画」などというバカな目論見だ。とにかく強さだけしか持たない人種を作り、長年にわたってそれぞれ殺し合わせて、最強の傭兵を作ろうとしたそうだ。
そしてその計画は一部成功したそうだ。創造神よりも強い人種を生み出すことには一応成功した。
まあ、結局それ以外のことは失敗しまくって、さらに肝心な傭兵にする手順も見事に失敗したそうだが。
で、あの刈り上げ君が創造神としてはありえないような「世界の廃棄」なんてことをして、今ここというわけだ。
「ほんと、刈り上げにろくなやつはいないよね。うんうん」
「おお、おぅん?」
話を聞き終わり、僕が普通の相槌をすると、セカイ様はほんのり困惑した表情を見せた。
切り替えるようにこほんと咳払いをしたのち、セカイ様は続ける。
「ワシが見たところ、お主の魂は愛される才能が天元突破しておる。おそらく、前世では一角の人物だったのじゃろう?
この世界ではその才能は活かされぬ。
それに、これから時代は変わるとはいえ、今まで戦いしか経験してこなかった世界じゃ。戦いのみしておったから、生物もみな凶悪な存在しかおらんが……」
「やだ、僕が世界一可愛いって? いやんいやん! セカイ様のバカ」
「おお、おぅん? セカイ様?? ああ、そういう……」
何故かセカイ様は頭が痛そうにしている。
可哀想。僕が癒してあげなきゃ。
よしよし。よしよし。
あっ、セカイ様、照れてる! かんわいい!!
この様子だと、きっと優しくされた経験が少ないんだね。大丈夫、僕がセカイ様をいっぱい幸せにするからね。
「にゅふふふ、じゃ、早速転生するね! 行ってきまーす!!」
「ちょ、待て待て待て! 話を聞いておったのか!? お主は平和な世界のほうが向いておると言っているのだ!
それに、この世界自身であるワシが言うのもなんじゃが、この世界は他の世界と比べて、できたてほやほやじゃ!
歴史が浅いし、ボロボロだし、魅力が少ないんじゃ!」
「大丈夫だよ! だって僕、推しのためなら死ねるから!」
「推し? それはちょっと……覚悟が決まりすぎてないかの? 殺し合いばかりじゃったワシの世界ですらそこまでではないぞ?」
「多分、日本人なら全員そうするよ。だって日本人はみんな、魂にサムライを宿してるからね!
一度決めたことは絶対曲げないし、みんな推しのためなら死ねる人しかいないんだよ!」
「おおう、なんという曇りなき眼じゃ。真実を言っているとしか思えん。そうか、お主の住んでおった日本という国はそんなに恐ろしいのか……」
セカイ様は一瞬怯んだが、すぐに背筋を伸ばし、僕をまっすぐ見据える。
「よかろう。そこまで覚悟が決まっておるのなら、お主の転生を認めよう」
「わーい! 行ってきまーす!」
「しばし待て。転生するにしても、ワシらには説明責任というものがあるのじゃ。たとえその記憶を覚えていなくともな。
特にワシの世界はまだまだ粗削りじゃ。転生するにしても万事問題なしとはいかんからの」
「ほむほむ。分かった。説明を聞けばいいんだね」
それから僕はこの世界についてのかなり長い説明を受けることになる。




