2話 神の世界に老害は存在しない
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ひらひらと落ちる葉っぱに体当たりした直後のこと。
僕は空からこの世界が終わる直前の映像を俯瞰視点で見ていた。
「ジジイ! 今日限りでお前の世界を追放する!」
あら? なんか楽しそうなことやってるね。
目の前には、果てしなく大きな人が二人?
……いや、二柱かな?
だって二人とも、すっごく神様っぽいオーラがムンムンなんだもの。
「ど、どうしてじゃ! ワシはあなた様の言う通りに――」
「あー、何ていうかさー、もうジジイの世界、飽きたんだよ。これ以上やっても神力の無駄だし、もうお前は廃棄な」
若い男が老紳士からの追求を強引に遮っている。
うーん……どういう状態だろ?
僕はこの状況をよく観察してみることにした。
「ふんっ」
一柱は鼻を鳴らしながら、王座のような玉座に深く腰掛けている若々しい男。命令を下している方だ。
偉そうにアクセサリーをじゃらじゃらと身につけている。
神様っぽいから歳は分からないけど、あの佇まいはケツの青いガキだね。
僕の経験則から察するに、ああいうタイプって、とにかく自分を強く見せることに必死すぎるんだよね。髪を嫌な感じに刈り上げてるし、絶対そうだ。
とりあえず蔑称として「刈り上げ君」と呼ぶことにしよう。
「世界を廃棄ですとっ! そんなこと、たとえ若い創造神だとしても前代未聞ですぞ!? どうにか考え直しては――」
「黙れジジイ。見苦しいぞ。俺に二度同じ事を言わせるな」
「――ッ!」
もう一柱は歯を食いしばりながらその若者にひざまずいて、刈り上げ君に懇願している。
パッと見の印象は若々しいおじいさんって感じかな。細身だがなかなか鍛え上げられた肉体だ。横顔を覗く限り、かなり凶悪な顔をしているし、その双眸はしっかりと力強い。
おっ? よく見ると、その背中には大きな爬虫類のような尻尾があるぞ?
ただの印象だが、ドラゴンが人間に化けているみたいだ。
僕の経験則から察するに、ああいうおじいさんは、お金に余裕があり、女遊びだってなんだって余裕のあるタイプだ。顔がダンディだもの。絶対そうだ。
……ふふ、ダンディおじ、萌ゆる。
状況はまだよく分からないが、とりあえず僕はこの「ドラゴンおじじ」の味方をしておこう。
「ていうかさあ。ぶっちゃけジジイの世界、失敗作なんだよね。そんな世界は廃棄して、次の世界に神力を注ぐ方って考え方、合理的で新しいでしょ?
俺はさあ、一刻も早く立派な世界を作って、つまんない世界を作る兄貴や姉貴共を蹴散らしてやりたいんだよ。
ジジイなら、俺の気持ちも分かるよね?」
刈り上げ君、とにかく高圧的でムカつく。でも、少し早口だったので、何かを言い訳しているっていうのは僕にはお見通しだ。
いけー、ドラゴンおじじ! こんな生意気な若造、ぶっ飛ばせ!
「そ、そんな! 作っておいて、無責任に廃棄なんて……
ワシの子供達の命を何だと思っているのですか!
それに、ワシはあなたの指示通り――」
「黙れ黙れ! こんなことになったのは、全て世界自身であるお前のせいだ! とにかく、俺は悪くない! 悪くないんだ!」
刈り上げ君さあ、その態度はあれだよね。絶対刈り上げ君が悪いパターンだよね。
「俺はこんな育成に失敗した世界なぞ、絶対に認めん。よって廃棄は覆らない」
見ている限り、この二柱には強く明確な上下関係があるようだ。
神力とか若い創造神とか言ってたし、刈り上げ君が世界を作り、ドラゴンおじじがその世界の管理者とかなのかな?
神様の世界に疎い僕には、その程度しか推測できないな。
……でも、やっぱり刈り上げ君はムカつくな。
いけ、ドラゴンおじじ、かえんほうしゃだ! 刈り上げ君を燃やし尽くせ!
「…………分かりました」
ドラゴンおじじはひざまずいて下を向いたまま、絞り出すようにつぶやく。それから立ち上がって、力強い目を刈り上げ君に向けた。その背筋はまるでそそり立つ巨岩のように、まっすぐ伸びている。
「では、これからワシは、貴方様の神力なしで頑張ってみます」
「ふっ、はははははっ、自棄になったか! 神力なしに世界が運営できるわけがないだろう!
まあいい。廃棄するのにだってこの俺の貴重な神力を使うのだ。それならば、自ら滅んでくれる方がありがたいというものだ」
「……」
「ふっ、言葉も出ないか。もういい。お前に借り与えた神力を全て没収させてもらうぞ」
刈り上げ君はドラゴンおじじに手をかざす。
すると、おじじの身体はどんどん干からびるように細くなっていき、若々しさが消えていく。映像を早送りにしたようにどんどん身体は傷だらけとなっていき、髪は抜け落ち、腰は曲がり、頬は痩せこけてくぼむ。
最後まで神力を抜き取られると、枝のような老いぼれの姿となってしまった。
それでも。それでもドラゴンおじじの力強い双眸だけは、しっかり前を向いていた。
にゅふふふふ、傷だらけのおじじもかっこよくて萌ゆる。
「では、失礼します」
「ああ、もう二度と会うこともないだろう。当たり前だが、どれだけ泣き喚こうが、俺はその世界には手を貸さないからな。せいぜいあがいてみるがいい。はははっ、はははははは!」
刈り上げ君の耳につく笑い声を気にすることなく、ドラゴンおじじが王室を退出していく。
っと、これ以上刈り上げ君はどうでもいいので、応援しているドラゴンおじじにカメラワークを移動させないとね。
視点を移動する。
ドラゴンおじじは身体を変化させ、大きくて立派なドラゴンの姿になった。ただ、ドラゴンになっても細く老いていて傷だらけなのは相変わらずだ。
「……お、おお! かっけえ!」
ドラゴンの姿となったおじじは、次元の狭間のような場所に向かって羽ばたきだした。
「あっ、なるほど今理解した。こうやってこの世界が廃棄されたから、世界樹のミニチュアから葉っぱが落ちたんだ」
細かな理屈は分からないが、多分そうだろう。
……なるほどなあ。こうやってこの世界は終わったのかあ。
あれ? でも、映像はまだ続いているじゃん。
見られるということは、正確にはまだ世界は死んでないってこと? 神力とやらが世界にどういう影響を与えるのかは不明だが、そういうことかな。
とにかく、もう少し続きを見てみよう。
数刻の間、次元の狭間を飛び続け、ドラゴンおじじは自らの世界線に戻る。
そこで初めて、ドラゴンおじじはにやりと笑った。
「計画通り! よしよし! よおし! これでようやく自由だ!」
……おお?
「あのクソ野郎め! こんなにワシの世界をぐちゃぐちゃにしおって! 回復するのにどれほどの時が必要か、あいつは分かっておらんのじゃ!」
……おおお?
「神力はなくなったが、そのおかげでようやくあいつの支配は終わった。あんなことになるのなら、神力などいらん! これからはワシの残り少ない命を削って、皆の命は守ってみせる!」
あ。
なんか今、ときめいた。
ギュンと来た。
ビビビッと来た。
「にゅふふふふ、決ーめた。この世界にしようっと」
やり方はこの魂が知っている。さあ行こうか。
ビバ、転生!
と、僕がいざ転生しようとすると。
ドタバタと慌てたような物音とともに、こんな声が頭に響いてきた。
――本当にこの世界に転生していいのか?
おっ、あのドラゴンおじじの声だ。
これは、あれかな? 最終確認みたいなものかな?
でも、もう僕の心は決まってるからね。
「うん、僕はこの世界に転生する」
――えっと……本当にこの世界でいいの?
「うん。そう言ってるじゃん」
――えと、本当に? ぶっちゃけこの世界、そんなに魅力的じゃないよ? 何か悪い神に騙されてたりとか、そういうのはないかの?
なにこれ? こんな確認いるものなの?
「僕はこの世界に決めたんだ。転生の仕方は教えてもらってるから、もう無理やりやっちゃうね」
――ちょ、ちょいと待て。とにかく一旦、一旦話し合おう!
目の前の空間からぐにゃりと現れたのは、さっきの映像で推しになったドラゴンおじじ。
何故か僕はこのドラゴンおじじに、直接止められた。
それから僕達は話し合いをすることに。




