38話 かつてこの世界に国は存在しなかった パート2
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次の日、僕達は右足大陸へ降り立っていた。
「スリルの国へよく来たな。さあ、ここでしかできない経験を楽しんでいけ!」
悪魔王のお姉様が空から見下しながら、僕達に言い放つ。
その言葉には自信が溢れており、浮かべた不敵な笑みからも悪魔王のお姉様の誇らしさがありありと伝わってくる。
「すごい、悪魔族ばっかだ! おほー!!」
目の前には悪魔族の女性達が自由に飛び回っていた。みんな露出が多く、グラマラスだ。
どうやら悪魔王のお姉様だけがえちちだと思っていたが、悪魔という種族がみんなエチエチだったようだ。
「ここが桃源郷か……」
「お兄ちゃん……?」
悪魔族は山羊の角、コウモリの翼、矢印のような尻尾などを持つ種族だ。どうやら女性が多いらしく、男性悪魔は貴重らしい。
みんなどこか不良娘のような雰囲気を持ちながら、それでいていたずらっ子が多い。
「性悪そうなロリっ子、どこまでも意地悪に微笑む踊り子のようなお姉様、陰鬱で危険な香りがする童貞を殺す系お姉さん……ヤバい! どこもかしこもついて行ったら破滅しそうな女性ばっかり! ここは天国か!? って、痛てててて!」
テンションが上がっていると、ルナに耳を引っ張られた。
「耳がちぎれる! ごめんなさいごめんなさい! 女性の胸をまじまじと見るなんて、失礼でした」
「ふんっ、分かればよろしい」
ルナを怒らせてはいけない。決して兄は妹に勝てないのだから。
ここでは僕がふらふらと悪魔族の女性に吸い寄せられるのを防ぐために、ルナが僕の腕を抱えてこの国を楽しむことになった。
あっ、あの悪魔族のお姉様、下乳が……
「視線」
「はい申し訳ございませんでした」
抱えられた腕が折れそうだったので、すぐに謝罪する。
……ヤバい。これは、分かっていてもヤバい。このままでは、僕は妹にへし折られてしまう。僕にとって、この国は誘惑が多すぎる。
しかも、女性悪魔に僕の心が揺れているのがバレると、さも楽しげにからかってくる。
だからか常にルナは周囲を威嚇している。それは僕を守ってくれているのか、それとも自分の胸がペタンコを超えてペタコンなせいで、悪魔族が個人的に気に入らないのか――痛てててて、はい申し訳ありません。胸のことなんて考えてなんていません。
「呪いバンジージャンプ? はて、何だあれは?」
「悪魔族は呪術とスリルが大好きだ! どんな英雄だろうが関係ない。あたし達は恐怖で精神を削ってみせるぜ! お前ら、ちびんなよ!」
「ほう、俺達はどんな苛烈な戦場だろうが乗り越えてきたんだぜ? それに、殺し合いがなくなったとはいえ、獣人は強さを尊ぶ。恐怖を感じるなんて情けないこと、俺には考えられないな」
「ふんっ、同じくだ」
「まあまあ、お前らみたいなやつにはハードモードを用意してある。とりあえず一度やってみろ、な?」
「ふん、俺らが驚くことなどないだろうがな」
悪魔王のお姉様は、それはもう最高にキュートな笑顔で色んな施設を案内してくれた。
……結果? ああ、王達のメンツのために、あえて言わないでおこう。
「ギャハハハハ! 泣いて、泣いてやがる!!! ウケる!!!」
「うるさい! 泣いてなんかない! 目にゴミが入っただけだ!」
うん、聞こえないフリ。
「さあ、私達女性組はイージーモードで遊びましょうか」
「そうですね……って、人間王のおばあさま、僕をしれっと女性枠に入れないでもらえます?」
「うふふふふ」
僕とルナと人間王のおばあさまは、イージーモードで楽しく遊ばせてもらった。
バンジージャンプから、ジェットコースター、スカイダイビング。
マグマの上のアスレチック、サバゲー、見た目だけで攻撃力のない攻撃、お化け屋敷など、思う存分ゾクゾクとした刺激を楽しめただろう。
色々この国を回って思ったが、イージーモードでも充分怖い。僕もたくさん鳥肌が出たし、ルナなんて耳をぺたんと伏している。流石は悪魔といったところか。
どうも悪魔は人を驚かせることに快感を感じるようだ。好きこそ物の上手なれというのは、本当だったみたい。
しかも、心臓の音からどれだけ驚いたかなどを数値化する技術を悪魔達は習得しているので、競いあうように日々スリルを磨いているのだそうだ。
「あっ、ここにも教会が――」
「さ、そんなのはスルー。どんどんスリルを楽しもう」
「うふふふふふ」
次の日、僕達は左足大陸へ降り立った。
「最後はセックスの国だな! ようこそ俺の国へ! ワハハハハ!」
獣人王のおっちゃんが底抜けに大きな声で笑う。
王達は僕がいる創作の国にだけはよく来るし、僕が一年に一度奥義を通して自慢しまくっているので、異大陸交流はこれで最後だ。
「うわあ! どこもかしこも獣人ばっかり、これは凄いね」
ここは笑い声や喧騒に溢れた牧歌的な雰囲気の国だ。
見渡す限りの獣人。どこを見てもケモミミとケモ尻尾を携えた、筋肉質な人種ばかり。小さい子から大人まで、とんでもない数だ。
「すっごい、他の国と比べても、人口が群を抜いて多いね」
「おう! 獣人とセックスの相性はかなりいいようでな! 繁殖力がとんでもないんだ!」
獣人は特殊でセックスで子供を生むと、一度に何匹も産むことがあるらしい。
ただ、セックスで生まれてきた子はまっさらで、星から生まれるように最初から知性と強さを持って生まれるわけではないらしい。
それでも獣人は人間と同じく成長が早く、肉体的に強い。ちゃんと教育さえすれば、強さが追いつくのはそこまで難しくないそうだ。
「どうも肉の匂いが強いね」
「おう、獣人はみんな肉が大好きだからな!」
「あの建物は……?」
「あれは子供を預ける保育所だな!」
「その隣のあれは?」
「あれは学校だ! 狩りの仕方や魔物の特徴、他にもたくさんのことを教えているぞ!」
……まともだ。セックスの国なんていうちょっとあれな名前なのに、一番まともかもしれない。
子供を育てる仕組みが整っているし、教育機関もある。闘技場などの戦う場や、大きな食堂などもある。数の力でしっかり街が発展しているし、畑や放牧も盛んで食べ物にも困っていない。
強いて欠点を挙げるなら、獣人同士の競争や喧嘩が激しいくらい? いや、それだって獣人にとってストレス解消に過ぎないらしい。
天使で言う爆発や、刃物、呪術、毒物など、物騒な好みもない。
人柄も獣人王のおっちゃんみたいに陽気な人が多く、多少プライドの高さは感じられるが、逆に言えばその程度の癖しかない。
うーん……まともだ。
「ねえ、カナタお兄ちゃん! 見て見て! この国には“可愛い”がいっぱい溢れてるよ! セックスってすごい!」
ここではルナが特に大はしゃぎしていた。
ルナは可愛いのが好きなので、お母さんに抱かれた獣人の赤ちゃんを見ては、何度も何度もとろけている。
赤子ですら凶悪なのが普通なのに、セックスによって生まれた赤子はぷにぷにと丸っこく無力だ。見ているだけで、胸の中があったかくなるようだ。
「チタンおじいちゃん! こんなに赤ちゃんが可愛いなら、創作の国でもセックスを流行らせよう!」
「ルナ、まあ落ち着け。これから創作の国もゆっくり発展していく。いずれセックスだって当たり前となるじゃろう」
「ほんと!? 流石チタンおじいちゃん!」
僕達はこのまともな国を穏やかな気持ちで楽しんだのだった。
「あっ、ここにもカナタ教の教会があるよ! ちっちゃい子がいっぱいいる! 託児所の役割もあるんだ!」
「……うん、そだねー、ハハハ」




