37話 かつてこの世界に国は存在しなかった
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今回の目的は五人の王が集まり、全員で自分の国がどんな発展をしたのかを見学する回だ。
そんな僕達は龍から降り立ち、右腕大陸の中心地へ来ていた。
「ここが俺の国、酒の国だ。存分に見ていけ」
酒の国の王、魔族王のじいじがつまらなさそうに鼻を鳴らす。ただ、基本的に魔族王のじいじはツンデレだ。あの態度だって照れ隠しみたいなものだろう。
「ああでもカナタたそは別だよ。さあ、じいじと手を繋いで、一緒に行こうね」
そしてそのツンデレのツンは僕には適用されない。僕にだけは猫なで声だ。なぜなら好感度が天元突破しているから。
「おおー! 見渡す限り魔族ばっかり! それに、アルコールの匂いが、街にいてもただよってくるね!」
「ふふっ、カナタお兄ちゃん、楽しそうだね!」
「そっか、ルナは何度かこっちに来てるんだったね」
僕は魔族王のじいじ以外の魔族を見るのは初めてなので、どうにもワクワクして勝手に羽がパタパタしてしまう。
魔族というのは、角、翼、尻尾、尖った耳、赤や紫の肌などを持った人種だ。プライドの高い貴族のような偉そうに見える人が多いが、それは見た目だけで、色々な人がいるらしい。
強さ的な特徴で言えば、魔力の出力が生まれながらに高いので、火力が高い。寿命は三百年ほど。
そんな様々な魔族達が、五人の王の強者のオーラに当てられて、どこか緊張の面持ちで普段通りの生活を送ろうとしている。
「ほう、見事な畑だ。獣人の間でも作物は作るが、ここは量より質、とにかく質にこだわっているのだな」
この街には、畑や田んぼ、放牧場などが多い。おそらくいい酒を作るために素材にもこだわっているのだろう。
「綺麗な川じゃのう」
「ねー、きっとこれ、すっごく自然を大事にしていないとこうはならないと思う」
じいじの呟きに思わず頷く。美味しい酒を作るためか、この街は川を中心に栄えている。水をとても大事に扱っているというのが一目で分かる。
「これが酒の匂いか……なるほど面白い」
「ねえ魔族王、私も実際に酒というものを飲んでみたいのだけれど。そもそも、人間もアルコールは大丈夫よね?」
僕は人間王のおばあさんに向かって頷いた。
「ふん、ついてこい。酒の国自慢の酒蔵へと案内してやる」
僕達はキョロキョロと見渡しながら、魔族王の案内についていく。
「ねえ、魔族王のじいじ、ちょっと気になったんだけど、なんでこの国では鍛冶場が多いの?」
「ああ、カナタたそ。それはね、魔族はどうも共通して刃物に惹かれる性質があるからなんじゃ。そのせいで、酒と刃物に関する文化が発展していったんじゃよ」
魔族王のじいじは相好を崩しながら、収納魔法から自身の刃物コレクションを嬉しそうに空に浮かべた。
……えっと、ごめん。妖刀や魔剣にしか見えないんだけど。
美しすぎておぞましい刀や、謎の紫のオーラを放つ剣、名状しがたい苦悶の声のような音を発する刺突剣など、どれもこれも物騒だ。
「おっと、カナタたそは触っちゃだめじゃぞ。触ると“飲み込まれる”からな。俺自身も鍛冶を嗜むが、これは俺が打ち出したとっておきじゃ。
これが完成した後に飲んだあの日の酒の味は、忘れられねえ。
鍛冶をして酒を飲む、このサイクルが最高なんじゃ! ワハハハハハ!」
魔族王は少年のような笑みを見せながら、つらつらと刃物へのこだわりを語っている。
その表情は天使族が爆発を語るときのようだ。ほんとに刃物が心から好きなのだろう。推しが楽しそうで、僕も嬉しい。
酒場を巡り、酒蔵を見学し、鍛冶場を周り、こだわりのつまみを作る場所を巡り、お酒に関する儀式や礼拝関係の場所を見物し、色んな魔族の人達と交流し、最後には魔族王のじいじ自慢の酒場で飲み明かした。
その道中、僕は魔族王のじいじから長い間刃物談義を聞くことになった。
マニアックすぎて分からない部分も多かったが、魔族王のじいじがオタクのように語る姿が可愛くて、実は結構楽しんでいたりする。
「カナタお兄ちゃん、良い飲みっぷりだね! それにしてもさあ、ここでもカナタ教の教会が――」
「ルナ、そんなものはこの世にはない。そんなものはこの世にはないんだ」
「もう、往生際が悪いお兄ちゃんだなあ」
途中見たくないものもあったが、僕達はお酒の国を思う存分楽しんだのだった。
この日は龍の上で一泊して、次の日。目覚めると僕達は左腕大陸に来ていた。
「私の自慢の国、仕事の国へようこそ」
人間王のおばあさんが物腰柔らかく微笑む。
今日は人間王がまとめる国、仕事の国を回る予定だ。
「おお、見渡す限りの人間だ! みんな楽しそうに労働に励んでいるね」
「カナタお兄ちゃんも、前世は人間だったんだよ? 懐かしい?」
「いや、この世界の人間と前世の人間は、見た目こそ似ていても、全然違うんじゃないかな?」
この世界の人間の特徴といえば、基本的に弱く尖ったところはないし、寿命が短い。その代わりに成長が早く、一人一体「精霊」という自分にしか見えない相棒を宿して生まれてくる。
人間は精霊と共に成長し、精霊の力を借り、精霊術を使って戦う。
他の特徴としては、他の種族より細かいところに気がつく事が多い。微に入り細を穿つ。この言葉が種族単位で似合うのは、この世界では人間だけだ。
「えっ! あそこで使われているの、お金じゃん! ここでは貨幣経済が流行ってるんだ!」
「ええ、魔石を通貨とした魔石通貨を利用して、経済を回しているんです。そのために作ったのが、魔石に宿しているマナを量る、この魔道具。仕事の国では誰もが持っていますね」
仕事の国では商売をするための価値尺度として、魔石を利用しているらしい。
仕事をし、稼ぎ、お金を使い、また稼ぐ。たった二十年でこのサイクルを完成させたらしい。
「ほう、ここでは魔道具が発展しているのか」
「是非ともうちの国でも魔石を有効利用したいな」
「マナを量る魔道具、綺麗な色の火を出す魔道具、飲み水を冷たくする魔道具、麦を脱穀する魔道具……うーん、凄い」
仕事の国では面白いものや便利なもので溢れている。
みんな稼ぐにはどうすればいいのか試行錯誤した結果、このような発展をしたのだろう。
「あとは……毒屋? なんか毒関連のお店がいっぱいあるけど……人間王のおばあさん、なんで?」
「うふふ、私達人間という人種は、毒物が大好きなんです。生活や戦いとは切っては切れないものなんですよ」
「へ、へえー……」
毒について語る人間王のおばあさんは、恍惚とした笑みを浮かべていて、ちょっとだけゾワッとした。
……いや、待てよ。よく考えると、毒物のプロフェッショナルなおばあさんって、最高に推せるじゃん。にゅふふふふ。
「さあ、せっかくですし、人間の生活の体験をしてみませんか? 働いて、お金を稼ぎ、そのお金で日々を楽しむ。これがなかなかどうして楽しいんですよ」
人間と交流し、精霊術を見せてもらい、実際に仕事をしてみて、稼いだお金で買い物をして……
「あっ、あっちにカナタ教がお布施を――」
「ルナ、そんな宗教はこの世にないから。そんな宗教は、この世にない」
「ふふっ、カナタお兄ちゃん、面白ーい」
面白くないが?
途中見たくないものもあったが、僕達は思う存分仕事の国を楽しんだのだった。




