36話 五英雄にブレーキなど存在しない
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高度三百キロメートル、ルナのトモダチである巨大な龍の上。そこが会議場に選ばれた。
この龍は、ルナの弟であるソラとその仲間により、大量に生み出された子の一人だ。
ルナの弟は、この世界を自由に冒険しながら龍族を増やしているらしい。様々な場所を巡り、そこで気の合う仲間を増やして、また次の場所へ。そうやって気ままに日々を暮らしているそうだ。
龍族――その存在は、生きているだけで世界に益をもたらす。呼吸をするだけでも自然や生物に微小な良い影響を与える、素晴らしい生き物だ。
その代わりと言っては何だが、龍族は基本的に自分勝手だ。このように人を乗せたりなんてすることはほぼない。
そんな龍が素直に言うことを聞いてくれるのは、ルナがぶん殴って神龍の幼体にしたから。龍族は魔物ではないはずなのだが……まあ、ルナだしね、うん。故にこんなかっこいい龍にも頬袋があったりする。
頬袋を持つ生き物が増えるたび、ルナや母はとても満足げな笑みを浮かべるが、それなら僕だっておっぺえに惹かれたって許されてもいいんじゃ――あっはいすみません調子に乗りました以後気をつけます。
そんなことはさておき、この龍の上で、五英雄――今ではそれぞれの大陸を束ねる王が相対していた。
スカウターによる強さは意味不明を指している。要するに、じいじと同じくらい強い豪傑の五人だ。
「酒の国の王、魔族王だ」
「仕事の国の王、人間王です」
「スリルの国の王、悪魔王」
「セックスの国の王、獣人王だ!」
「創作の国の王、天使王じゃ」
そんな英雄の五人がようやく集まったところで――何故かみんなで僕の隣を取り合っていた。
あっ、獣人王のおっちゃん、羽を毛づくろいするのやめてよ。気持ちいいけど、くすぐったくて変な声でちゃうから。人間王のおばあさんもマッサージやめて、気持ちよすぎてヤバい。魔族王のじいじは食べ物で僕を誘惑しないで。それが一番効くんだから。
ってことで、悪魔王のお姉様のところにいきたいな。ふへへ、悪魔王のお姉様、ちょっと存在がエロすぎるぜ。おっぺえがでけえのに、露出もめっちゃ多い。ってか、やっぱへそ出しって犯罪的にエロいね。
だから、僕は悪魔王のお姉様の膝の上に……え? ルナ、だめなの? いやいや、ちょっとした冗談ですやん。
冗談だから、そんな蔑むような目はやめておくれ。心がガリガリと削れる音が聞こえるからさ。
さて、気を取り直して。
「みんな、久しぶり。相変わらず元気だね」
僕が挨拶すると、みんなの表情がふにゃっと和らいだ。
実は僕、この二十年でこの五英雄達と何度も会っているんだよね。
正直僕自身は異大陸の人と交流する気はまだなかったのだが、英雄達は大陸間を超えることなどお茶の子さいさいなので、気軽に会いに来てくれるのだ。
まあ、流石に大陸を渡るのに余裕なのは五英雄くらいなので、この五人以外とは大陸間交流はないけどね。
この時役に立ったのが、前世から教えてもらったさしすせそ魔法だ。前世の推し様。最強の魔法を授けてくれてありがとうございます。
【さ】「最強っす!」
【し】「信じられない!」
【す】「崇拝してます!」
【せ】「世界一!」
【そ】「尊敬してます!」
そもそも好感度が高かったのに、さしすせそ魔法のおかげで好感度が天元突破した。
もうね、めちゃくちゃ可愛がられたよ。この二十年で何度も僕を巡って英雄達の喧嘩が勃発し、世界が滅びそうになったくらい、めちゃくちゃ。
やはり、前世の奥義はあまりに最強だ。
「ふんっ、お前は相変わらずだな。カナタはもっと自分のやったことを誇れ」
「ふふふ、そうですよ。カナタちゃん」
「悪魔王のお姉様、人間王のおばあさん、ありがとうございます」
英雄の女性組が僕を称えてくれたので、ペコリとお辞儀をする。
「そうじゃ、カナタたそは儂らの途方もない孤独感を癒してくれたんじゃ。そんなこと、誰にでもできることではない」
「ガハハハハ! カナタが進むべき道を照らしてくれたおかげで、生きていて楽しいわい!」
「魔族王のじいじ、獣人王のおっちゃん、ありがとう!」
英雄の男性組も僕を褒める。じいじも後方で腕組みしながらうむと満足げに頷いている。
この世界では力の強い者ほど、孤独感を感じている傾向がある。この五人の英雄のように異次元の強さを持つ存在は、孤独感だって果てしなく大きかったはずだ。
力があれど力しかない。本気を出せば世界すら壊しかねないほどの力はあるが、それしかない。もう殺し合う必要はないのに、何もできない。生きていてもつまらない。死のうにも強すぎて死ねない。
こんな寂しいなら力などいらない。実際、何度もそう思っていたそうだ。
「そう、カナタお兄ちゃんはすごいんだよ!」
ルナは褒められた僕よりも嬉しそうに胸を張った。そんなルナが愛おしくて、僕は頭を優しく撫でる。ルナは耳をピンと立て、ゆらゆらとゆっくり尻尾を振っている。
そんな僕達兄妹を、五英雄は優しげな瞳で見つめていた。そんな目ができるようになったという事実に、僕はまた胸がじんわりと暖かくなる。
にゅふふふふ、僕がみんなを奥義により全肯定し続けて、ほんとによかった。
僕は一年に一度、毎回かかさず奥義によって僕なりの考えをぶつけた。
じいじのように力は守ることにも使えるし、集団を一つにまとめる力もある。殺し合う必要がなくなったとはいえ、みんな力への憧れは消えていない。だからこそ一つにまとまれる。あなた達は決して怪物ではない。もっと自分を誇り、その力をセカイ様のために使うべきだ。
こうやって、何度も何度も。
何をして良いのか分からなかった英雄達は、まさに青天の霹靂。自分の力の使い道があることに、心から歓喜したのだそうだ。
「僕の想いが少しでも伝わったのなら嬉しいよ。でも僕はただ、奥義によって推し自身を肯定したかっただけだし、もっと言えば推しを布教したかっただけだから」
そう、僕は推しを布教しただけだ。
推しは世界を救う。推しは生活を豊かにする。僕は本気でそう思っているからこそ、ここまでこれた。
今ではしっかりこの五英雄は僕の推しだ。
ただし推しとは言え、この英雄四人にこれだけは言っておきたい。
「でもさ、いくらみんなのためになったからって、それぞれの種族の秘奥義を教えちゃうのは、やりすぎじゃない?」
「「「「後悔はしていない」」」」
四人の王は少しも悪びれるつもりはないようだ。
五人の王から僕への好感度は天元突破している。そのせいか、僕はそれぞれが持つ秘伝の奥義を、気軽に授けられることになった。
悪魔王のお姉様には「妖気」とやら、人間王のおばあさんには「精霊力」とやら、魔族王のじいじには「純魔力」とやら、獣人王のおっちゃんには「闘気」とやらを。
みんな「絶対に秘密」と言いながら、それはもう楽しそうに教えてくれたよ。
どれも魔力の上位互換のようなもので、天使族でいう最適化された魂力のようなものだ。どの力も極めると世界を壊せるほどの力。そう考えると、絶対にポンポン教えていいようなものじゃないはず。
「まあ、僕は力を求めていないからいいけどさあ……」
魂力を含め、この五つの力はそれぞれ「核」のようなものだ。平和な世界では必要ない。
でも、核が案外平和的利用もできることを何となく知っていた僕は、有効活用する気満々だったけどね。
僕はこの二十年、男を磨くのと並行して、秘密裏にそれぞれの力の習得に力を注いでいた。
それぞれのやり方は案外簡単だ。意図的に魔力の成分を壊すとか、魔力に粘度を与え滑りを良くするとか、普通とは逆向きに魔力を流すとか、魔力の波紋の変化とか。
……理論は簡単だが、これが難しいんだ。
今の僕はこの五つの力を一つにまとめ上げ、その上で膨大な破壊力を全く別の方向性の力へと変化させている。そのせいで溢れんばかりの戦闘力は消え、破壊力は皆無だったりする。
この莫大なエネルギーは、全て推し活のために使うつもりだ。いつか使う場面がくるだろう。
「僕が言えた義理じゃないけど、あんまり気軽にこの力を教えないようにね」
「「「「「はあーい」」」」」
言えた義理じゃないというのは、僕もルナに口を滑らしてしまったから。
だってさ、ルナは可愛いんだ。しかも、この二十年でもどんどん可愛さが増している。
そんな可愛いルナが「カナタお兄様、さすがー」とか「知らなかった」とか、「すごーい」とか「センスある」とか「そうなんだ」とか小気味よく言ってくれるものだから、ついポロっとね。
全く口を滑らせるつもりなどなかった僕に口を開かせるとは、ほんと、恐ろしい妹だぜ……




