35話 この世界に極致は存在しない
この二十年、苦しくも満足感のある日々だった。
「うん、今だね。今がちょうどいい。二つを融合するなら、今だ」
前世の女の人生と、今世の男の人生、ようやく重さがトントンになったみたいだ。もしかしたら僕にしか分からない感覚かもだけど、僕さえ分かっていればいい。
機は熟した。後はやるだけ。
大丈夫。僕は天才だ。特に自分の持っているものを応用する力においては、誰よりもすごいと自負している。
「さあ、今日で二十回目の奥義披露! この舞いで僕は新たなカナタに生まれ変わる!」
舞う。夜空を舞う。
舞えば僕は進化できる。舞えばどこまでも羽ばたける。
この二十年で新たに身につけた四つの強大な力。これらは最適化された魂力と並ぶほど強く扱いづらいが、その分強力だ。それらと魂力を一つにして、新たな力を生み出す。
それぞれの力が激しく反発し合う。身体の中でとんでもない熱が生まれ、焦げ付きそうになる。
それでもこの五つの力を、一つにしていく。えげつないほどの戦闘力になりそうなエネルギーを、僕の望む力に変えていく。
僕は戦闘力なんていらない。そういう強さは必要ない。欲しいのは輝ける力だ。
僕の中のエネルギー、暴れるな、ぐぐぐっ、言うことを聞け!
苦しい。爆発してしまいそうなくらい苦しい。けれど決して表情には見せない。だってそれが男の子という生き物だから。
「さあ、もっともっと行くよ! みんなー! セカイ様は好きー?」
見せるのは笑顔。その裏に隠された苦労は見せない。
でも、舞いで僕の人生経験を感じさせ、物語を想像させる。それが僕にはできる。苦労は見せないけれど、苦労を感じてもらう。これは矛盾しているようで、全く矛盾していない。
「みんな、ついてきてる? 僕はもっと先へ行くよ! さあ一緒に冒険しよう!」
同時に、男として積み重ねた二十年の人生を前世と融合させていく。それこそ、これからの「創作の国」が他の文化と融合し、成長していくように。
自分が塗り替えられてぐちゃぐちゃになるようで、気分が悪い。でも、それも今だけだ。今日以降の姿を想像すれば、この苦しさも僕にとって甘くなる。
さあ、羽化の時だ。ようやく僕はなりたい自分になれる。
夜空に浮かぶ満月を背景に僕は夜通し舞い、舞った。
この日で僕の何かが大きく変わったわけではない。自分の持っているものを全て活かし、一つにしただけ。
けれど、僕は明確に変わった。
目の前には見たこともない景色が広がっているような気がして、心臓がふわふわしていた。
◆
奥義の日が終わり、その日は一日泥のように眠り、次の日。
……うん、母の言う通りだった。極致なんてただの通過点だ。
朝のすっきりとした頭で、少し感慨にふける。
僕は目指すべき「色」にたどり着いたが、ここは全然果てなんかではなかった。僕の魂はもっともっと輝ける。ようやく満足できると思っていたのに、まだまだ全然、僕は満足していない。
でも、その事実が妙に嬉しかったりする。にゅふふふふ。
僕はスキップしながら食卓に向かう。
「じいじ、ママ、ルナ、おはよー」
「おはよう、カナタお兄ちゃん!」
((おはよう))
じいじが僕の頭を撫で、母が僕のほっぺをもちもちし、ルナが嬉しそうに駆け寄ってくる。ルナの頭を優しく撫でると、ルナは花開くように笑った。
二十年経っても、この朝の食卓の景色は変わらない。全員が全員変わらない事を望んだら、自然とこうなっていた。
じいじが正式に王様になったり、天使族の数が増えたりと、変わったことも多いのにね。
それほど僕達家族の絆は強い。
「にゅふふふふふ、魔物料理創作家のママのご飯が食べられるの、幸せだなあ」
母は魔物料理創作家としての道を進みながら、生まれたばかりの天使族の先生としての役割をこなしている。
最近の創作の国は総人口がどんどん増えているので、子供を守り育てることが好きな母はいつも嬉しそうだ。
(子供はいっぱい食べるのが仕事だ。さあルナ、もっと食べろ)
「もう、ママはいっつも僕を子供扱いするんだから」
そんな僕らのやり取りを、じいじとルナが柔らかく笑って見ている。
「ねえカナタお兄ちゃん、明日から異大陸交流が始まって忙しくなるでしょ? だから、今日のうちにいっぱい創作の国を回って、デートしよ!」
「そうだね、そうしようか」
「流石カナタお兄ちゃん!」
ふふっ、どれだけ歳を重ねても、可愛い妹のお願いは断る気にならないものだ。
◆
創作の国のお昼は、楽しげな音楽がいつも鳴り響いている。音楽の世界にハマった天使族達が、パレードを行うかのように毎日演奏しながら練り歩いているのだ。
「今日もいい音楽だね」
「そうだね、色んな楽器が演奏できて、すっごく楽しそう」
この二十年で創作の国は怒涛のように進化してきた。
楽器や、筆、彫刻刀、紙とペンなどの創作関連の道具や、楽譜や演奏の技法などの創作に関する理論なども合わせ、じいじという王を中心に、創作に特化した国へと見事に発展しただろう。
――ドカーン!!! どんどんドーン!! ポン! ギュイイイイン!!
「……あはは、相変わらずだなあ」
音楽に混じって様々な爆発音が聞こえてくる。今日もどこか遠くで誰かが爆発に励んでいるようだ。
このように、爆発の文化についてもかなり進化した。威力、音、バリエーション、美しさなど、様々な要素を複合して、最高の爆発を日々見つけ出そうとしているみたいだ。
たとえ創作という魅力的なことを見つけようが、天使族の爆発魂はなおも健在らしい。
「あっ、カナタお兄ちゃん、あっち見て!」
「おっ、創作館がようやく完成したんだね」
あの創作館は、美術、音楽、絵、彫刻、物語、詩、料理、舞踊、爆発など、あらゆる創作活動の優秀作品が集まる、国のランドマークだ。
創作の国に住む天使族は、これからはあの創作館に自分の作品が展示されるように、腕を磨いていくことになるだろう。
「それにしても、二十年前はシンプルな家しかなかったのに、こんな立派な建物ができるとは、すごいなあ」
「みんなエネルギーだけは有り余っているから、方向性さえ示せばこれくらいはできるんだよ!」
天使族のポテンシャルが凄い。
見上げるほど大きな石と木でできた創作館は、塔のような外観だ。爆発と創作という二つのテーマを掲げて作られたあの建物は、不思議なほど迫力がある。
あんなに大きくてアシンメトリーで芸術的な建物、よくゼロから作れたよなあ。この世界の戦士達が力を合わせると、こんなにすごいんだ。
僕とルナは創作館を後にし、賑やかな街を回る。
あちらでは元気いっぱいの天使族の子が道にお絵かきに興じ、あっちではベテランの天使族が美しい爆発論について語り、あっちでは男二人が「俺の作品の方が凄い」と創作品を比べ合っている。
相変わらずカオスな光景ではあるが……みんな生き生きとしている。そんなこの国が僕は大好きだ。
「あっちにカナタお兄ちゃんの宗教――」
「そんなものはこの世界にない。さあ、今度はあそこへ行こう」
途中見たくないものもあったが、僕達は思う存分街を楽しんだ。
さあ、明日は異大陸交流の日だ。気合入れていこう。




