34話 この世界に妥協は存在しない
評価やブックマークをしてくれると嬉しいです。お願いします。
僕とルナは家から出て集落を散歩する。
見渡す限りの創作物。どこを見ても、創作。創作。創作。取り憑かれたように、創作する天使族のみんな。
(壊せ壊せ壊せ! 破壊は芸術だ! 破壊と再生、それが創作の美しき循環だ! おらおらおらおらァ!!)
(ああ、このオブジェには“痛み”が足りない。もっと、もっと感性を削ぎ落とさなければ……)
(命の色は何色か……描いても描いても描いても描いても、形にはならなかった。ならば今度はアプローチを変えて、音に乗せて叫んでみようか)
(魔物の革で作った無骨な鎧……うむ、シンプルながら、ときめき度は上昇気流からのダウンバースト、といったところか)
集落に住む天使族が創作に目覚めた。それは同時に芸術への目覚めだった。
見渡せば、様々な創作物が集落に点在していた。みんな一心不乱に創作を楽しんでいるようだ。
僕が奥義により伝えた五つの概念。その中で、天使族は創作に魅入られたようだ。他の四つなど目もくれず、創作活動に専念している。
……なるほど、確かにじいじや母を見ていると、天使族が創作にハマる素質は充分にあったか。とはいえ、目がガン決まりになる程なのは、少しハマりすぎな気もしないでもない。
「なんともまあカオスな空間だなあ」
これが僕の奥義の波紋か。あの時はあの五つの中で、どれか一つでもハマるものがあればいいと思っていたけど、ほんとに一つにだけハマるとは正直思っていなかった。
でもまあ、みんなとっても楽しそうだ。ならいいのか。
みんなが楽しいなら、セカイ様も喜んでいることだろう。
「で、ルナ。他の大陸でもこういうことが起こっているの?」
「うん、カナタお兄ちゃん。あの奥義の次の日には他の大陸でも小さな集落を作って、それぞれの種族ごとに気に入った一つの娯楽を楽しんでいるみたいだよ」
エチエチお姉さんの心眼によって確認した結果、天使族と同様のことが起こっているそうだ。
天使族は見た通り創作。魔族は酒。人間族は仕事。悪魔族はスリル。獣人はセックスと、それぞれ魅入られたのは違うようだが。
……なんでどの種族もみんな極端なんですかね。もっとバランスよくハマろうよ。
「まあ、良いように言い換えれば、これならそれぞれの種族ごとの文化がすぐにできそうだね」
「ねー、どこの大陸も凄い速度で発展しているらしいから、他の大陸へ行くのが楽しみ!」
エチエチお姉さんによると、それぞれの大陸で英雄が中心となり、文化が急速に発展しているらしい。
「僕がやったのなんて、方向性を示しただけなのに、みんなすごいなあ」
「それだけこの世界の戦士達は力の使い方に飢えていたんだよ。すっごい勢いで発展してるから、このままだと天使族が一歩リードしているとはいえ、あっという間に追いつかれるかもだって」
ルナは嬉しそうに僕の胸辺りに頭をグリグリさせて甘えてくる。この世界が発展することは、神様見習いのルナにとって相当嬉しいことみたいだ。
僕も少し口角を上げながら、ルナの頭を優しく撫でた。
「なるほど。じゃあその勢いを壊すのもあれだし、もう少ししてから他大陸と交流し始めようか」
「それがいいね!」
何事も勢いに乗っている時は、勢いのままにしておくのがいい。
今は酒、仕事、スリル、セックス、創作と、それぞれ五つの大陸で、五つの種族が、五つの方向に文化を独自に発展させている。文化を交わらせるのはもう少し落ち着いてからでもいいだろう。
「にゅふふふふ、僕ももう少し猛特訓したい気分だし、ちょうどよかったのかもなあ」
なんとなしに空を見上げてみる。
僕は今、進むべき道の果てだけが見えている状態だ。あの奥義を通して、それが明確になった。
やはり舞いはいいね。考えるのが苦手な僕にとって、舞いは大切なことを考えるための重要な時間だ。舞いをしている時は頭がすっきりして今まで見逃していたものも発見できる。
あの夜、気づいたんだよね。僕は確かに女の部分を強く活かして今まで生きてきた。そのせいで今世の性別である男の部分を蔑ろにしていたのは事実。
だからといって、これから女の部分を蔑ろにするわけでもない。女の部分も、男の部分も、両方愛してこそ僕はやっと満足できるってこと。
「カナタお兄ちゃんも今が一番勢いに乗っているから、絶対大丈夫! すぐになりたい自分になれるよ!」
今が一番勢いにが乗っている、か……確かにそうだ。僕は今乗っている。創作にハマった天使族みたいに、すっごくノリノリだ。
それはきっと、僕が少しだけ殻を破り、視界が広がったから。けど、まだまだこれからだ。僕は全然満足していない。もっともっと僕は大きくなれる。
「このままじゃ、僕は男に生まれ変わった意味がないもんね」
もっと男を磨かなきゃ。いや、磨いてやる。
急速に成長したから忘れていたが、僕はまだまだ生まれたばかりのひよっこだ。男としての人生を積み重ね、もっと冒険して、新しい自分を積み上げよう。
それから、前世が女だったことを意味のあるものにしてやる。進む道すら今は見えていないけど、とにかく遮二無二進み続け、見たこともない景色へたどり着いてやる。
さあ、冒険しよう――
それから。
「みんなが創作している間に、ルナは他の大陸へ行って、白の女王と白のドクターを渡してくるよ」
「うん、そうだね。それがいいか」
急速に発展する文化をすぐに交わらせない方がいいとはいえ、この世界はまだまだボロボロだ。
世界修復を急ぐため、僕は白のシリーズをさらに四つ作り、ルナに渡した。
「じゃあ、それに関してはルナに任せるね」
「カナタお兄ちゃん、ありがとー!」
ルナはそれぞれの大陸に幻獣――最強のトモダチを作り、白のシリーズの守護者として扱うつもりなのだそうだ。
そして、それはしっかりとそれぞれの大陸の英雄たちにも伝えるらしい。実質的に英雄たちは王だからね。勝手にするのは良くないと考えたみたい。
ルナが世界のために動いている間に、僕は立ち止まって舞いや戦いの猛特訓をしていた。そして、その成果を見せるため、一年に一度、奥義を披露することに決めた。
もう僕が持つ知識は全て伝えたから、本当は奥義をする必要はない。けど、発表の機会って、成長するためには大事だと思うんだ。他の天使族のみんなだって品評会などで競うように創作の腕を上げているし、僕だって頑張らなきゃ。
奥義を通して現在の天使族のみんなや、セカイ様について自慢する。僕の奥義には僕の考えや見てきたものを共有する力があって、ほんとによかった。推しはどんどん布教すべき。それができるのが嬉しい。
他の大陸でどれだけ文化が発展したのかは知らないが、こちらは一方的に発表してやる。他の大陸のみんな、僕と天使族の発展のスピードに恐れおののいてね。にゅふふふふ。
この世界のみんなは戦闘民族だから、競い合うことも好きなはずだ。天使族がこれだけがんばっているのなら、負けじと他の種族だって頑張ってくれるだろう。
そうやっていると、あっという間に二十年の歳月が経った。




