33話 この世界に上級天使は存在しない
評価やブックマークをしてくれると嬉しいです。お願いします。
奥義が終わった後のこと。体力を使い切った僕は一週間もの間眠っていた。
目覚めて、家族と会話して、ご飯を食べた。まだ疲れがとれなくて、何もする気にもなれなかった。
こんなことは初めてだ。修行で何度も体力を使い果たし、死にかけても半日寝れば全快していたのに、不思議なものだ。
じいじは無言で頭を撫でてくれた。母が羽で包み込んでくれた。ルナが一緒に添い寝してくれた。
それから、強烈な眠気に襲われてもう一度眠った。
で、次の日の朝、スッキリ目覚めると……
「え? なんで?」
なぜか僕の身体は一回り大きくなっていた。
別に一気に青年になったほど大きくなったわけではない。小学校低学年くらいの大きさから、小さめの小学六年生くらいになったくらいの小さな変化。
それでも、確実に大きくなっている。
……え、なんで? 僕が才能に男らしくDVしたから?
「じいじー。ママー」
確か天使族の身体は生まれたときからほとんど成長しないはずだ。本当に徐々に徐々に歳を重ねることはあれど、こんなに急に変化することなどありえない。
だから母やじいじに聞きに行こうと向かったのだが……
(ふむ、そんな現象は知らんのう……)
(同じくだ。だが、明らかに以前と違う。カナタの纏うオーラが少しおめでたくなっている)
二人ともこの現象に思い当たる節がないらしい。
「えー、なにこれ? 成長期?」
別にほんの少し大きくなった程度でどこも身体に異常はないから、いいっちゃあいいんだけど……なんか釈然としない。
(魔物の存在進化に似ている気がするが……それ以上は分からんの)
存在進化とは、魔物が魔物や人を殺し喰らい、進化する、魔物にのみ起こる現象だ。通常知性ある生き物には起こることではない。
(ほっぺたのモチモチがほんの少し増えた気がする……それに、羽のつややかさも増した……?)
「あ、そうなの?」
そこまでは分からなかった。流石母、いつも僕のほっぺたをモチモチするだけある。
と、僕達がうんうんと頭を悩ませていると、ルナが起きてきた。
「みんなおはよー、どうしたのそんな集まって……ん? カナタお兄ちゃん、位階が上がってる?」
「位階?」
聞いたことのない単語だ。それはなんだろうか?
「えっ、でもこの世界の少ない人口じゃ、位階が上がるなんておかしい……」
僕を見て、ルナがぶつぶつと呟き出しながら頭を悩ませる。
どうやらルナにはこの現象の知識があるようだが、同時に何か不可解なことも起こっているらしい。
「カナタお兄ちゃん、ちょっと失礼するよー。今のルナじゃ抵抗されるとできないから、身体の力を抜いてもらえる? そうそう、じゃあ、ちょっと不快感があるかもだけど、我慢してね」
ルナの瞳がいつもより深い銀色になるとともに、僕の深くまで覗き込んでくるような感覚が襲ってきた。
イメージで言えば、心にある僕の家に無遠慮に土足で踏み込んで家探しされるような?
ルナの言う通り、扉を閉めて追い出そうとすれば簡単に抵抗できそうだ。でも、可愛い妹の事を拒否する兄はいない。どうぞ存分に見てくれ。
「あー、うんうん、なるほどなるほど。なるほどねー。大体分かった」
「何か分かった? できれば詳しく教えてほしいな」
「結論から言うと、カナタお兄ちゃんは神様に近づいたんだよ」
「は?」
神様に近づいた?
「……僕、神様になる気なんてさらさらないんだけど」
「ああ、大丈夫。別に神様になれるわけじゃないから。現状だと、自分の声が神様に届きやすくなった程度かな。とりあえずまずは位階について説明するね」
僕の不安そうな顔を見て、ルナが分かっていることをゆっくり説明してくれた。
どうやら天使族には「位階」という魂の位があるらしい。
様々な人から一定量の幸福の感情を集めた天使は、位階を上げる条件を満たす。要はたくさん人を幸せにした天使は、位階が上がる。
ただ、一定量の幸福が最低限でも「数万人の人種からもらう幸福度」と割ととんでもない量なので、人口が百人程度のこの世界では起こることは今まででは考えられなかった。
それなのに、なぜ僕の位階が上がったのか。
「どうやらねー、カナタお兄ちゃんの前世の世界から、この世界にまでカナタお兄ちゃんを想う気持ちが届いているみたいなんだよね。あっ、正確には前のカナタお兄ちゃんにね。感情は世界を超える力があるとはいえ、これは凄いことだよ」
「ほえー、さす前世の僕」
詳細は不明だが、とりあえず前世の僕のおこぼれを、今世の僕がもらっているらしい。
それ、いいのかな? いや、いいか。前世の僕も、れっきとした僕だし。
「そんな位階を上げる資格を持つカナタお兄ちゃんが、死線を越え、自らの殻を破った。だから位階が上がったんだと思う」
あくまで一定量の幸福を集めたとて、位階を上げる「資格」を得るだけ。だが、資格を得た最下級の天使のみ、大きく成長すると、自ずと位階が上がるらしい。
「これ以上は位階は上がらないだろうし、安心していいよ。
でもね、もし本気で神様になりたかったら、位階を上げるのを後八回繰り返せば神様になれるからね。
ただその前に、ルナが神様となってカナタお兄ちゃんに試練を与えないと、どうしたってこれ以上位階は上がらないんだけどね」
「それ、不可能じゃん。ルナが神様になれるのって、早くても三百年かかるんでしょ?」
別に神様になりたいわけではないが、天使族の寿命は二百年だから、どうしたって無理だ。
「あ、それは大丈夫。位階が上がった天使は寿命が倍になるから」
「は?」
マジか。
僕の寿命は四百年になったってこと?
はえー、そうなんだ。ほうほうほう……
「じゃああれか、僕は脱皮したみたいなものか」
「脱皮って……位階が上がることってすっごくおめでたいことなのに、脱皮って……」
だって、ねえ。位階が上がろうが、少し纏う雰囲気がおめでたくなって、ちょっと大きくなって、寿命が伸びる程度でしょ。あんまり大したことじゃないかなって。
「まあ、僕の身体に異常がないならいいや。さあ、朝ごはん食べよー」
一安心したからか、お腹が空いてきた。僕達はいつものように食事の席につく。
「あれ? 今日は爆発音が聞こえてこないね?」
珍しいこともあるものだ。いつもはどこにいたって、どこかで誰かが何かを爆発させているというのに。
「ああ、それはね。あの奥義の後、天使族はちょっとだけ変わったんだよ。どうやらみんな、“創作”に目覚めたみたい。そして、他の大陸でも天使族と同様のことが起こってるんだって」
と、ルナが教えてくれた。ほえー、そうなんだ。それはよかった。
ふと、窓の外からこんな叫び声が聞こえてきた。
(ふははははは!! 爆発は芸術だ!!!)
いや、やっぱり何にも変わってなくない?




