28話 この世界にテイマーは存在しない
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見渡す限りの猛吹雪。一歩先が見えないほどの暗闇。気温マイナス百度という、もはやファンタジーな温度。
ただそこに空気があるだけ、それだけで凶悪だ。
前世の感覚ならこんな場所で生きていられるわけがないが、今の僕には「鬱陶しいなあ」くらいにしか感じない。どうやら僕も無事にこの世界の戦闘民族に染まってきているようだ。
「さて、この辺りにブリザードダイアウルフが居るはずなんだけど……なんだか、あまり魔物がいないね」
「ルナが近くにいるから襲われないってだけでは説明がつきそうにないね」
この世界では魔物とのエンカウント率がバグっている。ゲームなら間違いなくクソゲーと言われるだろう。
まあ、僕は圧が皆無、ルナは強者のオーラを垂れ流しているので、そこまで戦いが起こるわけではないが。基本的に魔物って強者の気配に敏感だからさ。逃げ出す程度の知能はあることが多いんだよ。
それでも、動く気配を感じると問答無用に襲いかかってくるような魔物もいるし、知能を一切もたない魔物だって山ほどいる。
それら色んなことを加味しても、この辺りの魔物の少なさは明らかにおかしい。
「うーん、魔物もこの程度の環境なら平気で暮らせるはずだから……やっぱりおかしいね」
ここはマイナス百度といえど、この世界の感覚ではそこまで厳しい環境ではない。
「僕もそう思う。何かこの雪山に異常が起こっているのかもね」
「ねえカナタお兄ちゃん。時間はあるし、ゆっくり調査してみない?」
「そうだね」
僕達はのんびり空を飛びながら、この雪山で起こっているイベントを楽しむことにした。
こんな風に呑気でいられるのは、強くなったルナがいるからだ。
ルナなら僕では対処できない理不尽からでも守ってくれるという安心感がある。たとえじいじ級の理不尽が襲いかかってこようと、ルナと力を合わせれば逃げることは可能だろう。
僕の妹はすっごく頼もしいのだ。
「あ、僕の索敵魔法に反応があった。あっちの方に何か大きな魔物がいるっぽいよ」
「分かった。じゃあ行ってみよう!」
さしすせそ魔法で作り出した索敵魔法はこういう時に便利だ。
【さ】索敵
【し】収納
【す】スカウター
【せ】洗浄
【そ】掃除
これはすでに家族なら誰でも使えるようになっているが、この魔法の制作者である僕がどの魔法も一番得意なのは、密かな自慢だ。
この五つの中では、索敵魔法のみ、今まであまり使い所がなかったが……ようやく活躍してくれて嬉しいな。
「ん? なんか僕の索敵魔法、遠くのちっちゃい山に反応してるんだけど……」
この魔法は魔物単体の位置を確認できる魔法だ。土地に反応するのはおかしい。バグった?
「いや、どうやらあの小山が魔物がいない原因みたいだよ。ほらカナタお兄ちゃん、よく見て?」
「あっ、小山が動いた。ってことは……」
「そう、あの小山自体が魔物だったみたい。上手く擬態しているね」
どうやらあの小山のように大きな魔物が、この辺りにいる魔物を全て喰らったようだ。
この世界って単純だから、魔物って強ければ強いほど大きいパターンが多い。小さくて強い例外はあれど、少なくとも大きくて弱い魔物は存在しないと言ってもいいだろう。
「って、カナタお兄ちゃん! あれ、ブリザードダイヤウルフだよ! 大きさがおかしいけどね」
「話が違くない?」
ブリザードダイアウルフは全長十メートルって聞いてたんですが……
「まあ、この世界ではよくあることだよ。生物濃縮の過程であれだけ大きくなったんだろうね。それじゃあ、マウンテンブリザードダイアウルフと名付けよう」
あれはきっと、元々は普通のブリザードダイアウルフだったはずだ。
それが他の魔物を喰い、力を増していくうちに「存在進化」ってのをする。生き延びて力をつけていって、いつしかああなったのだろう。
「ルナ、手伝おうか?」
僕自身にあれを倒せる火力はないが、サポートは得意だ。さしすせそ魔法っていうのは自らを強くするのは苦手だが、味方を強くするのは大得意だからさ。
「大丈夫、カナタお兄ちゃんはそこでのんびり見ておいてよ」
「りょー」
それはありがたい。僕ってあんまり戦うのが好きじゃないからさ。
ルナは人型の姿に戻り、猛スピードで接近していった。
まあ、例えあれだけ強そうな魔物相手でも、ルナを傷つけられる存在がいるとは思えないから、大丈夫だろう。あの子、本当にバカみたいに強いからさ。
ってことで、僕は見学だ。
「おーい、ワンちゃん! ルナのトモダチになって!」
「グルァァアッ!!!」
マウンテンブリザードダイアウルフがルナの気配に気づき、咆哮すると、ブリザードの嵐が吹き荒れ、周囲の木々をなぎ倒す。
おーおーおー、デカいからか咆哮の音がとんでもない。鼓膜が破れそうだ。
「じゃあ、今度はこっちの番。いくよー、トモダチパーンチ!」
「キャイン!」
おお、狼もキャインって鳴くんだ。
それはそれとして、ルナ、遊んでるなあ。ルナの耳がピンと立っているし、尻尾もゆっくりゆらゆらしている。それに、適当な技名のパンチ。確実に遊んでる。
マウンテンブリザードダイアウルフはルナにステゴロで殴られた衝撃で飛んでいったが、頭を振って戦意を取り戻す。そして、周囲に濃いブリザードを発生させ、闇と吹雪に溶けるように姿をくらました。
ああして姿を隠し、暗殺者のようにその牙で敵を狩る。それが「ダイヤウルフ」の基本スタイルだ。マウンテンブリザードダイアウルフになろうがそれは変わらないらしい。
ルナは余裕の表情で突っ立っている。指をちょいちょいとして、かかってこいと言わんばかりだ。
マウンテンブリザードダイアウルフは音を消し、気配を消し、自身の魔力の揺れを消し、存在感を完全に絶った。
山のように大きいのに、全く見えない。魔力を目に通しても見えない。見事なものだ。
……まあ、魂力を目に流したら見えちゃうんだけどね。
それから、数秒後。
音もなく背後から現れ、その牙でルナの首元に食らいつこうする。
そのスピードはとても鋭く、速い。そのマウンテンブリザードダイアウルフが持つ力を最大限発揮した、完璧な角度、完璧なタイミング、完璧な攻撃だ。
……が。
「おすわり!」
「わん!」
ルナはその牙を軽々受け止め、ペットをしつけるように「めっ」した。
……まあ、こうなるのは分かってた。ルナ、強いし。
「おっ、これでルナのこと認めてくれたみたいだね。これでもうトモダチだ。さあ行くよ。『トモダチの輪』」
ルナが詠唱すると、山のように大きかったマウンテンブリザードダイアウルフが綺麗な魔力の塊となり、作り変えられていく――
しばらくして魔力の塊から現れたのは、白く小さな仔狼だった。
毛並みがごく僅かに青白く発光しているからか、幼いながらどこか神聖さを感じる。狼というより、フェンリルという印象を受けた。
いやまあ、フェンリルだろうが可愛ければなんだっていいんだ。けど、どうしてもある一部分が気になるというか、うーん……
「よし、今日から君の名前は『雪まろ』だよ! これからよろしくね!」
「わん!」
雪まろがルナに向かって駆けていき、幸せそうに撫でられている。同じく僕も駆け寄り、ちょっとした雪まろについての疑問を問いかける。
「ねえルナ? なんで雪まろに“頬袋”が付いてるの?」
そう、頬袋だ。フェンリルに必要ないはずの頬袋が雪まろにはついていた。
……なんで?
「そりゃあ、可愛いからだよ! 僕のトモダチは全て頬袋をつけるつもりだからね! 目指せ頬袋テイマー!」
おおう、頬袋テイマーね。
……頬袋テイマー?
「……まあいいや。雪まろ、よろしくね」
僕は雪まろに手を差し出すと、スリスリと頭を押し付けてくる。なかなか愛嬌ある子だ。可愛い。
かくして僕達は番犬を手に入れた。
ふふっ、母やじいじにこのコを紹介するのが楽しみだ。
――ステータス――
名前:雪まろ
性別:メス
種族:フェンリルの幼体
固有特性:存在進化
ユニークスキル:潜伏
体力:C
攻撃力:S
防御力:S
魔力:A
器用さ:B
素早さ:A
【雪まろ:戦闘力16384】




