25話 この世界に環境整備は存在しない
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「にゅふふ、白の女王は相変わらず可愛いね」
白の女王とは、僕が作り出した環境浄化の力を持つ生き物だ。正確には、空気に漂うマナを綺麗にするために僕が考えた、架空の魔法生物。
見た目はケセランパサランのような生き物であり、弱く儚い、小さな命でしかない。だが、それでも僕がかなりの魔力を使って作り出した、現状の僕の最高傑作とも言える子だ。
僕は白の女王を人差し指で優しく撫でた。僕の肩に乗った白い毛玉は返事こそしないが、嬉しいという気持ちはテレパシーで伝わってくる。
「ねえじいじ、あのブラックホールみたいな罪過の地って、まだ修行に使うかな」
(ふむ、そうじゃのう。ルナは死の淵から蘇るたび、一回り強くなる。おそらくあの罪過の地では、もう修行にならんはずじゃが……一応ツムギに聞いてみるかの)
「そうだね。それが速いか」
僕達は母の元へ飛び、このブラックホールが必要か尋ねると、もう必要ないとの答えが返ってきた。
「じゃあ白の女王、食べちゃっていいよ」
僕が指示を出すと、白の女王は喜んでブラックホールに飛び込んでいった。あの大きさの罪過の地ならば、一ヶ月程度で食べ尽くしてしまうだろう。
(相変わらず大した食べっぷりじゃな。カナタそっくりじゃ)
(ええ、ソラ様、そうですね。食い意地のはったカナタと、本当にそっくり)
「ええー、僕はあそこまで食い意地はってないよ」
((……))
母とじいじが僕を呆れた眼差しで見てくる。
はいすんません。僕はかなりの健啖家です。いつも苦しくなるまで食べて、後悔しています。
だってさ、頬袋がパンパンになるくらい食べ物があると、嬉しくなっちゃうんだもん。
あと、男って生き物はどうやらバカみたいでさ、自分の食欲すらコントロールできないんだ。目の前にあれば、あるだけ食べてしまう。そういう愚かな生き物なんだから仕方ないよね。
(カナタ、全て自分のせいなのに、性別のせいにしてるでしょ?)
「え!? なんで分かったの!?」
他責思考で自分を納得させていたのを、何故か即座に見破られていた。
(カナタは分かりやすいのよ)
そう言いながら母は僕の頬袋をモチモチする。いつものように瞳だけ爬虫類のようにして、無表情でひたすらにモチモチと。
最近分かったんだけど、母は狩りをする時もこういう目になるみたいだ。なんで僕の頬袋を触っているとき、狩りをする目になるんでしょうね?
「やーめーてー、モチモチしないでー」
(ふふふふふ)
でもやっぱり、とっても楽しそうではある。ほんと、頬袋が好きだねえ。
じゃあお返しに、僕も母の羽に包まれて、推し吸いしよう。何事も等価交換。僕の頬袋は安くないんだからね。
そんな風にじゃれ合う僕達を、じいじは優しい瞳で眺めていた。
(それにしても、白の女王は面白い生き物じゃのう)
「そうでしょ。あの子を生み出すの、結構苦労したからね」
白の女王はルナの修行に僕がお役御免になってから、僕のさしすせそ魔法で生み出した。
どんな魔法だったのかというと、
「さしすせそ魔法、上級・白の女王の世界。展開!」
【さ】さあ始めよう。
【し】白の女王よ。
【す】全ての不浄を喰らいつくして、
【せ】世界を綺麗せよ。
【そ】創世!
こんな感じ。
僕のさしすせそ魔法は五つの効果の魔法を作ることもできるが、さしすせそを一つの詠唱とすることで、一つの魔法にだってすることができる。
今回やったのは、後者というわけだ。
そうやって生まれたのが、あの白の女王。罪過の地の魔力を食べ、それをエネルギーとし、子を生み出す生物だ。
「お、もう増え始めた生んだみたいだね」
あのブラックホールの周りに、白の女王より一回り小さなケセランパサランが見えた。
あれは子だ。子も罪過の地の魔力を食べる。
ただ、子は子を生まない。子を生むのは白の女王だけだ。
子はお腹が一杯になると、自然現象へと変化する性質がある。ある子は綺麗な風となったり、ある子は汚れたマナを吸う花を開く種子となったり、ある子は水の流れに溶け込んで水を綺麗にしたりと様々だ。
そうして活動しているうちに、いつの間にか空気中のマナが綺麗になっていく。
(ふむ、いい風が吹いておる。気持ちいいのう)
(そうか。これが当たり前だと思っていたが、本来この世界の空気は淀んでいたんだな。カナタのおかげでそんな事実に気づくことができたよ。ありがとう)
「どういたしまして! ママ!」
別に僕はそんな大志でやったわけじゃない。
ただ「空気が汚いなあ……ってか、ちゃんと見たらめっちゃ淀んでるじゃん。くっさ」という感覚を元に、世界を綺麗にしてみたかっただけだ。
美味しい空気の中で舞う方が、僕も楽しいからね。
(やはり周囲のマナが綺麗になると、魔力の変換効率が段違いだな。ふむ、面白い)
母が少し綺麗になった周囲の空気の中、楽しそうに試行錯誤している。やっぱり試行錯誤も好きみたいだ。好奇心のままに行動している母は、キラキラ輝いている。
家族が幸せだと、僕も幸せだ。僕は今、とっても幸せ。そして僕が幸せだと、じいじも幸せそうに笑う。今は寝ているが、ルナだって同じ。こうして幸せの輪はつながっていくのだ。家族って良いね。
しかも、幸せだとセカイ様のためにもなるんだから、良いことづくめだね。
「ルナも混ぜろー!」
「うわっ」
さっきまで死に体だったルナが飛びついてきた。もう身体は完全に回復しているようだ。
そんなルナの頭を母が優しく撫でる。
(ふふふ、ルナ、みんな。せっかくいい気分だし、修行は一休みして、食事にしましょうか)
「えっ!? やったー!!」
(ガハハハハ! そういえば以前玄武亀を狩ってきたんじゃった。収納魔法のスペースを食うから、今日は鍋にしないか?)
なるほど、すっぽん鍋か。以前にも家族で食べたことがあるが、あれはおいしかったなあ。
「いいね! そうしよう! ママ、解体手伝って! っていうか、解体は任せて良い?」
(そうだな。カナタが一人であの大きさの亀を解体するのは、少々荷が重いか。あいつは血も食べられるし、肉はもちろん内蔵だって食べられるはずだ。せっかくだし、三人で解体してみるか)
「分かった! ルナも頑張ってみる!」
「じゃあ、その間に僕は味付けを担当するね!」
玄武亀――そいつは山のように大きく、凶悪な生き物だ。表面の皮膚はダイヤモンドのように固く、甲羅に関しては中性子星くらい硬く重い。
中性子星って知ってる? 簡単に言うと、中性子星って、ティースプーン一杯でも十億トンあるような、意味不明な超重量物質だ。
っと、そんなことはどうでも良くてさ、何が言いたいかって言うと、ただ食べるのに一苦労するってことだけ。
それでも、文句を言う人は誰も居なかった。なぜなら、煮込むと美味しいことを僕達は知っているから。
「食うぞ食うぞ~♪ 頬袋いっぱい頬張るぞ~♪」
素っ頓狂な即興ソングを奏でながら、鍋の出汁を作っていく。
そんな僕を家族みんなは「やっぱり食い意地はっているなあ」と、微笑ましい目でみていた。




