24話 龍に限界は存在しない
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(ふはははは! そうだ! 死の淵から蘇れば蘇るほど、ルナは強くなる! この調子はあと百回は死のうか)
「ぎゃああああ!!!! もう走馬灯を見るのは嫌!! 死にたくない死にたくない死にたく――」
ルナの耳がペタンと伏している。どうも怖いとああなるらしい。
(ふむ、逃がすわけないだろう。さあもう一度だ)
「なんなのこの糸! 全く振り切れないんだけど! ツムギお母さん、強すぎ!!」
(大丈夫だ。もう千回ほど死を乗り越えた先には、こんな糸など容易く振り切れるようになっていることだろう。ふふふふふ)
「い゛ーや゛ー!!! あっ、カナタお兄ちゃん、チタンおじいちゃん、見てないで助けて!!」
「「……」」
「助けてよ!!!!」
僕は視線をそっとそらした。あんな楽しそうな母を止めるなんて、そんなこと、ねえ……?
まあ、ルナの頑張りを兄として誇りに思うよ、うん。あの人、ほんとに容赦ないからね。
(それにしても、ツムギの死のギリギリにまで追いやる技術、ギリギリで救出するタイミングを図るセンス、何度見ても惚れ惚れするのう)
「なんかママって、殺し合いの時代が終わった後、魔物相手に色々実験してたんだって。あの謎技術はその名残らしいよ」
僕は空高くでじいじに赤ちゃんだっこされながら、母について語る。
実は母には、人を鍛えたり成長させたりする以外にも趣味がある。母は「ただ胸のうちの形のない衝動に駆られて、何かをしていたかっただけ」と、趣味であることを否定するが、衝動に突き動かされたのならそれはもう立派な趣味だ。
そんな母の趣味は、試行錯誤と解剖だ。
自分の能力で何ができるか、魔物の身体の中がどうなってるのか、どこまで破壊すれば生き物は死ぬのかなど、好奇心の赴くままに暴れ倒した。
ひどい時はちょっとした戯れで、自らの身体で、死の淵ギリギリをせめぎ合うチキンレースなんてものをしてみたりしてたんだって。うーん、マッド・サイエンティスト。
そういう日々の道中で、母はああした瀕死にさせる技術を身につけたそうだ。
「っていうか、ルナがいる場所、何あそこ。ブラックホール?」
母により、泣き叫ぶルナが真っ黒な空間に投げ捨てられた。
そして数秒後には、メキメキ、やミシミシといった身体がめちゃくちゃになる音が聞こえ続けている。
(あれは極限まで圧縮された高密度の魔力の集合体じゃの。通常ならあそこまで高密度になることはないはずなんじゃが、あの空間は激しい殺し合いの影響で壊れておる。この世界のルールは通用せんのじゃ)
「うへー、僕があそこに吸い込まれれば、一瞬でチリになりそうだなあ……」
流石はルナ、僕には決してさせなかったような生存難易度の高い場所で瀕死にさせられているみたいだ。
僕の場合はアフリカゾウみたいな魔物に踏み潰されたりとか、マグマの中で泳ぐピラニアみたいな魚に突かれたとか、その程度だもん。身体の強さが僕とはまるで違うね。
ああいうルールが通用しない場所は、この世界にはいくらでもある。まだまだこの世界は未完成で、傷だらけだからだ。
個人的にそういう場所のことを「罪過の地」とかっこつけて呼んでいたら、いつの間にかみんなもそう呼ぶようになっていた。シンプルに死地とかでよかったのに、なんかちょっと恥ずかしい。
「じいじならああいう場所でも余裕?」
(ああ、じいじは最強じゃからな! あの空間で背泳ぎだってできるぞ)
「やっぱりじいじは最強だ!」
(うおおおおおー! じいじ、強くてほんとに良かったぞおおおお!!! ぐおおおおお!!!)
じいじが空を仰ぎながら手で両目を抑えて男泣きしている。天使の輪も全力で高速回転だ。うん、じいじは母と違って表情が分かりやすいね。
……でも、ほんとすごいよね。じいじも母もルナも。ああいう理不尽な場所で生存できるのが、ほんと意味不明だ。
一応僕だって「なんで生きていられるか」説明はされたんだよ?
母が言うには、『分かりやすく例えると、ペンキの汚れは消しゴム程度では消えない。そういうことだ』とのことだが、どういうことだってばよ……
なんか他にも「存在力」とか、「世界への定着力」とか色んな言葉で説明されたけど、最後まで僕は理論的には理解できなかった。
僕が分かっているのは、例えばじいじが「絶対に貫ける最強の矛」で突かれたとしても、じいじには刃すら通らないってこと。この世界では矛盾の故事は流行らないね。
とにかくこの世界の強者、耐久力がバグってるんだよ。魔力というものがあるとはいえ、絶対におかしいと思うけど……きっとそうでもなければ生き残れなかったくらい、今までが過酷だったのだろう。
(ふむ、そろそろか)
僕が珍しく考察していると、龍の姿のルナが母の糸によってあのブラックホールみたいな場所から救出された。
ちょっとゴア表現があれなので具体的な描写は避けるが、明らかに瀕死だ。
そんなルナを母が糸を操り、体中の筋繊維を強引につなぎ合わせる。
(さあ、ルナ。応急処置はしたから、しっかり寝て、回復するんだ。一時間後にまた会おう)
ルナは眠りに入る。一瞬で眠ったから、身体が休息を求めているのだろう。
すぅすぅと穏やかな寝息とともに、みるみると身体が回復していく。早送りでもしているのかってくらい傷の治りが速い。
肉体の回復速度が速いのは、ただの龍の固有特性だそうだ。天使だって回復するスピードはかなり速いが、それにしたってあそこまで異次元に早くはない。もしかしたらこの特性は、ルナが僕達天使族三人の魔力から生まれた影響を受け継いでいるのかもね。
ああして傷ついて回復してを繰り返し、ルナは手が付けられないほど強くなっていく。
「あの回復速度、いつ見てもチートだなあ。それに、ルナはちょっと特殊な魔力も持っているし、さらに言えば、将来的には神力まで使えるようになるっていうんだから、あんなのどうやって倒せばいいのやら」
龍魔力――僕達はルナの使う魔力をそう名付けた。
龍魔力は僕達の使う魔力と少し性質が違う。雑に説明するなら、普通よりも1.5倍ほど魔力が濃いのだ。龍の器の問題か、ルナの持つ魔力総量は無尽蔵だ。だから自然とそうなっているのだろう。
それに加え、ルナは神様に至った時、神力が使えるようになるんだとか。龍魔力に加え神力まで使えるって、ほんとチートだね。
まあ、神様になるのには流石に途方もない年月がかかるそうだが。
(ふむ、あの調子じゃと、もうそろそろ魂力を使えるようになりそうじゃな)
「そうなると、もっと手がつけられなくなるね」
魂力は何度も死の淵に立てば、天使族なら身体が勝手に覚えるものだ。龍族でも覚えられるのかは分からなかったが、母によると『魂力は誰でも覚えられる技術』だそうなので、ルナは覚えられるそうだ。
ただし、僕より圧倒的に要領の良いルナでも、覚えるのに苦労している。もしかしたら、天使族は魂力が覚えやすいという隠れ固有特性みたいなのがあるのかもしれないね。
と、ルナのことを考えていると、僕の元にある一匹の生物がワープしてきた。この世界には似つかわしくないほど綺麗で真っ白な毛玉が、僕の肩に引っ付く。
実はこの子は僕の作り出した生き物だ。
その毛玉は僕にテレパシーで意思を伝えてきた。
ふむふむ、なるほど。
「じいじ、実験は成功したみたい。じいじの縄張りの罪過の地が、一つ消えたんだって」




