22話 この世界に妹は存在しない
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遥か彼方に飛んでいきそうになった僕を母が糸で捕まえる。そのおかげで、みんなの元へ戻ってこられた。
それにしても、僕もある程度強くなったはずなのに、あんなに軽々と投げられるとは……ルナはかなり力が強いようだ。まだ生まれたばかりなのに、凄いポテンシャルだね。
「ルナ、ごめんね。ちょっと暴走しすぎちゃったみたい」
これが男の子になった弊害かな。僕、前世よりおバカさんになっている気がする。
……前世もおバカさんだった気がしないでもないけど、気づかないことにして、と。
「大丈夫! よく考えたら、古来より『妹みたいなもんだから』は、恋愛フラグの始まりだから!」
妹の言う言葉は魂では強く共感しているのだが、今の前世をほぼ忘れてしまった僕には、理解するのが少し難しい。
とりあえずルナが許してくれているし、何故か機嫌もいいので、まあいいとしよう。
「ねえ、カナタお兄ちゃん、ツムギお母さん、チタンおじいちゃん」
ルナが僕達に向かって手を合わせる。
「ルナを鍛えてくれない? ルナが望む世界には、カナタお兄ちゃんが生き生きと生きている必要があるんだ。だから、どんな理不尽からもカナタを守れるような力がほしいんだ!」
ルナは僕のボディーガードになりたいとかなり張り切っているようだ。シュッシュッとものすごいスピードでシャドーボクシングをしながら、みんなにそう頼み込んだ。
(ガハハハハ! そうか、守る力か。素晴らしい! 良い心がけじゃ!)
(生まれてから一年は能力が伸びやすい。ルナが言わなくても、私から提案しようとしていたよ)
(ほう、そうなのか。生まれてから一年……なるほどのう。確かに言われてみれば、思い当たるフシがあるのう)
「あはっ、いっぱい強くなって、世界を救うぞー!」
世界を救う? どういうことだろう?
どうやらルナは普通の人とは違う独特の視点を持っているようだ。これからたくさん話をして、相互理解が必要そうだね。
でもまあ、どうせまた一年間みっちり修行に付き合うことになるんだ。その間にたくさんおしゃべりしていけば、自然とルナのことが理解できるだろう。
(はてさて、修行なぞどうやってすればよいのか……ワシには見当もつかん)
じいじは、「殺し合いの末、ただ生き残った結果強くなっただけ」だとため息を吐く。
自らのやり方が時代錯誤だということは分かっている。が、そのやり方しか強くなる方法を知らない。じいじの胸には、そんな自嘲と葛藤が渦巻いているように見えた。
(修行の方向性なら私にまかせてください。上手くできるかはともかく、人を守り育てることがどうにも楽しくて仕方がないのです)
(そうじゃのう、なら、ツムギに任せよう)
(ええ、ですが、おそらくこの子は私よりすぐに強くなります。そうなったときには、ルナの相手を頼んでいいですか?)
(ガハハハハ! こんな力しかないような老いぼれでも役に立つのなら、存分に使ってくれ!)
二人のやり取りを聞いて、ルナが「はい!」と大きく手を上げた。
「あっ、ならさ。チタンおじいちゃんは弟のところに行ってほしいな! ルナ達は姉弟だからか、弟の気持ちがなんとなく分かるんだ。弟はまだ生まれてないだろうけど、きっともうすぐ生まれるはずだから」
(ほう、面白そうじゃの。ではルナの言う通り、ルナの弟とやらを一目見てくるかの)
「チタンおじいちゃん、ありがとー! 弟は血気盛んだから、確実にソラおじいちゃんに喧嘩を売ってくると思う。軽く鼻っ柱を折ってあげて!」
その言葉を聞き届けるやいなや、じいじは猛スピードで飛んでいってしまった。
「えっ、そんなことさせていいの?」
「うん! 弟は死ぬほど負けず嫌いだから、敗北がいい経験になると思うんだ」
にしても、生まれてすぐにじいじをよこすとは、なかなかのハードモードを強いるなあ。
「ルナの弟ねえ、僕も会ってみたいな」
ルナの弟なら、僕の弟でもあるし。
「うーん、弟は明らかにここに幸せがあるのに、この世界の裏側まで行って生まれるような逆張りする子だからなあ。目の前の幸せより、自分で見つけた自分なりの幸せを掴み取りたいみたいだから、会えるかどうかは……
ま、元気でやってれば、いつか会えるんじゃないかな?」
カナタ達と一緒にいるほうが、絶対に幸せになれるのにねー、とルナが甘えてくる。どうやらルナは意地やプライドなんかより、手に入る幸せを掴み取るタイプみたいだ。
こういう子って要領がいい子が多いんだよね。
一方ルナの弟は、どんな形であろうが、自らの力で成功を掴み取りたい男の子のようだ。なるほど男の子だね、うん。
(さて、おしゃべりはそこまで。ではルナの力を見るために、まずはカナタと実戦をしてもらおうか)
「え? 僕がやるの?」
母が一から十まで教えるのだと思っていた。
「というか、もうすでにルナの方が強い気がするんだけど……僕、勝てなくない?」
どう見てもルナからは強者特有のオーラのような物を感じる。多分現時点で僕より強いだろう。
(確かにルナの方がステータスや戦闘力の面では強いだろう。だが、ある程度の高レベルになると、ステータスなど全く参考にもならない。強者が勝つなんてただの驕りだ。故に勝つのはカナタだ)
「えー、そんなことあるかなあ?」
「じゃあルナは、カナタお兄ちゃんに勝てるようになるのが最初の目標ってことだね!」
(ああ、胸を借りるつもりで全力で行け)
「分かった! いくらカナタお兄ちゃん相手でも、手加減しないよ!」
いやいや、トントン拍子で話が進んでいくけどさあ。
「こっちが手加減してほしいんだけど!」
僕の叫びは当然のように無視され、何故かルナと戦いをすることになってしまった。
僕、戦いってあんまり得意じゃないんだけどなあ……
まあ、兄として妹にカッコ悪いところは見せたくないし、できるだけやってみますかね。
(では、よーい、始め!)
「いくよー!」
ルナが目にも止まらぬ速さで僕に一直線に向かってきた。
これはダメだ。明らかに僕より速いし力も強い。特に身体に纏う銀色のオーラ、あれは身体強化に似ているが……僕は銀色の身体強化なんて見たことがない。
とりあえず、あれはまともにやっても勝てそうもないことは確か。
さてこういう時は……
「さしすせそ魔法、中級・デバフの世界、展開」
【さ】サイレンス
【し】シフト
【す】スロウ
【せ】セーブ
【そ】ソウル
僕は舞う。
別に舞うことに意味なんてない。それでも僕は舞う。それが楽しいから。戦い自体はそこまで好きじゃないけど、舞うことで戦いが楽しくなる。
ってか、何故か僕は舞っている時の方が強いらしい。ほんと、不思議だよね。
【さ】で世界から音を、同時に僕の存在感や気配を消し、
【し】で相手の移動方向を自由自在に変化させ、
【す】で相手の動きを鈍らせ、
【せ】で相手の力を百分の一に抑え、
【そ】でそれらのデバフが魂にまで届くようにする。
美しく舞いながらひらひらと避け、小刻みに攻撃していく。僕の魂が輝いているのを感じる。
楽しい。僕は今すごく楽しい。
そこからはもう、僕の独壇場だった。
数分後に立っていたのは僕だけ。ルナは地に伏していた。
「カナタお兄ちゃんのユニークスキル、ズルすぎ!」
いや、そんなこと言われましても。これくらい、母だったら欠伸しながら対処してくるよ、まじで。




