20話 この世界に龍は存在しない
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「さあ、目を閉じて、集中して。お互いの魔力を感じて、混じり合わせよう!」
僕達は手をつなぎ、円になった。
お互いの意識が溶け合うように混じり合い、一つの生命体になったかのようにシンクロし始める。
「そうそう、そんな感じ! この調子で行けば、絶対に生命の星を作れるよ!」
セカイ様、僕、母、じいじ。四人の魔力が交わっているのを感じる。
「そうだ。僕が生まれる時に思ったんだけど、子供がどんな風になるのかは、きっと僕達の願いに影響されるよ! だから、どんな子になってほしいのか、魔力と共に願おう!」
僕は生まれる前、本能が強烈に「強く!」とか「奪え!」とか「殺せ!」とか、物騒なことばかり騒いでいた。
……まあ、本能なんて無視したせいで、こんな何の圧もない僕が生まれてたんだけど。
生まれる前にそんな本能を持っていたということはさ、その本能は、親の願いだと思うんだよ。だからこそ、どんな子に育ってほしいのか、願うのは大事なはず。
「僕はそうだなあ。可愛くて、セカイ様のことが好きで……絶対に生まれてからすぐ死んでほしくないし、強い子かな」
そんな子が生まれてほしい。そういう願いを込めて、丁寧に魔力を交わらせていく。
(これから戦いのない世界で、未来を引っ張っていくような子を。自由を楽しめる強き子を)
(すくすくと健やかに育ってくれれば、どんな子でもいい。ただし、理不尽に打ち勝つ力は必要だ)
お互いの魔力が混じり合うことで、二人の願いも自然と理解していく。そして、セカイ様の魔力からもそれは同様に感じられる。
(新たな生命、それ自体が尊く、素晴らしいものだ。愛すべき我が子よ。ただただ幸せであれ)
そんな四人の願いが混じり合い――
僕達の魔力は「二つ」の生命の星となった。
一つは金の金平糖、もう一つは銀の金平糖だ。
僕が生まれたときよりどちらも明らかに大きい。二つが綺麗にこの場に輝いている。
「えっと、二つ……ああ、なるほど」
そうだった。すっかり忘れてた。
確か生命の星が一つできるのに、そこまで多くの魔力は必要ないんだ。
ただ、魔力同士は反発し合う性質があるので、本当にお互いにお互いのことを好意的に思っていないと、上手く混じり合わない。
そのせいで、ぽんぽんとは子は生まれない仕組みとなっているってセカイ様は言ってたっけ。
で、今回の場合は、混じり合う魔力がかなり多かった感覚があった。
通常なら多い分には何も問題がない。何も一回の魔力交換で、一つの生命の星ができるというわけではないからだ。
魔力の余剰分はセカイ様に吸収されるか、または新たな生命の星となる。
要は魔力が多ければ、三つ子、四つ子、五つ子と、たくさん生命の星ができるだけらしい。
「あれ? 通常なら、生命の星は空で一月くらいかけて、ゆっくり形作っていくって聞いてたけど……意図的に魔力交換を起こすと、すぐに出来ちゃうのかなあ?」
(いや、おそらくじゃが、今回は特殊な例じゃ。セカイ様の魔力は少し特殊じゃったからの)
僕には普通の魔力にしか感じられなかったが、歴戦の猛者であるじいじには違いがわかったようだ。
そんなセカイ様のウロコが、魔力をなくし、砂のように消えていった。
ありがとう、セカイ様。
「でも、二つか。この魔力の量なら、場合によっては百人くらい生命の星ができてもおかしくなかった気がするんだけど……」
すっごく感覚的な話だけどね。
(私は今までたくさんの卵を見てきた。しかしこの二つの卵は、通常より明らかに大きい。それが原因ではないか?)
(セカイ様の魔力は、不思議とワシらの魔力と同じようで、どこか違った。そのせいで通常より大きな生命の星ができたんじゃないかの?)
なるほど、だからこの二つの金平糖はこんなに大きいのか。まあ、セカイ様の魔力を混ぜた特殊な子だ。そういうこともあるかもしれないね。
「あっ」
その二つの金平糖が、流れるように空へと吸い込まれていく。そうして、あの二つは大きな星となったのだった――
「……明らかに他の星より光ってるね」
他の星が三等星なら、あの星は一等星、というか、もはや月?
とにかく、ピカピカと金と銀に光っている。
(どんな子が生まれるんかのう……)
(私達の子だ。きっと強くたくましく、立派な子となるだろう)
僕は通常の子ではないことに慌てているのだが、二人はそういうこともあるか、と泰然としている。なんなら、あの二つの星が他より光っていることに、自慢するような気持ちすらありそうだ。
流石は殺し合いばかりの修羅の時代を生き抜いてきた戦士達だ。肝が太い。
「確か生命の星ができたら、十日くらいかけて生まれるための安全な場所を選び、それから落ちてくるはずだよ」
僕は夜空を見上げた。
僕達の魔力が混じっているからだろう。離れていてもあの星の考えていることが分かる。
何ていうのかな、通じ合ってるんだ。きっと、子が親を、親が子を思うと、自然とその子のことが分かるんだ。
特にあの銀色の方、あの女の子のことははっきりと分かる。あの子はいずれ僕達の元を選んで落ちてくるだろう。
銀色の方の願いは「今すぐにでも可愛がられたい」や、「家族と幸せになりたい」「大切な人達と生涯ずっと暮らしたい」など、僕の欲求が色濃く表に出ている。
そこに居るだけで華やかになる子になるんじゃないかな。
一方あの金色の方、あれは男の子だ。
「誰よりも強くたくましくなりたい」とか、「自由に世界を冒険したい」とか、どちらかというとじいじと母の願いが強く表に出ているようだ。
なんとなくやんちゃに育ちそうな気がする。
「ふふっ、どんな子に育つのかなあ……えっ、動いてる?」
通常生命の星は、十日ほど夜空で輝いて、落ちる場所を選ぶはずなのだが……
あの二つの星はとことん特殊なようだ。
一方は遠くに、もう一方は僕達に向かって落ちてきている。
銀色に光る女の子の方が、僕達の足元にズドンと落ちた。
逆に金色に光る男の子の方は「俺の仲間は俺が選ぶぜ!」とでもいうように、通常通り誰の縄張りでもない遠くへと落ちていった。
どうも男の子の方は冒険思考が強いらしい。
(早く、早く生まれたい! 早くみんなの家族になりたい! だから、いっぱい魔力を頂戴!)
銀色の金平糖が、僕たちに想いを伝えてくる。
なかなか自己主張の激しい子だ。そうすると少し早く生まれることができるということを、本能的に知っているのだろう。
その願い通り、僕達は魔力を注いだ。
しばらくするとキラキラと金平糖が光り輝き、その光の粒子が新たな生命の輪郭をなぞり始める。
「綺麗……」
思わず声が出る。なんだか胸がいっぱいだ。
新たな命が生まれてくる、それも僕達の子。それが無性に嬉しかった。
光が収まった後、そこには――
「きゅい!」
一匹の小さなメスの龍が、僕の周りを元気に飛び回っていた。
この日、この世界に新たな種族、龍族が誕生したのだった。




