19話 この世界に懐妊は存在しない
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じいじと母が僕の「子供を産む」発言に目をパチクリさせている間に、僕は空間をガサゴソとする。
「テッテレー、セカイ様のウロコー」
収納魔法からセカイ様のウロコを取り出し、手に持って空に掲げた。収納魔法というのは、さしすせそ魔法がどんなのか分かってから作った、僕のオリジナルね。
『さしすせそ魔法、初級・クオリティ・オブ・ライフを上げる魔法の世界、展開!』
【さ】索敵
【し】収納
【す】スカウター
【せ】洗浄
【そ】掃除
その中の収納ってやつ。
どれもとても便利な魔法だ。
このセカイ様のウロコを出した理由を話す前に、少しだけ前提を二人に説明しよう。
「ねえ、じいじ、ママ。この世界でどうやって子供が生まれてくるのか、知ってる?」
((いいや、知らない))
そうなのだ。驚くことにこの世界では、どうすれば子供が生まれるのかをみんな知らないのだ。なんか色々破綻してるよね。うん。
でも、セカイ様から話をいっぱい聞いた僕は、子供が生まれる仕組みを知っている。
「じゃあ、説明するね。ママもじいじも、生まれた時は誰の縄張りでもない土地で一人で生まれたよね。あの金平糖みたいな卵からさ」
(うん)(うむ)
僕もそうだ。基本的にこの世界では、新たな生命は一人で生まれてくる。
……まあ、僕は少しイレギュラーがあったが。
知的好奇心の強い母が、誰のものでもない縄張りで生まれそうになる僕をたまたま見つけたんだよね。
この広い世界で僕を見つけるって、もうこれ、運命だよね。運命だよね!?
ってことで、ママに突撃じゃー! 僕をぎゅーってして、もっともっと甘やかせー! ついでに推し吸いさせろー!!
……痛てててて、あっ、はい説明を続けます。ごめんなさい。
「あの金平糖は、空に浮かぶ星ってことは知ってる?」
(ほう、そうじゃったのか)
(そこまでは知っていた。私は空から落ちてくる星の行方を探したことがあるからな)
探究心が旺盛な母は、星の行方を追いかけたことがあるようだ。
僕らは元々、星だった。
その夜空に浮かぶ生命の星が、誰の縄張りでもない安全そうな場所を巣と定め、そこに落っこちる。
誰の縄張りでもない場所を選ぶのは、生命の星の生存本能から自然とそうなるらしい。
「で、あの生命の星はね、魔力を持つ人種であれば、実は誰でも作れるんだよ」
(ほう)(そうだったのか)
じいじが鷹揚に頷き、母が瞳を煌めかせる。そんな姿を見て調子に乗った僕は、くるくると空を舞いながら説明することにした。
「にゅふふふふ、作り方はとっても簡単。同性でも異性でも何人でもいいから、複数人で魔力を混ぜ合わせて、交換するんだ。やることはそれだけだよ」
僕が薄く発光している余韻を使い、この真っ暗な世界にハートの光の奇跡を描く。
楽しい。僕は今最高に楽しい。
でもなぜかじいじが天を仰いで唸っているが……まあ、気にしないで説明を続けよう。
魔力にはその者の意思が宿る。そのせいか、お互いがお互いのことを気に入れば、魔力同士は自然と混じり合う性質がある。故に殺し合いしていたとしても、心のなかでお互いのことが気に入っていれば、そうしようと意識せずとも自然と生命の星が作られるのだ。
だから戦い合っていた今までの歴史でも、生命の星はたくさん空に生じていたらしい。
……まあそれ以上に死ぬ人が多いので、人口はどんどん減っていったらしいんだけどね。セカイ様カワイソス。
僕がこの世界にいっぱいの命を与えてみせるからね! 任せておいて!
「僕の言う魔力交換ってのはさ、この現象を意図的に再現することなんだ」
今度は僕の両手で大きなハートを作り、軽くウインクしてみる。
じいじは天使の輪をさらに高速回転させながらうめき声を出し、母は無表情ながらも羽をふぁっさふぁっさとさせている。
気に入った者同士で魔力を交換する。そうすると、交換した者どうしの魔力が空に溶け合い、理論上は生命の星となる。
理論上できるのなら、絶対できるでしょ。
(ああ、あの感覚か。若い頃、骨のあるやつと殺し合っている時、確かにお互いの意識が溶け合うような感覚を経験したことがあるの。あれは魔力交換じゃったのか)
(私も経験があるな。たしかあれは、二十日ほどぶっ続けで殺し合いを続けていた時だったな。
結局決着はつかなかったが、あいつは強い女だった。
そうか、では、私とあいつの子もこの世界のどこかで生まれていた可能性が高いのか……)
どうやら二人にもそんな経験があるらしい。なら話が早いね。
「その話を生まれる前に聞いた僕は、こう思ったんだ。『なら僕は、セカイ様との子がほしいな』って」
手でキツネの形を作り、その二匹のキツネを口づけさせる。
じいじの周囲の地面がゴゴゴゴゴッと揺れ、母はコテンと首をかしげたのち、僕の真似をして自らの手で作ったキツネを口づけさせ、満足気に口角を上げた。
いいアイデアだと思ったよ。
どうせ僕は一人で生きていく気はサラサラなかった。
たまたま母が見つけてくれたおかげで孤独感は感じなかったが、それはただのラッキー。そんなことになるとは全く想定していなかった。
僕の想定では、生まれたらすぐにセカイ様のウロコに残っている魔力と、僕の魔力を混ぜ合わせ、妹か弟のような存在を作ろうと思っていた。
これ、理論上はできるはずなんだよ。
そしてその妹、または弟にボディーガードしてもらいながら、僕はその子を全力でサポートする。そうやって二人でセカイ様のためになるようなことをしながら、この世界で生きていくつもりだった。
「それをね、三人に手伝ってもらおうかなって。僕とじいじとママとセカイ様のウロコで、もう一人家族を増やさない?」
せっかくセカイ様からウロコをもらったのだ。どうせなら使いたい。
それに、やっぱり僕、妹か弟がほしい! 可愛がりたい!
「僕達ってスーパー仲良し家族じゃん。だからさ、セカイ様のウロコを合わせた四人でも、魔力交換が上手くいくと思うんだよね!」
セカイ様はこの星に生きる全ての生命を愛している。それに、名付けによってセカイ様との繋がりを感じたことで、こちら側もセカイ様を好意的に感じている。もちろん僕達家族同士は言わずもがな。
(なるほどのう、なかなか面白そうじゃの)
じいじが天使の輪をぎゅいいいんと高速回転させながら、挑戦的に笑った。じいじなりにワクワクしているのだろう。
(私はこの世界に新たな生命が生まれるのは大歓迎だ。それはすなわち、守り育てる者が増えるということだからな)
母はあまり表情自体は変わらないが、羽がふぁっさふぁっさと揺れている。
よしよし、二人とも乗り気のようだ。
「なら、早速始めよう!」




