18話 この世界に命名は存在しない
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「っぱカレーって永遠の大流行コンテンツだわ。うますぎる」
最近の僕達三人は、カレーばかり食べていた。
全ては僕の思いつきから始まった。
【す】のスパイスの辛味を味わっていると、ふとカレーという特別な食べ物を連想したのだ。
そこからはもう早かった。
「さしすせそ魔法、中級・カレーの世界、展開!」
【さ】最高の仲間
【し】食材
【す】スパイス
【せ】正解を求めない
【そ】それぞれの家庭の味
とりあえずイメージを頼りに、こうやって発動させてみたんだよ。
そしたら、こんな雑にさしすせそを当てはめてもできちゃったもんだからさ。そう、カレーが。てか、魔力と引き換えに色んな味のカレーのルーを吐き出す置物を出現させた。
そこからはもう、カレー漬けの日々よ。みんな大ハマリしちゃって。色んな魔物食材を入れて、色んなカレーを食べた。ほんと、皮膚が黄色くなるくらい食べたね。
やっぱ家族でカレーを食べるの、最高だね。キャンプみたいで最高に楽しかった。
これからも一生こうやっておしゃべりしたり料理したり土地を開拓して住む場所を作ったりして、ほっこりほこほこ一生を過ごせれば最高――
……って、違ーう!
「名付けターイム!!!」
平穏を壊すように、唐突に僕は叫んだ。
危ない危ない。あまりに三人で過ごすのが楽しすぎて、一生のんびりと暮らしそうになったよ。僕には一応、やりたいことがあるんだから。
((名付けタイム?))
母とじいじが同時に首をかしげる。
「そう、名付けだよ! じいじもママも、名前がないでしょ? もっと家族の絆を深めるためには、やっぱり名前が必要だと思うんだよ!」
特に母とじいじ!
お主とか、あなた様とか、硬いんだよ! 二人がもっとイチャコラするには、名前呼びが必要なはずだ!
(名前、名前のう……確かにカナタにだけあって、ワシ達にはないのは、仲間はずれみたいじゃのう)
「そうでしょそうでしょ! それに、名前があればステータスが使えるんだよ! オトクなことしかないよ!」
僕の必死のプレゼンにも、母の反応が悪い。まあ、原因は分かっている。
ステータスなんてあれば多少参考になる程度だし、それに何より……僕は以前母に名前を付けようとして失敗している。
(別に名前をもらうこと自体にはなんの問題もない。ただ、カナタのセンスには少し問題があるからな。私にはあんな名前を一生背負っていく覚悟はない)
「ええー、そんなことないでしょ!」
(キュアパーフェクトとか、頬袋・スキーとか……もう少し真面目に考えてくれ。私はそんな恥ずかしい名前になるくらいなら、死を選ぶ)
「大真面目ですけど!? 母は可愛い。つまり、母の名前も可愛くあるべき! そんな母にぴったりだと思うんだけどなあ……」
以前僕が名前をもらった時、すぐに母にも名前をつけようとしたんだ。
最初は母もノリノリだった。でも、僕の提案する名前を聞くたびに、どんどん目の色が死んでいき――
それからずっと、母には名前を付けることを拒否されている。
「そんなわがままな母のために、僕は考えたよ」
(わがまま……?)
「簡単なことだよ! じいじがママに、ママがじいじに名前を考えればいいんだよ!」
そう、それで万事解決だ。
二人とも文句はなかったので、僕の提案は採用されることになった。
にゅふふふふ、ほら、悩んで悩んで!
(私は過去に、あなた様が地を断つところを見たことがあります。その時の印象から、チタンというのはどうでしょうか? 名の響きと、あなた様の持つ力強い金の瞳と、不思議とマッチしている気がしますし)
(それは良い名じゃ。では、こちらも返さねばの。そうじゃのう、お主は糸を使うから……うむ、ツムギなんてのはどうじゃ?)
(ええ、とても良い名だと思います。では、今日から私はツムギと名乗ります)
(では、これからはワシもチタンと名乗ろう)
うん、おめでたい雰囲気だけど、一言言わせてくれ。
「決めるの早くない?」
名前決めという重大イベントなのに、めっちゃ即断即決。
(兵は神速を尊ぶ。こういうのは直感が大事なのじゃ。それに、今までもお互いがお互いのこと、認識はしておったからの。どういう人物か、すでになんとなくイメージはあったんじゃ)
うーん、そういうものなのかなあ。
でも確かに、金属みたいに固いじいじと、糸を紡ぐように繊細な魔力操作ができる母には、その名前は似合っている気がする。
(むむ、そんなことより、カナタ。あなたは名前がつけられるとステータスが使えると言いましたが……明らかにそれだけではないですよね?)
(むぅぅ、確かに、名前がついてから顕著にワシらの“存在感の輪郭”が増した。これはどういうことじゃ?)
「ああ、えっとね。多分その感覚は、名付けという儀式により、世界に存在が認められたんだよ。世界とのつながりが強固になった証だね。
……でも、そんなに違う?」
((全然違う!))
「あれぇ?」
もっと早くそういうことは言えと、かなりの勢いで二人から詰められてしまった。
あう、頬袋をぐいーってしないで! 痛くないけど、なんかやだからさあ!
「へほさ、いいはへさせてよ!(でもさ、言い訳させてよ)」
僕が名前をつけられた時は、「ああ、これでもっとセカイ様とのつながりが強化されたなあ」くらいにしか思わなかったんだよ。だから、そう大したことじゃないと思ってたんだって!
「……あ、そっか。僕は生まれた時点でセカイ様とのつながりになんとなく気づいてたけど、みんなは気づいてなかったんだ。だから、そんなにびっくりしてるんだね。なんか自己解決しちゃった」
この世界に生きる生命と、セカイ様は魂でつながっている。
生きとし生けるものが喜びや悲しみなどの感情を抱くこと。それがセカイ様のエネルギーとなる。セカイ様とはそういう生き物らしく、そうしたエネルギーでこの世界は運営されるのだそうだ。
だが、今までは殺し合いの日々が多く、この惑星は負のエネルギーばかりが積み重なってしまった。明らかにバランスが悪いので、セカイ様は今現在、命を削ってどうにか世界の均衡を保っているらしい。
そういう話を、二人に説明する。
(なるほどのう、しかし、このつながりに気づいてしまった今では、なぜ逆に今まで繋がっていることに気づかなかったのかと疑問に思うのう)
(ええ、そうですね。それにしても、このつながりはとても温かい。まるで人柄がにじみ出ているようです。カナタの言うセカイ様とは、このような温かい人なのでしょうね)
「そう! セカイ様はかっこよくて、優しいんだよ!」
なんにせよ、みんなにセカイ様の一端でも布教できたのならよかったよ。
(うぅむ、しかし、セカイ様とのつながりを理解し、認識すると、見える世界がこうも違うのか)
(そうですね。まるで生まれ変わったかのようです)
「ん? 何の話?」
(ワシ達は今、セカイ様に認められたじゃろう? それにより、魂が喜んでおる。なんというかの、生きるハリができたような……そんな気分なんじゃ)
(そう、カナタにも分かりやすく言うとねえ。セカイ様が私達を見守ってくれていることに、私達はようやく気づいた。それだけで私達は嬉しくなっちゃうの。
私達も生きてていいんだ、ちゃんと生きている意味があるんだって、初めて実感できたんだから)
ええっと……
あれかな? 今まで仕事で忙しく、全く学校行事に参加してくれなかった親が、仕事を休んで参観日に来てくれて愛情を感じたみたいな話かな。
僕にとっては当たり前でも、この世界の人達にとっては、セカイ様が見守ってくれているという事実は当たり前じゃない。そもそもセカイ様なんているのかも認識していなかった。だからこそ嬉しかったんだろうね。
「うーん、みんなはそう感じるんだ。じゃあ、この世界の人達みんなに名前をつけたほうがいいかもね」
名付けて、全人類名付け計画。
セカイ様だって、名を持つ生命が増えるのは嬉しいことのはずだ。つながりがより強固となり、エネルギーの質が増す。それは確実にセカイ様のためとなるだろう。
推しのために、もっともっと頑張りますかね。
「あ、思い出した」
セカイ様の話になったおかげで、唐突にピンときた。
いっけねー。最近の幸せな日々のせいで、すっかりやることを忘れてたよ。
((どうした?))
「僕、子供を生もうと思ってたんだ。じいじ、ママ、手伝って?」
((は?))
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