12話 この世界に一発芸は存在しない
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こっそり練習していた僕の奥義によって、軽く合格をもぎ取ってやろう。
一年間の集大成として、僕の“強さ”を見せつける。
絶対大丈夫。だって……
僕のユニークスキルは、刈り上げ君だって殺せるポテンシャルがあるんだから――
「さしすせそ魔法、超初級・一発芸の世界、展開!」
僕の頭の中に五つの欄が表示されていた。
【さ】
【し】
【す】
【せ】
【そ】
小さく、小さく吸って、吐く。
あとは流れのままに、魅せるだけだ。
さあ、いつものように、順番に当てはめていこう。
ママ、僕を見て!
「【さ】桜!」
その言葉と共に、僕の周囲にいくつもの桜の花が咲き、ふわりと花びらが舞う。
桜の花びらを纏いながら、僕も舞う。
僕のユニークスキルは本来舞う必要なんてない。けれど舞う。そうすることで、魂がより輝き、神聖さが増すから。
僕には舞いの才能がある。それも、とてつもないほどの才能。これもきっと前世の影響だ。振り付けの一つ一つに、前世の痕跡が残っていて、「懐かしい」と感じるから。
表情一つ一つを意識して、いかに綺麗に見えるかを常に考えながら、ふわりと舞う。
「【し】滴!」
僕の周囲に滴が舞う。桜の花びらと滴とともに、僕もキラキラと舞う。
指先一つにまで命を宿すように、丁寧に丁寧に。
「【す】スモーク!」
白い煙が、やわらかく僕を包み込む。
姿が隠れる、その一瞬すら演出に変える。
視線も、瞬きも、すべて計算のうちだ。
「【せ】聖火!」
僕の周囲を囲むように白金色の炎が灯される。
聖火の光に照らされて、薄っすらと煙の中でも舞う僕のシルエットが照らされる。
さあ、最後だ。
「【そ】そよ風!」
桜の花びら、滴、スモーク、聖火。全てまとめてこの周囲からかき消す、優しい風を起こす。
晴れた視界の中心で、僕は微笑む。
最後は、笑顔。人は表情一つで恋に落ちる。それを、この魂は知っている。
吸い込まれるような笑みを残して——幕を下ろした。
舞いが終わると、さきほどの【さ】【し】【す】【せ】【そ】の概念が光の粒子とともに空に昇り、世界に奉納される。
これでこの世界は少しだけアップデートされた。
というのも、さっきの【さ】【し】【す】【せ】【そ】のそれぞれの魔法は、この世界に今までなかった。だが、僕が新たにそれぞれの魔法の概念を作り出したので、これ以降は誰でも僕の作った魔法を使うことができるようになったのだ。
さらに、この概念を世界に奉納したことで、これ以降生まれてくる赤子は、この五つの知識のどれかを持って生まれてくる可能性がある。
僕のユニークスキルは、そういう力だ。
「はあ、はあ、ふふふ、テストの結果はどうだった――とは聞くまでもないね」
母は泣いていた。
感涙にむせぶってやつだ。僕が見せた一発芸に感動し、言葉が出ないようだ。
母が落ち着きを取り戻すまで、優に一時間は費やした。
え? こんなのが僕の修行の集大成なのかって?
にゅふふふふ、あえて断言しよう――そうである。
これが僕の強さであり、進化だ。
この能力でどんどん世界をアップデートし、セカイ様の役に立つ気満々なんだから。
「で、ママ、合格?」
(ああ、自らの武器を十全に活かした素晴らしい魔法だった。魔力の展開速度、構成の精度、安定性、魂力、余韻、何一つ崩れがない。もちろん合格だ)
「やったー!」
天使の羽をはためかせ、母に飛びついた。
ついでに母の匂いを吸う。それはそれとして推し吸いはできる時にやるべきだからね。母もしれっと僕のほっぺをモチモチしているし、お互い様ってことで。
(この一年、カナタは本当によく頑張った)
「うん。すっごく頑張った――え? カナタ?」
(ああ、以前名前がほしいと言われてから、この一年、ずっと考えていたんだ。遥か彼方から来た魂。息子の名前は“カナタ”だ)
テレパシーにより、言葉に込められた願い、経緯、思考の流れや想いまで、全て伝わってくる。
……そっか、母はずっと考えてくれていたんだ。修行している時も、おしゃべりしている時も、僕が寝ている時も、ずっと。
「にゅふふ、カナタ、カナタかあ。嬉しいな……」
カナタと名付けられた瞬間、僕の身体がブルリと震えた。
……これが、僕の存在が世界に認められた感覚か。
実はこれ、この世界に生きる人種がまだ見つけていないルールの一つだ。
名付けとは儀式だ。名付けられた生命と世界は、つながりがより強固となる。こうなると、世界も僕もお互いにメリットがある。
単純なメリットで言うならば、名付けられた者は「ステータス」が使えるようになる。そういう話をセカイ様から聞き出していた。
でも、そんな利益のことよりも。
「ママ、大好き!」
ただ母が心を砕いて名付けてくれたということが、とにかく嬉しかった。
――ステータス――
名前:カナタ
種族:天使族
固有特性:マイペース:相手の影響を受けない
ユニークスキル:さしすせそ魔法
体力:C
攻撃力:B
防御力:B
魔力:A
器用さ:S
素早さ:A
――ステータス――
名前:未定
種族:天使族
固有特性:研究者:好奇心に従うと良いことが起こりやすい
ユニークスキル:導火線
体力:S
攻撃力:SS
防御力:S
魔力:SS
器用さ:SS
素早さ:S
◆
「これでようやくチュートリアルは終了ってところかな」
僕と母で飛びながら地下3千メートルの洞窟内から脱出していると、達成感からそんな言葉が思わず口についた。
この一年間の修行で、僕自身は見違えるほど強くなったつもりだ。
でも、母に言わせると、ここまででようやく生きる下地が整った程度らしい。母は基本的に事実しか言わないので、本当にそうなのだろうね。なかなか手厳しい世の中だよ。
……まあ、僕もこの一年で強くなったとはいえ、あまり満足はしていないんだけどね。
なんだろうねこの感覚。僕の中の半分は「これ以上ないくらいよくがんばった」と褒めているけど、もう半分は「全然足りない」と思っているような、そんな矛盾。
僕、あんまり戦う気がないのになあ……
満足している半分は前世だろうか? いや、それも何か違う。うーん、分からん。
どうも前世の僕も、今世の僕も少し複雑なようだ。これだけ自分と対話しても、まだ自分の全てがはっきりと見えてこない。
あっ、だからチュートリアルという言葉が自然に出たんだ。これからの僕がどうなるのかは、未来の僕しだいだね。
「ねえ、ママ。なんかヒント! ヒント頂戴!」
母には僕の前世のことやそれ以外のどうでもいいことまで、なんでも話している。この悩みだってすでに共有済みだ。
(ふふふっ、悩め、若者よ)
「もう、そのしたり顔やめてよ!」
この通り、母は何故か僕の悩みを僕より分かっているフシがある。でも、自分で考えろと教えてくれないんだよね。
「もっと甘やかして! お願いお願い、お願い!」
(――ッ! ふ、ふふふ、あははははは! やめろ! 羽の付け根をくすぐるな! なんかむずむずするからあ!)
無表情がデフォルトの母が珍しく悶えている。それほど僕のくすぐりが効いているのだろう。
にゅふふふ、僕のゴッドフィンガーからは逃れられまい。
「あ、今のママの顔、なんかエッチだ! にゅふふふふ――」
(怒るよ)
「はいすみません申し訳ございませんでした調子に乗りました」
母に怒られると、シュンとしちゃう。推しに怒られるのって、何より辛いからさ。




