第73話 王の証
赤い光が路地を照らしていた。
誰も動かない。
動けない。
空中に浮かぶ黒い指輪。
それだけで、この場の全員を止めてしまっていた。
ジョンは呆然と見上げる。
指輪が浮いている。
本当に。
誰かが持ち上げているわけじゃない。
魔法陣も見えない。
糸もない。
ただ。
そこにある。
ゆっくりと回転しながら。
赤い光を放っていた。
「なんだ……あれは……」
騎士の一人が呟く。
誰も答えられない。
隊長ですら言葉を失っていた。
巨大ゴブリンも動かない。
あれほど暴れていた魔物が。
まるで何かを待つように。
静かに指輪を見つめている。
赤黒いゴブリンたちも同じだった。
武器を下ろし。
膝をつき。
頭を垂れている。
まるで。
王の前にいる臣下のように。
「……冗談だろ」
おっさんが小さく呟いた。
ジョンも同じ気持ちだった。
最初はただの拾い物だった。
バンステ金策。
銀行のスリ。
偶然手に入った指輪。
少し熱くなることがあった。
不気味だとは思った。
だが。
ここまで大事になるとは思わなかった。
ドクン。
指輪が脈打つ。
光が強くなる。
そして。
空気が変わった。
まるで世界そのものが息を止めたような感覚。
ジョンの背筋に寒気が走る。
その瞬間だった。
頭の中に声が響く。
『認証』
「え?」
ジョンが顔を上げる。
今までの声とは違った。
『返セ』
ではない。
『認証』
機械みたいな声だった。
感情がない。
冷たい。
『継承者確認』
ジョンの心臓が跳ねた。
「継承者……?」
意味が分からない。
だが。
指輪は止まらない。
『資格照合』
『適合率測定』
『個体識別開始』
聞いたこともない言葉が並ぶ。
周囲には聞こえていないようだった。
騎士団も。
巨大ゴブリンも。
何も反応しない。
聞こえているのはジョンだけだ。
「おっさん!」
ジョンが叫ぶ。
「また声が聞こえる!」
「何て言ってる!」
「わ、分からない!」
半分以上意味不明だった。
継承。
資格。
適合。
何の話だ。
その時。
巨大ゴブリンが膝をついた。
ズシン。
地面が揺れる。
誰かが息を呑む。
王国騎士団が凍りつく。
今。
巨大ゴブリンが。
跪いた。
ジョンではなく。
空中の指輪へ。
「ありえん……」
隊長が呟く。
顔色が悪い。
おそらく理解している。
ジョンよりも。
この光景の意味を。
「隊長……」
若い騎士が震える声を出す。
「まさか本当に……」
隊長は返事をしない。
ただ。
苦々しい顔で指輪を見ていた。
まるで。
見たくなかったものを見てしまったように。
『適合率』
頭の中の声が続く。
『測定完了』
ジョンの呼吸が止まる。
指輪の光が強くなる。
路地全体が真っ赤に染まる。
『適合率』
一秒。
二秒。
三秒。
やけに長く感じた。
そして。
声が告げた。
『適合率 〇・〇三%』
「は?」
ジョンは思わず声を漏らした。
低い。
いや。
低すぎる。
『継承条件未達』
『継承失敗』
『代替処理を開始します』
その瞬間。
巨大ゴブリンの目が見開かれた。
初めてだった。
明らかな動揺。
そして。
空中の指輪に。
亀裂が走った。
パキッ。
嫌な音が路地に響く。
【あとがき:現在のステータス】
【スキル】
■武器系
刀剣スキル 20
盾スキル 3
戦闘技術スキル 13
■生産系
料理スキル 13
■その他
鑑定スキル 0.3
【所持金】
2,171g(銀行預け金:11,250g(銀貨11枚、銅貨2枚、半銅貨5枚))
【所持アイテム】
・???のスクロール 6枚
・奴隷のマクダフの野郎
・武器破損した剣
・???の指輪(バンステ金策で入手)
・ゴブリン(テイム)
【投資・契約】
・中立共栄大金庫投資案件(ポーシャ支店)
元本:金貨10枚
状態:運用中
想定利回り:2倍〜5倍(説明ベース)
詳細:非公開/高リスク
【装備品】
・骨護札の首かざり
・水トカゲの手袋(呪)




