第50話 想定外の相手
次の日。
マクダフは来なかった。
理由は分かっている。
昨日、あれだけ飲んでいた。
それでも――
来ないのは、少しおかしい。
呼び出しはあったはずだ。
それなのに、来ない。
「……」
考えるのをやめた。
控え室にいるのは、僕とおっさんだけ。
広い部屋が、やけに静かだ。
マクダフの声がないだけで、こんなにも違うのかと思う。
「ジョン」
おっさんが壁にもたれて言う。
「作戦、あるか?」
逆だ。
僕が聞こうと思っていた。
「ないよ……だから聞こうと思ってた」
正直に答える。
準決勝だ。
なのに、何も知らされていない。
相手も。
魔物も。
ルールも。
何もだ。
「まぁ、そうなるよな」
おっさんは苦笑する。
「三回戦で終わる予定だったんだ。全部、予定外だ」
予定外。
その言葉が、やけに引っかかる。
「……でもさ」
僕は言う。
「なんで勝てたの?」
竜だ。
あの竜に、勝った。
今でも、信じられない。
「向こうも”負ける必要”があったんだろうな」
あっさり言う。
「俺たち以上に」
それだけ。
それ以上は説明しない。
……分からない。
でも、分かろうとしなくてもいい気がした。
勝ったのは、事実だ。
それでいい。
ゴブリンのパックを見る。
落ち着いている。
昨日と変わらない。
いや――
少しだけ、違う。
余裕がある。
竜に勝った。
それが、こいつらの中で何かを変えた。
恐れが、消えた。
そんな感じだ。
僕の中にも、同じものがある。
竜に勝った。
だったら――
次も勝てる。
もっと上に行ける。
決勝。
優勝。
考えただけで、胸が熱くなる。
「準決勝戦を開始します。選手は会場へ」
呼ばれた。
早い。
心の準備が、追いつかない。
それでも体は動く。
扉を開けた瞬間。
音が、押し寄せてきた。
歓声。
罵声。
笑い。
全部が混ざって、壁みたいにぶつかる。
思わず、足が止まる。
前の会場とは、比べものにならない。
広さも。
高さも。
人の数も。
桁が違う。
通路を進く。
視線が集まる。
分かる。
全部、僕を見ている。
「ガキだ!」
「竜を倒したやつだ!」
「次はどうだ!?」
声が飛ぶ。
近い。
遠い。
全部が混ざる。
――気持ちいい。
怖いはずなのに。
嬉しい。
認められている。
そう思ってしまう。
会場に出る。
光が強い。
一瞬、目がくらむ。
そして。
見える。
観客席。
埋まっている。
全部。
隙間がない。
(ここで、前と同じことが起きたら……)
一瞬、頭をよぎる。
すぐに消える。
考える必要はない。
勝てばいい。
それだけだ。
アナウンスが流れる。
名前を呼ばれる。
「すい星のごとく現れた謎の期待の新人!!ついに準決勝に登場だああああああああ!!」
会場がざわつく。
期待。
疑い。
全部が混ざっている。
そして。
対戦相手の紹介。
「さぁ続いては対戦相手の登場だァ!!」
観客が沸く。
「本日、この大舞台に立つのは――ただの挑戦者ではない!」
間を引っ張る。
「王国騎士団より特別参戦!!」
ざわめきが一段階上がる。
「規律と忠誠をその身に刻みし鋼の戦士――」
「トップ ザ トップ。隊長ォ!!」
歓声とどよめきが混ざる。
「えっ。僕の対戦相手、魔物じゃないの……?」
アナウンスは何もなかったかのように続く。
「そしてその傍らに立つは――」
一瞬、声色が変わる。
「……名もなき少女」
ざわつき。
「だが侮るなかれ!」
「その一歩の後ろに立つだけで戦場を制す影!」
「この異質な組み合わせが意味するものはただ一つ!!」
「――“守るための戦い”だ!!」
静かに、二人が姿を現す。
女の子は何も言わない。
――小さい。
だが、視線が揺れない。
その後ろ。
金の甲冑の騎士。
音を立てない。
ただ、立っているだけで分かる。
――強い。
僕は、そちらを見る。
場違いに見える。
この場所に。
この空気に。
似合っていない。
温度が低い。
目が合う。
逸らせない。
逃げられない。
何もしていないのに、
見られているだけで分かる。
――今までと違う。
僕は、少しだけ息を吐いた。
さっきまでの高揚が、
少しだけ冷める。
それでも。
思う。
勝てる。
勝つ。
ここまで来たんだ。
でも。
どこかで。
小さく。
違う声がした。
【あとがき:現在のステータス】
【スキル】
■武器系
刀剣スキル 20
盾スキル 3
戦闘技術スキル 13
■生産系
料理スキル 13
■その他
鑑定スキル 0.3
【所持金】
1,002,171g(銀行預け金:11,250g(銀貨11枚、銅貨2枚、半銅貨5枚))
【所持アイテム】
・???のスクロール 6枚
・奴隷のマクダフの野郎
・武器破損した剣
・???の指輪(バンステ金策で入手)
・ゴブリン(テイム)
【装備品】
・骨護札の首かざり
・水トカゲの手袋(呪)




