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第49話 準決勝の前夜

とてもいい部屋だった。


広い。

静かだ。

何もかもが、きれいだ。


僕は、少し浮かれていた。


こんな場所、自分とは関係のない世界だと思っていた。

それが、今は手の届く場所にある。


――実感が、ない。


「旦那ぁ……ここ、何でも頼めばすぐ来るみたいですぜ。しかもタダ」


マクダフが笑う。


もう完全に浮かれている。


「タダか……」


思わずつぶやく。


そんなうまい話があるのだろうか。


あとで請求されるんじゃないか。


そう思ってしまう。


だが、マクダフは気にしない。


高そうな肉。

酒。


次々と頼んでいく。


「ちょ、ちょっと待ってよ……」


言いかけるが、止まらない。


「ジョン。そんな顔するな」


おっさんが言う。


「大丈夫だ。俺たちは“有名人”だからな」


いい意味でも。


悪い意味でも。


「こんな待遇、珍しくもない」


そう言って、酒をあおる。


……本当だろうか。


この中で、浮かれていないのは僕だけだ。


いや――


浮かれてはいけない気がする。


ここは、安全じゃない。


そんな気がしてならない。


料理が運ばれてくる。


早い。


頼んで、すぐだ。


まるで、最初から用意されていたみたいに。


……気のせいか。


皿に並ぶ肉は、湯気を立てている。


いい匂いだ。


でも。


なぜか、手が伸びない。


「おいジョン、食わないのか?」


マクダフはもう食べている。


うまそうに。


酒も飲んでいる。


……本当に大丈夫なのか。


「おや~おや~」


扉が、音もなく開く。


「随分とおくつろぎのようで」


オーナーだ。


昨日の様子が嘘みたいに、にこやかだ。


何もなかったみたいに。


「やぁオーナー。世話になってるよ」


トリポリオが軽く手を上げる。


マクダフはすでに出来上がっている。


「一杯どうだい?」


「いえいえ~。私は確認に来ただけですから」


オーナーは笑う。


目だけが、笑っていない。


「何かお困りのことはございませんか?」


ゆっくりと、部屋の中を見回す。


僕たちじゃない。


部屋を、見ている。


配置。

窓。

扉。


――数えているみたいに。


「……特にはないよ」


おっさんが答える。


短く。


「それはよかった」


オーナーは頷く。


「皆さまは“特別”ですから」


その言葉に、少しだけ力が入る。


特別。


いい意味か。


それとも――


「どうぞ、ごゆっくり」


そう言って、オーナーは出ていく。


静かに。


扉が閉まる。


しばらく、誰も何も言わなかった。


マクダフだけが、食べている。


何事もないみたいに。


「……ジョン」


おっさんが小さく言う。


「食うなら、少しだけにしろ」


「え?」


「全部は食うな」


理由は言わない。


でも、分かる。


――信用していない。


この部屋も。


この食事も。


この“待遇”も。


僕は、皿を見た。


さっきまで、おいしそうに見えたのに。


今は、少し違って見える。


僕たちは有名人だから、こんな待遇なのか。


それとも――


別の理由があるのか。


分からない。


そもそも、この場所には僕たちしかいない。


他の準決勝進出者の姿がない。


同じように、どこかに隔離されているのか。


それとも――


僕たちだけなのか。


考えても、答えは出ない。


「あ~、食った食った……」


マクダフが腹をさする。


「俺はもう寝ますぜ、旦那ぁ……明日は頼みますよ……」


言い終わる前に、ベッドに倒れ込む。


一番大きなベッドだ。


遠慮がない。


数秒で寝息を立て始める。


……早すぎる。


「ジョン」


おっさんが低く呼ぶ。


さっきまでの軽さが消えている。


僕は姿勢を正す。


明日の作戦の話だと思った。


「三回戦で終わるはずだった」


短く言う。


「それが、準決勝だ」


間を置く。


「……どうする」


作戦ではない。


選択だ。


「勝てるなら、勝ちたい」


口に出していた。


「ここまで来たんだ。優勝したい」


強くなったことを、証明したい。


誰かに見せたい。


僕はもう弱くない。


刀剣スキルだって20ある。


――証明できるはずだ。


おっさんは、少しだけ笑った。


「……そうか」


それだけ。


止めない。


止めないが――


賛成もしていない。


「ここまで来たんだ」


少し遅れて言う。


「勝てるなら、勝つぞ」


声は軽い。


だが、目は違う。


酔いは残っているはずなのに、


どこか醒めている。


作戦はない。


考えていないわけじゃない。


――決めていないだけだ。


ここまでは“金策”だった。


だが、もう違う。


次は――


どう転ぶか分からない。


マクダフは寝ている。


酒の匂いをさせながら。


何も考えていない顔で。


おっさんは黙っている。


僕を見ていない。


部屋を見ている。


さっきと同じだ。


僕だけが、前を見ている。


勝つことを考えている。


勝てる気がしている。


銃ゴブリンのパックがいる。


あの竜にだって勝った。


なら――


次も。


でも。


なぜか。


少しだけ。


胸の奥がざわついた。

【あとがき:現在のステータス】


【スキル】

■武器系

刀剣スキル 20

盾スキル 3

戦闘技術スキル 13


■生産系

料理スキル 13


■その他

鑑定スキル 0.3


【所持金】

1,002,171g(銀行預け金:11,250g(銀貨11枚、銅貨2枚、半銅貨5枚))


【所持アイテム】

・???のスクロール 6枚

・奴隷のマクダフの野郎

・武器破損した剣

・???の指輪(バンステ金策で入手)

・ゴブリン(テイム)


【装備品】

・骨護札の首かざり

・水トカゲの手袋(呪)

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