第44話 真似るものたち
森の中枢。
光の届かない場所に、魔物が集まっていた。
最初は、わずかだった。
獣が一匹、腐肉を求めて現れた程度のもの。
だが、それは止まらなかった。
一匹が来る。
それを見て、もう一匹が来る。
さらに増える。
理由はない。
命令もない。
それでも、集まる。
中心にいるのは――
両手に木剣を持つゴブリン。
片方は刃こぼれし、ひびが走っている。
もう片方は真新しく、使われた形跡が薄い。
不釣り合いな二本。
だが、その異様さが、目を引いた。
ゴブリンは振る。
ぎこちなく、だが何度も。
それを、周囲が見る。
言葉はない。
意味も理解していない。
だが――動きは、伝わる。
真似る。
壊れた槍を拾う魔物。
穴の空いた革鎧を体に巻き付ける魔物。
盾の代わりに木片を構える魔物。
すべて、見様見真似だった。
森に捨てられていたもの。
折れた武器。
裂けた防具。
価値を失った装備。
それらが、再び使われる。
ただし、使い手は違う。
一匹では弱い。
統制もない。
だが。
同じ動きをする個体が増える。
振る。
構える。
踏み込む。
それが揃う。
群れになる。
――ケムトレイル。
誰かがそう呼び始めた言葉は、
いつしか“現象”を指すようになっていた。
煙のように広がり、
筋のように伸びる。
まとまりのない群れが、
ひとつの流れとして動く。
彼らは探している。
理由は、曖昧だ。
だが、方向は一致している。
自分たちを変えた存在。
少年。
あの少年なら。
私に立ち上がるための武器を与えてくれた存在なら。
我らを導ける。
命じられる。
――我らの王に。
意思疎通はできない。
だが、意志は共有される。
強い個体の動きが基準になる。
次に強い個体がそれをなぞる。
さらに弱い個体が、それを遅れてなぞる。
誤差はある。
だが、時間が埋める。
揃っていく。
それが、秩序になる。
数日前。
彼らは村を一つ、壊した。
偶然ではない。
だが、計画でもない。
流れの先に、あっただけだ。
今、その村が拠点になっている。
焼けた梁。
崩れた壁。
放置された家具。
干からびた食料。
残骸は、残骸のままでは終わらない。
運ばれる。
積まれる。
並べられる。
意味は理解していない。
だが、形は再現される。
屋根の代わりに板を重ねる。
壁の隙間を布で塞ぐ。
入口に障害物を置く。
結果として。
風は防がれ、
雨はしのげる。
森よりも、効率がいい。
視界は開け、
動きは制限されない。
そして。
町に近い。
少年に、近づく。
村は変わる。
人間のために作られた場所が、
魔物のために再構築されていく。
より粗雑に。
より合理的に。
無駄が削られる。
結果として。
以前よりも、住みやすくなっていた。
その頃。
ジョンは、不安を抱えていた。
森に捨てた装備。
あれが見つかれば、怒られるかもしれない。
誰かに責められるかもしれない。
そんなことを、考えている。
だが。
それを拾ったのが魔物であることについては、
何も思っていなかった。
【あとがき:ケムトレイルたちの現在のスキルステータス】
【名称】ケムトレイル
【分類】群体存在/誤認起源
【総数】増加中(推定:50→200+)
【統率】
・中心個体:両手剣ゴブリン
・指揮系統:なし(模倣による擬似統率)
【特性】
・同調模倣(上位個体をトレース)
・数的増殖
・環境適応(廃村再構築)
・簡易文明模倣
【危険度】
E → C(進行中)
【行動指針】
・少年の捜索
・拠点拡張
・装備収集
【備考】
・言語なし
・意思共有に近い挙動あり
・“ケムトレイル”は外部命名




