第20話 サンドパンの裏事情とマクダフの一日 裏方稼業とダンジョンの噂
俺は今、料理屋で皿洗いをしている。
「おい、そっちの掃除が終わったら、こっちの皿洗いも頼むぜ、マクちゃん!」
「おい!俺のことをちゃん付けで呼ぶな。次その名前で呼んでみろ、俺の御主人様に言いつけてやるからな!」
「おいおいマクちゃん、そんなこと俺に言っていいのかい……? この店の一部を貸す代わりに”何でも”店のこと手伝ってくれるって約束だったじゃないか、その立場を忘れるなよ……」
全く困ったもんだ。
こっちが下手に出れば、この有り様だ。
俺を一体誰だと思ってるんだかこの野郎は。
だが反論できない。ここを使わせてもらっている以上、従うしかないのだ。
俺が今ここで何をしているかって言うと、掃除に皿洗い、それに御用聞きだ。
何故かって?
昨日遂に俺の御主人様があの兵士たちに露天市場での販売許可証を無効にされたためだ。
そのため露天市場で料理露店を出してサンドイッチやパンポタージュを俺様が作ってそれを販売できなくなってしまった。
だが、今日も昨日と同じように露天市場で料理露店を開いて、エリヤが客引きや声掛けをやってサンドイッチを売っている。
いや、サンドイッチではなかったな。「サンドパン」だったか。
俺様に言わせりゃあどっちだってあんなもん一緒だ。
なんせ中身が同じだからな。
見た目も少しは違っているようだが、こんなサンドイッチとサンドパンが同じじゃないとしたらそれは嘘になる。
俺がアナポロス教団の敬虔な信徒だったら、迷わず教会に駆け込んで洗いざらい話していただろう。
あぶない危ない。
朝、また同じように露天市場に来たら、いつも料理露店を開いている場所とは少し隅っこの方だったが、そこには見たことのある料理店が開店準備を待っているようだった。
トリポリオの旦那が、さもありなんとして露天市場での販売許可証を手に持っていたからだ。
あれには驚いたね。
初めはトリポリオの旦那が、俺の御主人様の兵士に取り上げられた許可証を取り返してくれたのかと思ったが、それは違っていた。
ただ、トリポリオの旦那が自分で露天市場で店を開いて販売するための許可証だったのだ。
確かにおかしくはないだろう。
許可証を取り上げられたのは「俺の御主人様」であって、「トリポリオの旦那」ではないからな。
頭の柔らかい旦那だ。トリポリオの旦那は。
俺は感心したね。
でも、残念なことに俺も、俺の御主人様同様に料理露店で料理を作ることができないようだ。
まぁ、この問題を起こした原因は俺みたいなものだし、仕方がないといえば仕方がないのかもしれない。
では、どうやってサンドパンなどという料理を誰が美味しく作るのかと思っていたが、やっぱり作るのは俺様のようだ。
料理露店で料理が作れないのにどこで作れって言うのかとトリポリオの旦那に聞いたら、「良い場所がある」と言って連れてこられたのがこの店だ。
俺も一度は来たことのある料理屋だった。
なんでも、この料理屋は俺の御主人様が前に大変お世話になった場所でもあると教えられた。
どんなお世話になった場所かは俺は知らないが、今日はここで俺もお世話になり、料理を作って料理露店にサンドパンをおっさんが持って行きそれを売るらしいのだ。
まぁ、このやり方しかないだろう。
御主人様か俺様以外、誰も料理スキルが高くなく作ることができないのだ、サンドパンを。
そして、この料理屋の一部を貸してもらう代わりの条件が、「俺がサンドパンを作った後の暇な時間を、この料理屋の店主の言いなりに掃除をしたり皿洗いをしたりするのが決まり事」だ。
もう、俺がこの料理屋に連れて来られたら、店主にはすでに話が通してあるらしく、すぐに厨房の中に入れてもらえ、その一部を借りて料理をすることができ、サンドパンを作ることができた。
サンドパンを作り終え、俺は一つかじった。
やはり俺が作るサンドパンはとても美味しい。
サンドイッチと全く作り方は同じなのだから当たり前のことかもしれないが、今日も改めて一つ食べて思う。
サンドイッチに飽きが来ていたところだが、サンドパンと名前が変わっただけで、少しはその飽きの気分が和らぐってもんだ。
ふと思って俺はステータス画面を見てみることにした。
これだけ料理を作ったんだ、少しくらい料理スキルが上がっていてもおかしくはないだろうと思ったからだ。
ステータス画面のスキル値を見たら、”料理スキルが 2 も上がっていた”。
あれだけサンドイッチとパンポタージュを作ってたんだ、上がっていなけりゃおかしいくらいだ。
戦場の最前線で活躍していた俺様が、今では戦闘系の武器スキルより、生産系の料理スキルの方がこのままでは高くなってしまうくらいだ。
これでは俺は生産職の人みたいではないか。
全く嫌になるぜ。
後、ステータス画面を見たら少しは減っているかと思った俺の借金も、全く減ってもいない。
まぁ、金貨 1 枚たりとも返していないのだから当たり前かもしれないが、ここは増えていないことに喜ぶできだろうか。
負債を取り立てに誰かが俺のもとにやって来るのではないかと思ったが、今のところ奴隷落ちした俺のもとにはだれも来ていない。
もしかすると御主人様の方には誰か来ているかもしれないが、俺のステータス画面に変わりがないため、誰かが来ていたとしても負債の返済はできていないのだろう。
御主人様も俺も金を持っていないのだから取りようもないがな。
「マクちゃん!そこの皿洗い終わったら、これを門を警護してくれている兵士さんの詰め所まで届けてくれ。昼飯時前にはちゃんと持っていかないと、あいつらこの町を警護している俺達には昼飯も食べずに警護させるのかと怒り出すからな。うるさい奴らだ……」
「おうおう、任せとけ!ちゃんと持って行ってやるからよ。そこで店主は休んでてくれよ」
またあいつらか。
昨日会って嫌な思いをしたのに、今日もまた会わなくてはならないとは、運がついていない。
だが、このツキが次の大勝負なんかでは良い方に運が跳ね上がったりするはずだ。
詰め所に向かう途中で、俺は今日の兵士達の昼飯が何か確認することにした。
もしかすると、俺より良い物を食っている可能性がある。
途中で中身を確認する。
……普通の飯だ。
試しに一つ食べてみる。
俺のサンドパンの方が断然うまい。
一つ減ったが、まあいいだろう。
「よう!料理屋『ガーター亭』の店主から昼飯を預かってきました。いつもご苦労様です。これからも門の警護頑張ってください!」
「お、お前は……よく昨日の今日でここにこれたもんだ。大した奴だ……だが、昼飯を持ってきてくれた事に免じて許してやろう。さぁ用が済んだら帰れ!」
まったく酷い連中だ。
俺様がわざわざこんな詰め所までタダで持って来てやったのになんて態度だ。
こんなことならもう 1 個食べても良かったかもしれない。
もう用がないためすぐに俺はその場から離れた。
料理屋に戻って店主にちゃんと、しっかりと詰め所に昼飯を持って行った事を伝えた。
料理も特段何の変化もない普通の料理だったと伝えといた。
もう少し料理に使う食材をこだわったり、味がよくなるように料理するべきだとも伝えておいた。
コックさんの俺がタダで教えてやったのだ、感謝してもらいたいくらいだ。
昼飯前にトリポリオの旦那がまたやってきて、言われた通りにサンドパンを 20 個作った。
朝と同じ量のサンドパンを作ったが、サンドイッチの時同様に売れているのだろうか。朝と同じ 20 個作ってくれと言うのだから売れているのかもしれないが、俺にはわからない。
値段に関してもいくらで売っているのかさえ俺は知らない。
サンドイッチとして売っていた物を名前を変えて売っているのだ。
昨日と同じように売っていたらまた兵士に目を付けられるだろうが、そんな場合どうするつもりなんだろうかトリポリオの旦那は。
俺や御主人様よりは出来る人だから、そんな心配もいらないだろう。
俺や御主人様よりは出来る人だから、そんな心配もいらないだろう。
ただ、俺は言われたことを御主人様の代わりにやるだけだ。料理屋の一部を借りて料理を作っているため、あまり料理露店で料理を作っていた時とは違い暇がない。
サンドパンを作ったらすぐにこの料理屋の手伝いだ。
この料理屋には昼でも客が多い。
大体が冒険者達だろう。
ギルドから近くにある町の料理屋と言うこともあって、冒険者が情報収集を行う場所ともなっていようだ。
俺は店内の掃除をしながら聞き耳を立てて話を聞いた。
盗み聞きではない。
俺は掃除をしていてたまたま耳にしただけだ。
「おい聞いたか、31 層が発見されたらしいぞ!」
「ああ聞いたぜ…… あのダンジョンは 30 層までだとずっと思われていたが、違ったようだな。俺もダンジョンに行けりゃあ金が稼げるのによ。30 層なんて夢のまた夢だわな…」
「お前が 30 層まで潜れるなら俺は 50 層だって余裕だぜ! ワハハハハ」
どうやらダンジョンのことについて話しているらしい。
31 層がどうとか言っているため、古い石迷ダンジョン のことだろう。
ダンジョンとは、突然できたとされる昔の遺物だ。
遥か昔に突如として、出現して未だに謎が多い。
長年、ダンジョンがある場所の各々の国が威信をかけて研究しているが、まだすべては解明されていない。
なんせ 30 層までだと思われていたダンジョンに新たな層が今更発見されたのだ。
俺もダンジョンに行って一獲千金を狙いたいものだ。
だが、御主人様のあのスキルレベルではまだまだ先の話だろう。
ダンジョンとはここら辺に出てくる魔物とは、出てくる魔物の種類が違うらしい。
魔物とは呼ばず、”モンスター”と呼ぶようだ。
どちらも倒すものであり名前なんてどっちでもいいだろうと俺は思うが。
どうやら、魔物とダンジョンで出現するモンスターは同じであっても、ドロップするアイテムが違うらしい。
ダンジョンはまだ不明な点が多いため、そこに夢を見るのだ。
多くの冒険者が一獲千金を狙って人生をかけて挑戦している。
夢は見るだけ、追うだけにしておいた方が良いと言う事も俺はよく知っている。
ダンジョン破産なんてした日にゃあ、即奴隷落ちだ。
目も当てられない。
俺の言えたきりじゃないが。
夕方時もまたトリポリオの旦那が来て作る個数を伝えられた。
俺は言われた通りに 30 個作った。
少し多めだ。
夕方時が一番客が多いのだから、多めに作るのだろう。
一番嫌だったのがこの夕方時の料理屋の手伝いだ。
朝や昼とは違い、一番忙しい。
休める暇もないくらいだ。
これを料理屋の店主と奥さんとそのガキの三人で回してうまくやっているんだから、大したもんだ。
酔っ払いの相手は奥さんやそのガキにやらすことはできないため、俺が対象している。
冒険者とは荒くれものも多く、そこに酒が入るとまた一層と客層が悪くない。
料理屋で酒を出さないという選択肢はないのだから、この客層の悪さも仕方がないことなのかもしれないが。
この酒癖の悪い客の対応を俺一人でやっていると、料理屋の店主が俺によくやってると褒められた。
ほかに対処できる奴がいないのだからしょうがないだろうと思うが、褒められて悪い気分ではない。
ずっとここに居るといるだけ手伝わされるので、適当な頃合いを見つけて俺はトリポリオの旦那の料理露店に戻ることにした。
褒められても結局はただ働きなのだ。
俺はこれ以上したくはないのだ、タダ働きは。
この田舎の町の料理屋にはまともな冒険者は少なく、俺がどんなに愛想よく接客をしても俺にはチップすらない。
酷い場所だ。こんな町からはさっさと出ていきたいところだ。
早くスキル上げを終えてほしいぜ、頼むぜ、御主人様。
【あとがき:マクダフ様の現在のスキルステータス】
【スキル】
■武器系
刀剣スキル 16
槍スキル 36
盾スキル 21
戦闘技術スキル 20
■生産系
料理スキル 34(前回 32 → 今回は 2上昇)
薬調合スキル 6
■その他
鑑定スキル 1
ギャンブル
■ 負債
負債:1,000,000g
王法違反及び軍規違反支払い金額 ※1
※1 支払いは金貨または白金貨のみとする




