第114話 ツルハシはまだ遠い
朝。
「旦那ぁ!」
マクダフが宿の階段を駆け下りてきた。
「紙が届きましたぜ!」
「ありがとう!」
僕は紙の束を受け取る。
ずしり。
「重い。」
「紙って重いんだね。」
「紙を買い続けてるからですぜ。」
「でも。」
僕は笑った。
「券が足りなくなったら困るから。」
マクダフは肩をすくめる。
「旦那は真面目ですなぁ。」
朝食を食べ終えると、おっさんが声をかけた。
「ジョン。」
「そろそろ道具屋へ行くぞ。」
「え?」
「ツルハシだ。」
「あ!」
忘れてた。
採掘にはツルハシが必要だった。
「見に行こう!」
町の道具屋。
壁一面に工具が並んでいる。
斧。
鍬。
鋸。
そして。
奥の棚に大きなツルハシ。
「これ!」
僕は目を輝かせた。
「立派だ!」
店主が笑う。
「いい目をしてるな。」
「鉱山へ行くのか?」
「はい!」
「みんなで掘るんです!」
店主は一本のツルハシを持ち上げた。
ずしり。
「これは鉱山ギルド推奨品だ。」
「丈夫だぞ。」
「いくらですか?」
「一本――金貨一枚。」
「……。」
僕は固まった。
「え?」
聞き間違えたと思った。
「金貨……一枚?」
「そうだ。」
「安物なら銀貨で買える。」
「だが。」
店主は柄を軽く叩く。
カンッ。
澄んだ音が店内に響く。
「鉱山じゃすぐ折れる。」
「命を預ける道具だ。」
「いい物は高い。」
僕は財布を見る。
銅貨が数枚。
当然。
届かない。
「まだ無理だ……。」
店主は笑った。
「焦るな。」
「道具は逃げん。」
僕は名残惜しくツルハシを見つめた。
「いつか買います!」
「待ってるぞ。」
帰り道。
「高かったね。」
「だから言ったろ。」
おっさんが腕を組む。
「道具は金が掛かる。」
「でも。」
僕は少し笑った。
「目標ができた。」
「まずは金貨一枚。」
「その次に採掘!」
「順番だね!」
おっさんは小さく笑う。
「その考え方は嫌いじゃない。」
その頃。
市場では。
「百G券でお願いします。」
「はい。」
「釣りは五百G券。」
「ありがとう。」
誰もジョンを見ていない。
誰も採掘の話をしていない。
みんな。
紙だけを見ていた。
商人の一人がつぶやく。
「最近、銀貨が重く感じるな。」
「紙の方が楽だ。」
隣の商人もうなずく。
「遠出するなら、もう券だけでいい。」
その会話を。
エドガーは黙って聞いていた。
手帳を閉じる。
「……始まってしまった。」
短く、それだけ書き留める。
夕方。
僕は宿で帳簿を付けていた。
今日も一枚。
今日も二枚。
「よし。」
「間違いなし。」
キュ太郎が帳簿の上へ乗る。
「きゅ。」
「あっ。」
肉球でインクが付いた。
小さな足跡が帳簿に残る。
「こらこら。」
僕は笑いながら布で拭く。
おっさんも吹き出した。
「その帳簿。」
「将来、とんでもない価値になるかもしれんぞ。」
「え?」
「いや。」
「忘れてくれ。」
僕は首をかしげた。
「変なおっさん。」
その帳簿を。
王都では誰よりも欲しがっていることを。
ジョンはまだ知らない。
【あとがき:現在のステータス】
【スキル】
■武器系
刀剣スキル 20
盾スキル 3
戦闘技術スキル 13
■生産系
料理スキル 13
■その他
鑑定スキル 0.3
【所持金】
171G(銀行預け金:250G(銅貨2枚、半銅貨5枚))
ジョン
「金貨一枚って遠いなぁ……。」
おっさん
「だからみんな金策するんだ。」
【所持アイテム】
???のスクロール 6枚
奴隷のマクダフの野郎
(今日はツルハシを持ち上げようとして腰を痛めかけた)
武器破損した剣
???の指輪(バンステ金策で入手)
ゴブリン(テイム)
ケムトレイル群(保護対象)
キュ太郎
(帳簿に肉球スタンプを押してしまった)
【投資・契約】
中立共栄大金庫投資案件(ポーシャ支店)
元本:金貨10枚
状態:運用中
ジョン
「投資が終わったらツルハシ買えるかな?」
銀行
「契約満了までお待ちください。」
おっさん
「その返事も聞き飽きたな。」
【M資金速報】
発行券種
100G券 ★★★★★
500G券 ★★★★
1000G券 ★★★★
5000G券 ★★★
広がった町
✅ ポーシャ
✅ 隣町
✅ 宿場町
〇 王都(監視継続)
現在のみんなの目的
ジョン「ツルハシ!」
町人「買い物!」
商人「決済!」
銀行「信用維持!」
裏社会「紹介料!」
王都「発行台帳に注目!」
※ジョン個人の所持金に変動はありません。
ジョンの一言
ジョン
「いつかあのツルハシで鉱山を掘るぞ!」
おっさん
「道具は逃げん。だが、信用は放っておくと一人歩きする。」
マクダフ
「俺はまず腰に優しいツルハシが欲しいですぜ。」




