第112話 普通の少年
朝。
「よし!」
僕は宿の机へ紙を並べる。
百G券。
五百G券。
千G券。
新しい紙は少しだけ厚い。
「この紙、丈夫だね。」
宿のおかみさんが笑った。
「最近はみんな大事な紙を書くからね。」
「紙屋さんも大忙しだよ。」
「へぇ。」
採掘を始める前なのに。
紙屋さんまで忙しくなるなんて。
鉱山ってすごいな。
宿の隅。
黒い外套の男が静かに座っていた。
契約監査官エドガー。
目の前には湯気の立つ紅茶。
そして小さな手帳。
彼は何も話さない。
ただ。
ジョンを見ていた。
「旦那ぁ!」
マクダフが飛び込んでくる。
「紙を百枚買ってきました!」
「ありがとう!」
「高かったですぜ……。」
「ごめんね。」
「でも必要だから。」
ジョンは財布を開く。
中には銅貨が数枚。
「足りる?」
「足ります。」
紙代を払い終える。
財布は、さらに軽くなった。
エドガーはその様子を書き留める。
発行者。
利益を私的に使う様子なし。
昼。
商人ギルド。
「ジョン君。」
「今日もお願いします。」
「はい!」
僕は笑顔で受付へ座る。
「番号百三十九。」
「発行。」
「百四十。」
「発行。」
そのたびに。
帳簿へ同じ番号を書く。
「終わりました!」
「ありがとうございます。」
受付係はすぐに印を押す。
エドガーはまた書く。
発行記録。
毎回台帳へ記載。
不正なし。
「……。」
おかしい。
調査に来たはずなのに。
問題が見つからない。
その頃。
広場。
「お兄ちゃん!」
子どもが走ってくる。
「この券、破れちゃった!」
「あ。」
本当だ。
端が少し裂けている。
「交換する?」
「いいの?」
「もちろん!」
僕は台帳を見る。
番号を確認。
破れた券へ赤い印を押す。
回収済み
新しい券を書く。
「はい。」
「ありがとう!」
子どもは嬉しそうに走っていった。
エドガーは思わず立ち上がる。
「回収……。」
支店長が頷く。
「二重発行を防いでいます。」
「教えたのですか。」
「いいえ。」
「本人が始めました。」
「……。」
エドガーは額を押さえた。
「偶然……でしょうか。」
支店長は苦笑する。
「本人は『分からなくなるから』と言っています。」
「理由は単純です。」
「ですが。」
「結果として、一番正しい方法でした。」
夕方。
宿へ戻る。
「今日は疲れた。」
僕は大きく伸びをした。
「券を書くのも結構大変だね。」
おっさんが笑う。
「ようやく気付いたか。」
「でも。」
「採掘が始まったらもっと忙しいよ。」
「頑張る!」
その言葉に。
エドガーは初めて小さく笑った。
「……普通だ。」
「え?」
支店長が聞き返す。
「この少年は。」
「本当に普通の少年です。」
「金儲けを企んでいるようには見えません。」
「ただ。」
エドガーはジョンを見る。
「普通の少年が。」
「普通に始めたことだからこそ。」
「誰も止められなかった。」
その一言に。
支店長は静かに目を閉じた。
夜。
王都へ送る報告書。
エドガーは最後の一文を書き加える。
発行者ジョン。
悪意なし。
私欲なし。
契約知識も乏しい。
しかし、周囲の信用は極めて高い。
ペンが止まる。
少し考えて。
もう一行だけ書き足した。
最も警戒すべきは、本人ではなく周囲の利用者である。
封筒を閉じる。
蝋を押す。
翌朝。
その報告書は王都へ向かう。
ジョンは何も知らない。
「明日も券を書こう!」
その笑顔の裏で。
王都の空気は、少しずつ変わり始めていた。
【あとがき:現在のステータス】
【スキル】
■武器系
刀剣スキル 20
盾スキル 3
戦闘技術スキル 13
■生産系
料理スキル 13
■その他
鑑定スキル 0.3
【所持金】
171G(銀行預け金:250G(銅貨2枚、半銅貨5枚))
ジョン
「紙代って意外と高いなぁ。」
おっさん
「だから紙は大事に使え。」
【所持アイテム】
???のスクロール 6枚
奴隷のマクダフの野郎
(紙を運ぶ係として活躍中)
武器破損した剣
???の指輪(バンステ金策で入手)
ゴブリン(テイム)
ケムトレイル群(保護対象)
キュ太郎
(破れた券を丸めて遊ぼうとしてジョンに止められた)
【投資・契約】
中立共栄大金庫投資案件(ポーシャ支店)
元本:金貨10枚
状態:運用中
ジョン
「投資もちゃんと記録してるのかな?」
銀行
「もちろんです。」
おっさん
「見せない帳簿ほど分厚い。」
【M資金速報】
発行券種
100G券 ★★★★★
500G券 ★★★
1000G券 ★★★★
5000G券 ★★★
広がった町
✅ ポーシャ
✅ 隣町
✅ 街道の宿場町
⬜ 王都(報告書到着待ち)
現在のみんなの目的
ジョン「鉱山!」
町人「便利!」
商人「決済!」
銀行「信用!」
両替屋「手数料!」
裏社会「紹介料!」
王都「発行者の人物調査!」
※ジョン個人の所持金に変動はありません。
ジョンの一言
ジョン
「破れた券を交換したら、みんな喜んでくれた!」
おっさん
「信用ってのは、そうやって積み重ねるもんだ。」
マクダフ
「俺の財布も交換してくれませんかねぇ……。」




