第111話 数える者
朝。
「旦那ぁ!」
マクダフが帳簿を抱えて飛び込んできた。
「大変ですぜ!」
「どうしたの?」
「数が合わねぇ!」
「え?」
僕は帳簿を受け取る。
そこには昨日まで発行した券の番号が並んでいた。
百二十一。
百二十二。
百二十三。
きちんと続いている。
「合ってるよ?」
「違うんです!」
マクダフは紙を広げる。
「町にある券の数と合わねぇ!」
「町?」
「券って配ったら終わりじゃないの?」
「俺もそう思ってました!」
おっさんが横から帳簿を見る。
「そりゃ合わん。」
「なんで?」
「動いてるからだ。」
「動く?」
「紙は歩かないよ?」
「人が運ぶ。」
「あ。」
なるほど。
昼。
パン屋。
「銀貨ある?」
「今日はM資金券で。」
「はいよ。」
パンが一つ。
紙が一枚。
それで終わり。
隣では八百屋。
「釣りは五百G券で。」
「ありがとう。」
僕は目を丸くした。
「券がお釣りになるの?」
「便利だからね。」
店のおばさんは笑った。
「銀貨より軽いし。」
「へぇ。」
おっさんが一言。
「もう町の中じゃ金と同じだ。」
「良かった!」
「みんな使ってくれてる!」
僕は嬉しくなった。
その頃。
ポーシャ支店。
契約監査官エドガーは、大きな帳簿を開いていた。
「現在の発行番号。」
支店長が答える。
「百三十八番まで確認。」
「未回収は?」
「ほぼ全て流通中。」
「紛失。」
「ゼロ。」
エドガーは眉を上げた。
「偽造。」
「確認されておりません。」
「……。」
静かな部屋に、紙をめくる音だけが響く。
「妙ですね。」
「何がです?」
「普通は偽物が出ます。」
支店長は苦笑した。
「出しても売れません。」
「なぜ。」
「皆、本物かどうか確認してから受け取ります。」
「どこで。」
「商人ギルドです。」
「銀行です。」
「両替所です。」
「全員が番号を見る。」
エドガーはゆっくり頷いた。
「つまり。」
「信用を守っているのは。」
支店長が答えた。
「町全体です。」
夕方。
商人ギルド。
「ジョン君。」
ギルド長が一冊の帳簿を持ってきた。
「これを見てください。」
「?」
帳簿には数字が並んでいた。
百G券。
五百G券。
千G券。
五千G券。
「いっぱい。」
「これ、全部ジョン君が発行した券です。」
「そんなに?」
思わず笑ってしまった。
「僕、こんなに書いたんだ。」
「ええ。」
「頑張ったね。」
「はい!」
少し誇らしい。
でも次の瞬間。
ギルド長が真面目な顔になる。
「実はお願いがあります。」
「なんです?」
「これからは。」
帳簿を指差す。
「毎日の発行枚数も記録してください。」
「どうして?」
「町のみんなが安心できます。」
「安心?」
「はい。」
僕はすぐに頷いた。
「分かりました!」
安心してもらえるなら。
それが一番だ。
同じ頃。
王都。
頭取の机に、新しい報告書が置かれる。
秘書が静かに読み上げる。
「現在確認できる発行総額。」
役員たちが身を乗り出す。
「……。」
「金貨換算。」
「約三十五枚。」
部屋が静まり返る。
「もう。」
役員の一人がつぶやく。
「新人冒険者一人の話ではありません。」
頭取はゆっくり立ち上がる。
窓の向こうには王城。
「次は。」
「王家へ正式報告する。」
誰も反対しなかった。
宿へ帰る道。
僕は帳簿を抱えて歩いていた。
「毎日書けば安心なんだね。」
「そうだ。」
おっさんが頷く。
「約束は書く。」
「信用は残す。」
「それが契約だ。」
「なるほど。」
難しいことは分からない。
でも。
みんなが安心するなら。
ちゃんと書こう。
そう思った。
懐の中で。
キュ太郎が小さく鳴く。
「きゅ。」
その声に合わせるように。
風が一枚のM資金券を空へ舞い上げた。
その紙は。
もう「採掘資金」だけではなく。
町そのものを支える紙になり始めていた。
【あとがき:現在のステータス】
【スキル】
■武器系
刀剣スキル 20
盾スキル 3
戦闘技術スキル 13
■生産系
料理スキル 13
■その他
鑑定スキル 0.3
【所持金】
171G(銀行預け金:250G(銅貨2枚、半銅貨5枚))
ジョン
「帳簿は増えたけど、お財布は増えないね。」
おっさん
「帳簿が増える方が商売人らしい。」
【所持アイテム】
???のスクロール 6枚
奴隷のマクダフの野郎
(今日は券の数を数えて頭がこんがらがった)
武器破損した剣
???の指輪(バンステ金策で入手)
ゴブリン(テイム)
ケムトレイル群
立場:保護対象
キュ太郎
(帳簿の上で丸くなって昼寝していた)
【投資・契約】
中立共栄大金庫投資案件(ポーシャ支店)
元本:金貨10枚
状態:運用中
ジョン
「投資の帳簿もあるのかな?」
銀行
「もちろんございます。」
おっさん
「見せてはくれんがな。」
【M資金速報】
発行券種
100G券 ★★★★★
500G券 ★★★
1000G券 ★★★★
5000G券 ★★★
広がった町
✅ ポーシャ
✅ 隣町
✅ 街道の宿場町(NEW)
⬜ 王都(調査中)
現在のみんなの目的
ジョン
「鉱山!」
町人
「応援!」
商人
「買い物!」
銀行
「信用!」
両替屋
「手数料!」
旅商人
「運搬!」
裏社会
「紹介料!」
王都
「発行総額の調査!」
ジョン
「帳簿を付ければ安心だね!」
おっさん
「数字が大きくなるほど、安心できなくなる人もいる。」
※ジョン個人の所持金に変動はありません。
ジョンの一言
ジョン
「数えるのは大変だけど、みんなが安心してくれるなら頑張るよ!」
おっさん
「商売は金を数える前に、信用を数えるもんだ。」
マクダフ
「俺はもう数えるのは勘弁ですぜぇ!」




