第109話 王都への報告書
朝。
僕は広場で紙を切っていた。
「百G券。」
「五百G券。」
「千G券。」
「五千G券。」
最近は券を書くより。
紙を切る方が時間が掛かる。
「旦那ぁ。」
マクダフが紙を抱えて走ってくる。
「もう無くなりそうですぜ。」
「また買わないと。」
「紙も高くなりました。」
「え?」
商人ギルドの職員が苦笑した。
「最近、町中が紙を使いますから。」
「そうなんだ。」
僕は素直に驚いた。
「採掘って紙も必要なんだね。」
おっさんは小さく首を振る。
「違う。」
「紙が採掘してる。」
「?」
また意味が分からない。
同じ頃。
王都。
中立共栄大金庫 本店。
重厚な石造りの建物。
最上階。
頭取室。
「ポーシャ支店から報告です。」
秘書が一通の封書を差し出した。
頭取は無言で封を切る。
数枚の報告書。
最後の一枚だけ。
赤い印が押されていた。
緊急報告
頭取の眉が少し動く。
「読め。」
秘書が読み上げる。
「ポーシャ町にて『M資金券』なる私製証券が急速に流通。」
「商人間の決済に使用。」
「銀行預り証が再流通。」
「隣町でも使用を確認。」
「……。」
部屋が静まり返る。
役員の一人が笑う。
「地方の話でしょう。」
「放っておけば消えます。」
別の役員もうなずく。
「紙切れですから。」
頭取だけは黙っていた。
やがて静かに尋ねる。
「発行者は。」
「新人冒険者ジョン。」
「資本金は。」
「ほぼありません。」
「銀行預金。」
「二百五十G。」
役員たちが笑う。
「そんな子供ですか。」
「問題ありません。」
頭取は報告書を閉じた。
「……だから問題だ。」
全員が笑うのをやめた。
「金を持つ者は責任を知っている。」
「だが。」
「責任を知らぬ者が信用を持つ。」
「それが一番危ない。」
部屋に重い空気が流れた。
その頃。
ポーシャ。
「できた!」
僕は新しい五千G券を書き終えた。
「今日は字がきれい。」
少し嬉しい。
受付係が笑う。
「ありがとうございます。」
「これで助かります。」
「役に立てて良かった。」
キュ太郎が懐から顔を出した。
「きゅ。」
「お前も嬉しい?」
「きゅ!」
かわいい。
頭をなでる。
遠くでおっさんが呟いた。
「世界で一番危険な毛玉を撫でてるとは思えんな。」
「何か言った?」
「いや。」
王都。
会議室。
頭取が地図を広げる。
赤い印。
一つ。
ポーシャ。
もう一つ。
隣町。
「流通経路です。」
秘書が説明する。
「旅商人。」
「商人ギルド。」
「両替所。」
「銀行。」
「すべて繋がっています。」
役員が尋ねる。
「発行を止めれば。」
頭取は首を横に振る。
「止まらん。」
「なぜ。」
「すでに町が勝手に回し始めた。」
部屋が静まり返る。
頭取はゆっくり立ち上がる。
「王都へ報告する。」
役員たちが息をのむ。
「国家案件ですか。」
「違う。」
頭取は窓から王城を見た。
「……もう国家案件になっている。」
夕方。
僕は今日集まった出資を帳簿へ書いていた。
「順調!」
「今日も増えた!」
あと少し。
あと少しで。
ツルハシが買える。
その時だった。
商人ギルドの入口がざわつく。
「王都から早馬だ!」
「王都?」
僕は顔を上げた。
馬は止まる。
使者が飛び降りる。
封筒を取り出した。
宛名には、大きく書かれている。
中立共栄大金庫
ポーシャ支店長殿
僕は安心して笑った。
「銀行さん宛てか。」
「僕には関係ないね。」
おっさんはその封筒から目を離さない。
「……いや。」
「もう関係ある。」
風が吹く。
M資金券が一枚。
空へ舞い上がった。
その紙を見つめる者が、町に一人だけいた。
黒い毛玉――キュ太郎だった。
「きゅ……。」
いつもより少しだけ低い声だった。
【あとがき:現在のステータス】
【スキル】
■武器系
刀剣スキル 20
盾スキル 3
戦闘技術スキル 13
■生産系
料理スキル 13
■その他
鑑定スキル 0.3
【所持金】
171G(銀行預け金:250G(銅貨2枚、半銅貨5枚))
ジョン
「紙代が高くなってきたなぁ。」
おっさん
「紙が儲かる時代になったな。」
【所持アイテム】
???のスクロール 6枚
奴隷のマクダフの野郎(紹介業は休業中)
武器破損した剣
???の指輪(バンステ金策で入手)
ゴブリン(テイム)
ケムトレイル群(保護対象)
キュ太郎
(王都からの使者をじっと見つめていた。)
【投資・契約】
・中立共栄大金庫投資案件(ポーシャ支店)
元本:金貨10枚
状態:運用中
ジョン
「そういえば、投資ってどうなってるんだろう?」
銀行
「順調に運用中です。」
おっさん
「その『順調』が一番怖い。」
【M資金の現在】
利用地域
ポーシャ町
隣町
新しい動き
王都本店へ正式報告
国家レベルで情報共有開始
現在の用途
ジョン「採掘資金!」
商人「決済!」
銀行「保管!」
両替屋「両替!」
旅商人「運搬!」
裏社会「紹介!」
王都「調査対象」
ジョン「仲間が増えて嬉しい!」
おっさん「心配する人間も増えてきたぞ。」
※ジョン個人の所持金に変動はありません。
ジョンの一言
「あと少しでツルハシが買える! 採掘が楽しみだ!」




