表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まあいいかで世界が終わる  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/36

第9話「そこには座らない」

 昼下がりだった。


 日差しは少しだけ傾いている。


 井戸の周りには人がいる。

 水を汲む者。

 話をする者。

 通り過ぎる者。


 いつもと同じ数のはずだった。


 ユルは歩いてくる。


 足取りは変わらない。


 迷いもない。


 井戸の手前で、ほんの少しだけ速度が落ちる。


 そのまま、同じ位置に向かう。


 井戸の縁から少し離れた場所。


 石がいくつか残っているあたり。


 座る。


 背中を預ける。


 何も言わない。


 それだけだった。


 誰かが近づく。


 水を汲むために、井戸へ向かう。


 その途中で、少しだけ進路を変える。


 ほんの一歩分。


 意識しているようで、していない。


 別の誰かも、似たように歩く。


 近くを通る。


 けれど、そこには入らない。


 空間が、空いている。


 広くはない。


 けれど、はっきりと“そこ”だけが残っている。


「……なんか、そこ空いてるよな」


 村人が、ぼそりと言った。


 隣にいた者が、そちらを見る。


 ユルが座っている。


 その周りに、誰もいない。


「まあ、なんとなくね…」


 理由を探すほどでもない。


 納得したわけでもない。


 ただ、それで話は終わる。


 井戸の周りは普通に使われている。


 水は汲まれるし、人も通る。


 けれど、その一点だけ。


 自然に避けられている。


 ティアナが立ち止まった。


 視線は、その空間に向く。


 広さは変わらないはずなのに、

 妙に目につく。


「……昨日も、こんなだったっけ」


 思い出そうとする。


 はっきりしない。


 けれど、違う気がする。


 誰かに聞くほどでもない。


 けれど、見過ごせるほどでもない。


 ユルは動かない。


 周囲のことを気にしている様子もない。


 そこが空いていることにも、気づいていない。


 風が通る。


 空いている分だけ、少しだけ強く感じる。


 子供が近づく。


 石のある方へ行こうとして、足を止める。


 少し考える。


 そのまま、別の場所へ回る。


 誰も止めていない。


 誰も指示していない。


 ただ、そうなっている。


 井戸の周りの動きは変わらない。


 人は増えも減りもしない。


 それでも、空間だけが固定されている。


 ユルは、目を閉じた。


 何も変わらない。


 何も知らない。


 その場所には、誰も座らなかった。


 最後まで、誰も。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ