第8話「積まれたもの」
昼に近い時間だった。
日差しは強くも弱くもなく、
影がはっきりしている。
井戸の周りには、いつものように人がいる。
そして、その少し外側に。
石があった。
前よりも、増えている。
数が多いわけではない。
ただ、昨日よりは、確実に多い。
小さな石が三つ。
その隣に、少し歪なものがひとつ。
さらにその先に、途中で崩れた形。
どれも整っているとは言い難い。
けれど、完全にばらばらでもない。
「ここに置くと、崩れない」
子供がひとり、しゃがみ込んでいた。
手に持った石を、ゆっくりと重ねる。
少し傾く。
止まる。
「ほんと?」
別の子供が覗き込む。
同じように石を持って、試す。
うまくいかない。
崩れる。
「ほら、そこじゃないって」
最初の子供が、少しだけ位置を指さす。
ほんのわずかな違い。
もう一度置く。
今度は、止まる。
「……おお」
小さな声が出る。
大げさではない。
ただ、少しだけ驚いた。
それを見て、また一人増える。
石を探して、拾ってくる。
置く。
崩れる。
やり直す。
繰り返しの中で、少しずつ。
形が変わる。
遠くから見れば、ただの石の集まり。
近くで見れば、少しだけ整っている。
意図があるのかないのか、分からない程度に。
ユルは、井戸のそばにいた。
いつもの場所。
同じ姿勢で座っている。
石の方には、視線を向けていない。
気づいているのかどうかも分からない。
ティアナが立ち止まった。
井戸の近く。
子供たちの集まり。
石。
「……増えてない?」
小さく言う。
誰に向けたわけでもない。
少し近づいて、見る。
形がある。
整っている、とまでは言えない。
けれど、前よりは崩れていない。
「こんなに上手だったっけ…」
首をかしげる。
子供たちは、特別器用なわけではない。
昨日までは、もっと崩れていたはずだ。
答えは出ない。
理由もない。
ただ、そうなっている。
風が通る。
石の隙間を抜けて、小さな音を立てる。
ひとつの石が、わずかに揺れる。
けれど、崩れない。
子供が、それをじっと見る。
どこに置けばいいか、少し考える。
またひとつ、上に乗る。
今度は、動かない。
誰も教えていない。
誰も決めていない。
けれど、少しずつ。
形が“分かってくる”。
ユルは、目を閉じていた。
風の音だけが、届く。
石のことは、何も知らない。
興味もない。
そのまま、時間が過ぎる。
子供たちは遊び続ける。
石は増えていく。
井戸のそばに、少しだけ。
整ったものが残る。
ユルは、一度もそちらを見なかった。




