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まあいいかで世界が終わる  作者: 南蛇井


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第28話「魔王」

暗い広間だった。


 天井は高く、光は少ない。


 玉座の上に、ひとり座っている。


 魔王だった。


 周囲には、幹部たちが並んでいる。


 誰もが緊張している。


 机の上に、報告書が置かれている。


 人間側の情報。


 魔王はそれを見ている。


 ゆっくりと、目を通す。


「……静かな村」


 低く読む。


「戦闘行動、ほぼなし」


「侵攻対象としての優先度……低」


 紙を一枚めくる。


「住民のストレス値、低水準」


「生産活動、安定」


 言葉は、淡々としている。


 だが。


 魔王の指が、わずかに止まる。


「戦わない……か」


 小さく呟く。


 幹部のひとりが前に出る。


「はい」


 短く応じる。


「しかし、人間側の全体戦力は依然として——」


「分かっている」


 魔王が遮る。


 声は低い。


 だが、強くはない。


 再び、報告書を見る。


 別の紙。


 ――無為をもって整う

 ――過剰を避けよ


 見慣れない言葉。


「思想……か」


 魔王は少し考える。


 戦うことで支配する。


 それがこれまでのやり方だった。


 力で押す。

 領域を広げる。


 それが正しいとされてきた。


 だが。


 報告書の中では、別の形が示されている。


 動かない。

 無理をしない。

 それでも、崩れない。


 魔王は、しばらく黙る。


 広間に静寂が落ちる。


 幹部たちは待つ。


 次の命令を。


 やがて、魔王が口を開く。


「……動かないことで、維持しているのかもしれんな」


 低く、ゆっくりと言う。


 幹部のひとりが眉をひそめる。


「それは……」


「無理に動けば、崩れる」


 魔王は続ける。


「そういう均衡もある」


 誰もすぐには理解できない。


 戦わない。


 攻めない。


 それは、これまでの前提と逆だった。


「では……侵攻は」


 別の幹部が聞く。


 魔王は、少しだけ目を閉じる。


 報告書の言葉が、頭に残る。


 静か。

 安定。

 無駄がない。


 やがて、目を開く。


「……様子を見るか」


 短く言う。


 広間が、わずかに揺れる。


「は?」


 思わず声が出る。


 すぐに口を押さえる。


 だが、空気は変わった。


「様子を見る、とは……?」


 恐る恐る聞く。


 魔王は玉座にもたれる。


「急ぐ必要はない」


「崩れないなら、無理に崩す理由もない」


 淡々とした口調。


 幹部たちは言葉を失う。


 戦う準備は整っていた。


 計画もあった。


 それが、一言で止まる。


 誰も反論しない。


 できない。


「しばらくは、現状維持だ」


 それで終わりだった。


 命令は下された。


 広間は再び静かになる。


 誰も動かない。


 魔王は、もう報告書を見ていない。


 ただ、目を閉じる。


 遠くのことを考えるように。


 外では、風が吹いている。


 戦いは起きない。


 始まるはずだったものが、始まらないまま。


 何も起きなかった。

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