第2話「石を置いただけ」
その日は、特に出かける気がしなかった。
扉の前に座って、ユルはぼんやりしていた。
空は見ていないし、地面も見ていない。
ただ、そこにいる。
風はある。
強くも弱くもない。
時間は、たぶん流れている。
足元に石があった。
丸いのと、少し角ばったのと、小さいの。
理由はない。
なんとなく手に取る。
ひとつ置く。
もうひとつ、その上に。
最後に、小さいのを乗せる。
三つ。
それだけだった。
崩れそうでもないし、安定しているとも言い切れない。
微妙な形で止まっている。
ユルは少しだけ眺めた。
特に何も思わない。
――どうでもいい。
そのまま視線を外した。
しばらくして、立ち上がる。
何かをしたという感覚はない。
家の中に戻ると、さっきまで外にいたことすら、少し曖昧になる。
そのあと。
同じ場所に、子供がひとりやって来た。
石を見つける。
「なんだこれ」
声に出すほどでもない、小さな疑問。
指で軽く触れてみる。
崩れない。
もう一度、よく見る。
真似できそうだった。
近くに落ちていた石を拾う。
ひとつ置く。
もうひとつ、その上に。
うまくいかない。崩れる。
「むずかしいな」
でも、面白かった。
少し離れた場所で、別の子供がそれを見ていた。
「なにしてんの?」
「石、積んでる」
「なんで?」
「なんとなく」
理由はない。
それでも、もう一人増えた。
石が増える。
形はばらばらで、うまくいくものもあれば、すぐ崩れるものもある。
誰も上手ではない。
でも、やめる理由もなかった。
遠くから、村長がそれを見ていた。
子供たちが石を積んでいる。
ただそれだけの光景。
特に珍しいわけでもない。
しばらく視線を向けていたが、やがて何も言わずに歩き去った。
夕方になるころには、石はいくつか残っていた。
三つだけ、最初の形を保っているものがある。
他は崩れているか、途中でやめられている。
どれが最初だったのかは、もう分からない。
家の中で、ユルは横になっていた。
外のことは、特に考えていない。
石のことも、覚えていない。
その日も、特に何も起きなかった。




