第16話「広がる形」
午後の光が、少しだけ傾いていた。
井戸の周りには、いつものように人がいる。
そして、その少し外側に。
石があった。
前よりも、はっきりしている。
数も増えているし、形も崩れにくくなっている。
低いもの。
少し高いもの。
途中で止まっているもの。
ばらばらなのに、どこか揃っている。
子供たちが、その周りにいる。
しゃがみ込んで、石を手に取る。
置く。
揺れる。
止まる。
「そこだと崩れるって」
ひとりが言う。
「じゃあ、ここ?」
少しだけ位置を変える。
石が、安定する。
「ほら」
小さく笑う。
得意げでも、大げさでもない。
その様子を、少し離れたところから見ている者がいた。
旅人だった。
腕を組んで、じっと見ている。
視線は石に向いている。
「……これ、何かの儀式か?」
ぽつりと呟く。
近くにいた子供が顔を上げる。
「ちがうよ」
あっさりと否定する。
「遊びだけど」
それ以上でも、それ以下でもない。
旅人は少しだけ黙る。
石を見る。
形を見る。
並びを見る。
確かに、遊びにも見える。
けれど、それだけとも思えない。
整い方が、妙に落ち着いている。
無作為ではない気がする。
「……そうか」
小さく言う。
納得したようで、していない。
もう一度、石を見る。
ひとつひとつの位置。
高さの違い。
間の取り方。
理由は分からない。
けれど、意味がありそうに見える。
子供たちは、気にせず続けている。
置いて、崩して、また置く。
その繰り返しの中で、少しずつ形が整う。
誰も説明しない。
誰も決めない。
ただ、そうなっていく。
旅人は、ゆっくりとしゃがみ込む。
近くに落ちていた石を手に取る。
重さを確かめる。
形を見る。
少しだけ迷う。
どこに置けばいいのか。
子供の動きを思い出す。
さっきの位置。
わずかなズレ。
石を、そっと置く。
少し揺れる。
止まる。
崩れない。
「……おお」
小さく声が出る。
子供がそれを見る。
「そこいいね」
軽く言う。
特別な評価ではない。
ただの感想。
旅人は石を見つめる。
自分が置いた位置。
安定している形。
理由は分からない。
けれど、少しだけ分かった気がする。
もう一つ、石を拾う。
今度は、少しだけ迷いが減っている。
置く。
また、止まる。
崩れない。
井戸の周りで、人は変わらず動いている。
風も、同じように通る。
石だけが、少しずつ増えていく。
誰も止めない。
誰も意味を決めない。
それでも、形は広がっていく。
旅人は、何も言わずにもう一つ石を積んだ。




