表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まあいいかで世界が終わる  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/36

第15話「理由をつける」

午後だった。


 日差しは穏やかで、風も弱い。


 井戸の周りには、いつものように人がいる。

 少し間を空けて、それぞれが動いている。


 旅人は、その様子を見ていた。


 昨日から滞在している。


 特に理由はない。


 ただ、出るきっかけがなかった。


 井戸のそばに、村長がいた。


 いつも通りの立ち方。

 特に目立つことはしていない。


「なあ」


 旅人が声をかける。


 大きくも小さくもない声。


 村長は振り向く。


「どうした」


「この村、なんなんだ?」


 直球だった。


 遠回しにする気もなかった。


 村長は少しだけ間を置く。


 質問の意味は分かる。


 だが、答えはすぐには出てこない。


「……なんなんだ、とは?」


 一応、聞き返す。


「静かだし、落ち着くし」


 旅人は言葉を探す。


「変なんだよ」


 村長は小さく頷く。


 否定はしない。


「前からこうだったのか?」


「……いや」


 短く答える。


 それも事実だった。


 少しだけ沈黙がある。


 風が通る。


 村長は、井戸の方を見る。


 人の動き。

 距離。

 音。


 それをどう説明するか。


 言葉にするのは初めてだった。


「無理をしない、というか…」


 ゆっくりと口を開く。


 旅人は黙って聞く。


「声も、動きも」


 村長は続ける。


「必要以上に出さないようになった、というか」


 曖昧な言い方だった。


 断言はしない。


 できない。


「誰かが決めたわけじゃない」


 それははっきりしている。


「でも、なんとなく」


 そこで言葉が途切れる。


 ちょうどいい表現が見つからない。


「……そうなってる」


 結局、それしか出てこない。


 旅人は少しだけ考える。


 完全に理解したわけではない。


「なるほど…」


 それでも、頷く。


 納得したように見える。


 説明は曖昧だった。


 筋も通っていない。


 それでも、形にはなっている。


 村長は、その反応を見る。


 少しだけ驚いたような顔になる。


「……分かるか?」


「まあ、なんとなく」


 旅人は肩をすくめる。


 分かったような、分かっていないような返事。


 それで十分だった。


 村長は、もう一度井戸の方を見る。


 同じ光景。


 変わらない動き。


 さっき言った言葉が、頭の中に残っている。


 無理をしない。

 必要以上に出さない。


 完全な説明ではない。


 けれど、完全に間違っているとも思えない。


「……そういうことかもしれんな」


 小さく呟く。


 自分に向けた言葉。


 旅人はそれを聞いていない。


 もう別の方を見ている。


 風が通る。


 音は小さい。


 村長はしばらく立ったまま、何も言わなかった。


 自分で言った言葉を、少しだけ反芻する。


 やがて、ゆっくりと頷く。


 完全には分かっていない。


 それでも。


 少しだけ、納得してしまっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ