第14話「訪問者」
村に着いたのは、昼過ぎだった。
道は細く、目印も少ない。
通り過ぎてもおかしくない場所だった。
旅人は足を止める。
村を見渡す。
家がいくつか。
人の気配。
特別なものは、何もない。
「……なんだここ」
小さく言った。
誰に聞かせるでもない。
足を踏み入れる。
土の感触は普通だった。
風も、変わらない。
人とすれ違う。
視線が合う。
軽く頭を下げられる。
それだけ。
声が聞こえる。
話している。
けれど、遠い。
近くにいるのに、少しだけ離れているような感覚。
旅人は眉をひそめる。
理由は分からない。
ただ、少しだけ違う。
井戸が見える。
その周りに人がいる。
けれど、密集していない。
間がある。
水を汲む音がする。
静かに置かれる。
必要以上の音がない。
近くを通る。
誰も声を張らない。
誰も急がない。
落ち着かない、というほどではない。
落ち着く、とも言い切れない。
少しだけ、引っかかる。
ユルは、井戸のそばにいた。
同じ場所に座っている。
動かない。
旅人は一瞬だけ視線を向ける。
特に何かをしているわけでもない。
ただ、そこにいる。
それ以上は気にしない。
理由がない。
しばらく歩く。
村の中を一通り見る。
特に目を引くものはない。
それでも、足は止まらない。
急ぐ理由がないからかもしれない。
気づけば、少し時間が経っていた。
どこかに座っていたのか、
立ち止まっていたのかも曖昧になる。
風が通る。
音は小さい。
旅人は、ゆっくり息を吐いた。
肩の力が抜けていることに気づく。
「……悪くないな」
ぽつりと呟く。
来たときと、同じ場所にいるはずなのに。
見え方が少し変わっている。
理由は分からない。
説明もできない。
井戸の方を見る。
さっきと同じ光景。
同じ人の配置。
同じ距離。
それでも、さっきほど引っかからない。
旅人は荷物を下ろす。
軽く腰を下ろす。
すぐに立つつもりだった。
そのまま、しばらく動かなかった。
時間が過ぎる。
誰も急かさない。
何も起きない。
気づけば、日が少し傾いていた。
旅人は立ち上がる。
空を見る。
まだ進める時間だ。
少しだけ考える。
次の目的地。
距離。
時間。
どれも変わっていない。
それでも。
荷物をもう一度下ろす。
「……もう少し、いいか」
誰に言うでもなく、そう言った。
理由はない。
ただ、そうしたかった。
その日、旅人は村を出なかった。




